蒼の森への道中の遊び
「じゃあ行こうかブルー」
全員を背に乗せてから、レイがそう言ってそっとブルーの首元を叩く。
「うむ、シルフ達に守らせておる故落ちる心配はせずともよいが、急に動いたりはせぬようにな」
「もちろん心得ております。蒼の森まで、よろしくお願いいたします」
タキスの声に、ブルーは笑うかのように目を細める。
翼を大きく広げてゆっくりと上昇したブルーは、お城の上空を何度か旋回してからさらに上昇していき、それから北西方面へ向けて飛んでいった。
先に上がっている陛下の乗るルビーやルークとヴィゴの乗るオパールやガーネットは、一旦真っ直ぐに北上しているので、地上から見ていた人達には、ブルーとは別行動だと思われているだろう。
「オルダムの街も見納めだな。いやあ、それにしても見事なまでにごちゃごちゃだな」
お城の上空を旋回していた時に聞こえたギードの呆れたような呟きに、タキスとニコスが同意するように笑っている。
「何度乗せていただいても、この空から地上を見下ろす眺めは、本当に感動するなあ」
そして思わずといった風に背後から聞こえたニコスの嬉しそうな呟きに、レイも笑顔になる。
「僕にはもう見慣れた景色だけど、確かに空から見ると綺麗だよね……次に、皆と一緒に飛べるのは、いつになるんだろうね」
最後はごく小さな呟きだったが、全員の耳に届いていた。
「貴方には、本当に感謝しかありません。レイ、私達の家族になってくれてありがとうございます。これからもずっと、住む場所は離れていても、心は共にありますよ」
レイの背後に座ったタキスが、そう言ってぎゅっとレイを抱きしめてくれる。
「うん、大好きだよ。僕の方こそ、家族になってくれてありがとう。皆がいなかったら、僕はもう今頃生きていないだろうからね」
レイは自分を抱きしめるタキスの腕をそっと左手で握ってから、そう言って笑う。
黙って自分を抱きしめる腕に力が隠るのが分かって、振り返ったレイは涙を浮かべているタキスの額にそっと想いを込めたキスを贈ったのだった。
そのまましばらく飛んで、先に上がっていた陛下やルーク達と合流した後は、街道からかなり北側に離れた上空を並んで西へ向かって飛んでいった。
今回は、街にも砦にも立ち寄らずにそのまま蒼の森へ向かうので、レイ達は空を飛んでいる竜の背の上に座っているだけで何もする事が無い。
しかも眼下に見えるのは、鬱蒼と広がる深い森と時折見える草原や大小の湖くらいで変わり映えしない。
退屈したレイは途中でうっかり寝そうになり、笑ったニコスのシルフ達にこっそり起こされていたのだった。
「ねえ、退屈だからしりとりでもしない?」
このままだともう一度寝てしまいそうで、少し考えたレイは背後を見ながらそう言ってみる。
「良いですね。お付き合いしますよ」
「しりとりか。良いなそれ」
「おお、しりとりとは面白そうだな」
同じく退屈していたタキス達がそう言ってくれた。
『おおそれは楽しそうだな。ぜひ私も参加させてくれ。退屈していたからな』
張り切ったレイが一番に口を開こうとした時、耳元で嬉しそうな陛下の声が聞こえて慌てる。
この距離ならば、声飛ばしで普通に会話が出来る。なので、逆に言えばお互いの会話は意図して結界を張るなどしない限り、基本的に丸聞こえなのだ。
『良いなそれ俺も参加させてくれよ』
『俺も参加するぞ』
そして、同じくらいに退屈していたルークとヴィゴにまで参加表明されてしまい、声が聞こえていた事に今更ながら気付いたレイとタキス達が揃って大慌てになったのだった。
「じゃあ僕が一番ね。えっと、じゃあ、キリル」
結局、陛下を含む全員でする事になり順番はレイ、タキス、ニコス、ギード、ルーク、陛下、ヴィゴの順番になった。
「る、ですか……では、ルチルクオーツ、でどうですか?」
「つ、か。では爪」
「め、か。では……メジャー」
ギードがそう言ったところでルークが吹き出す音が聞こえた。
『この場合、じゃ、で良いんですよね?』
「うん、いいよ〜〜!」
ギードが答える前に、レイが嬉々としてそう返事をする。
『では、ジャガイモ!』
笑ったルークがそう言った直後、陛下の困ったようなうめく声が聞こえた。
『も? も、も?……あ! モモ!』
最後は得意そうにそう言い、ルークとヴィゴが揃って吹き出す。
『では、毛布』
娘達とこういった遊びはよくしていたヴィゴが、すぐにそう答える。
「ふ、だね。じゃあ、えっと、あ、筆箱!」
嬉々としたレイの言葉に、タキスが笑って氷と答える。
「ええ、また、ふ、なの?」
またしてもヴィゴの言葉に、レイが困ったように口を尖らせる。
他の人は皆、普通に色々な言葉を繋いでいるのだが、何故かヴィゴの答える言葉が毎回、ふ、で終わるのだ。
困るレイを見て笑っているので明らかにわざとだ。
「えっと……ふ、ふ、笛」
『それはもう言ったぞ』
笑ったヴィゴの声が耳元で聞こえて、レイが悲鳴を上げる。
「服!」
「それはさっき言いましたね」
こちらも笑っているタキスにそう言われて、もう一度悲鳴を上げる。
「あ、不機嫌!」
今の自分の気分がまさにそれだったので、得意げにそう言った直後に、ん、で終わった言葉だった事に気がついてもう一度悲鳴を上げて、左手で顔を覆う。
『終わった!』
笑ったルークにそう言われた直後、レイ以外の全員が揃って吹き出す。
『成る程。しりとりにはこういう遊び方もあるのだな。勉強になった。では近い将来、孫と遊ぶ際の参考にさせていただくとしよう』
『陛下。これをすると子供は確実に泣きますので参考にしてはなりませんぞ。これは、レイルズのようにある程度以上の年齢の相手限定の遊び方です』
大真面目な陛下の言葉に慌てたようにヴィゴがそう言い、今度はレイも加わり全員揃って思い切り吹き出したのだった。




