早朝の一幕と寝癖の見学会
『らんらんら〜〜ん』
『ふんふんふ〜〜ん』
『あっちとこっちをぎゅっとして〜〜』
『もぎゅもぎゅするのが楽しいの〜〜』
『そっちとこっちもぎゅっとして〜〜』
『もぎゅもぎゅいっぱいらんらんら〜〜ん』
『もっといっぱいもぎゅもぎゅするよ〜〜』
『楽しい楽しい』
『らんらんら〜〜〜ん』
そろそろ夜明け前のまだ薄暗い部屋に、楽しそうなシルフ達の即興の歌声が響いている。
しかも、レイについて来ているいつものシルフ達だけでなく、今朝は、蒼の森にいる少し大きなシルフ達までがそれは楽しそうに目を輝かせて集まって来ていて、いつものシルフ達と一緒になってレイの髪で遊んでいるのだ。
『おやおや、これはまたなかなかの芸術作品になっているなあ。何がどうなっておるのか、我には見てもさっぱり分からんぞ』
ベッドサイドに腰掛けたブルーの使いのシルフの呆れたような笑い声に、笑顔のシルフ達が一斉に振り返る。
『あのねあのね!』
『この素敵な赤毛をこんな風にして集めて〜〜』
『まずは細い三つ編みにするんだよ』
『それが出来たらこっちと一緒にして〜〜』
『もぎゅもぎゅってするんだよ〜〜』
『だからレイではないが、もぎゅもぎゅとは一体何だ』
完全に面白がる口調でそう聞かれて、シルフ達が顔を見合わせる。
『もぎゅもぎゅはもぎゅもぎゅだよ?』
『もぎゅもぎゅだもんね』
『ね〜〜〜〜!』
笑ったシルフの言葉に、他のシルフ達も笑いながらそう言って頷く。
『まあ、よく分からんが楽しそうでよいか』
コロコロと笑うシルフ達を見て、苦笑いしているブルーの使いのシルフだった。
「う、うん……」
その時、右向きになって枕に抱きついていたレイが小さくうめき声を上げてゴロリと寝返りを打つ。
突然の動きに慌てたシルフ達が手を離して上へ逃げる。
しかも、何人かは逃げ損なってレイの体や顔の下敷きになっていたが、すぐに笑いながら出てくる。
基本的に実体を持たないシルフ達には、人の子の体は通り抜けられるので下敷きにされてもなんら問題はない。
『びっくりしたね〜〜』
『びっくりびっくり』
『せっかくの編みかけが〜〜』
『下側になっちゃったね』
しかし、レイの周りに集まったシルフ達が困ったようにそう言ってレイの頭上を飛び回り始めた。
『じゃあこっちをする!』
『仕方がないものね』
『うんうん』
『仕方がないよね!』
何故か楽しそうにそう言ったシルフ達は、またレイの周りに集まって反対側の髪をせっせと編んだり絡めたりし始めた。
『ふむ。もうそろそ時間だな。起こしてやりなさい』
『は〜〜〜い!』
外が明るくなって来たところでブルーの使いのシルフがそう言い、張り切ったシルフ達が一斉に元気な返事をしてからレイの頬を叩いたり、こめかみの三つ編みを引っ張ったりし始めた。
「う、うん……」
嫌がるように眉間に皺を寄せたレイが、小さくうめいて枕に顔を埋める。
『時間ですよ〜〜!』
『起きてくださ〜〜い!』
『時間ですよ〜〜!』
それでも耳たぶを引っ張ったりこめかみを叩いたりして、張り切って起こすシルフ達。
「うん、起きるよ。ふああ〜〜」
手をついて起き上がったレイが、ベッドに座って伸びをしながら大きな欠伸をする。
『おやおや、吸い込まれそうな大きな欠伸だな。おはよう。今日も良いお天気のようだぞ』
笑ったブルーの使いのシルフが、そう言いながらふわりと飛んできてレイの右肩に来て座り、その柔らかな頬にそっとキスを贈った。
「あ、おはようブルー。ちょっと眠いけどもう起きるよ。今日は良いお天気なんだね。良かった」
笑ってブルーの使いのシルフにキスを贈ったレイは、そう言ってもう一度伸びをしてから立ち上がって洗面所へ向かった。
「あはは、何この頭! しかもいつもより酷くない? ちょっとブルー! 見ていたのなら止めてよね。ここにはラスティもアルベルトもいないのに!」
洗面所から聞こえたレイの叫びに、ブルーの使いのシルフが吹き出す。
ちょうどその時、軽いノックの音がした。
「はあい、もう起きてますよ」
当然、昨夜の執事が来てくれたのだと思い洗面所からそう返事をして顔を出した。
しかし、開いた扉から入って来たのは、白服に身を包んだルークとヴィゴとニコスとギード、その後ろにいたのは普段着姿のタキスと困った顔の昨夜の執事。そして、最後にいたのは白服に身を包んだ陛下だった。
最後の一人が誰かに気づいた瞬間、レイが声に鳴らない悲鳴を上げて洗面所に飛び込む。
「待ちなさい。せっかく噂の寝癖を見学に来たのだから、よく見せてくれ!」
満面の笑みの陛下の言葉に、ルークとヴィゴだけでなくタキス達までが揃って吹き出す。
「ご勘弁ください!」
そして、洗面所からもレイの堪えきれない笑う声と叫ぶ声が聞こえて来たのだった。
しばしの抵抗の後、ルークとヴィゴの二人がかりで洗面所から引っ張り出されたレイの芸術的な寝癖を見た陛下は、思いっきり吹き出してから大爆笑になり、最後には笑いすぎてその場に座り込んで執事を慌てさせていたのだった。
もちろんレイを含めた全員もそれを見て揃って吹き出して大笑いとなり、しばらく部屋からは笑う声が途切れなかったのだった。
そして、そんな彼らを見て大喜びで胸を張るシルフ達だった。




