レイの苦手なもの
「おかえり〜〜これで無事に全員が元に戻ったね」
いつもの髭に戻ったギードが最後に洗面所から出てきたところで、ふわふわな自分の赤毛を引っ張ったレイがそう言って笑う。
「いやあ、それにしても笑わせてもらったなあ。まさかの、俺達の髪までおもちゃにされるとはね」
「そうですね。まさかの私の髪まで全部三つ編みには、冗談抜きで大笑いさせてもらいましたよ」
ベッドに座ってまだ笑っているニコスの言葉に、同じくベッドに座ったタキスも笑いながらそう言い、隣に座るレイにもたれかかった。
「はあ、シルフ達の悪戯のおかげですっかり目が覚めちゃったけど、まだ起きるにはちょっと早い時間かな。それに、本部の朝練にタキス達が参加するわけにはいかないから、早朝の朝練は無しだね」
タキスがもたれているのとは反対側の腕を上げて肩を回しながら、ちょっと残念そうにそう言ったレイがようやく明るくなってきた窓の外を見る。
「さすがに一般兵と一緒の朝練は無理ですが、運動をご希望なら、第二訓練所を開けますが、いかがなさいますか?」
普段のレイ達が朝練を行なっているのは、本部の中にある第一訓練所、通称、訓練所だが、もちろんそれ以外にも兵士達が運動するための部屋が幾つもある。
その中で第二訓練所は比較的少人数での運動や訓練をする為の部屋で、怪我の後のリハビリを含む自主練や何らかの特定の運動や訓練をする際などに使われる事が多い。
「ああ、いいね。じゃあお願いします」
驚くタキス達が何か言うよりも早く、笑ったレイがそう言って立ち上がる。
「あのね! 第二訓練所は、僕がここへ来てから皆に色んな武術を教えてもらった場所なんだよ。格闘術と棒術の基礎は、蒼の森のお家にいた頃にニコスとギードから基礎的な事は教えてもらっていたけど、剣についてはそれほど知らなかったし、槍や弓なんかは扱い方そのものさえ全く知らなかったからね。特に弓は苦労したんだよ。実を言うと、今でも弓術は、出来なくはないんだけど、ちょっと苦手なんだよね。一応、及第点はもらえているんだけど、剣や槍の方がずっといい」
少し恥ずかしそうなその言葉に、ギードが驚いたようにレイを見る。
「其方の体格ならば、充分に弓を引けると思うが、苦手とな」
「えっと、もちろん今はかなりの強弓でも引けるようにはなったよ。でも、根本的に命中率低いの! 的に当たらないの! 特に、速射が駄目」
いっそ開き直ったレイの素直な叫びに、ギードだけでなくニコスとタキスも吹き出す。
「では、その第二訓練所で一通りの運動をした後に、其方の弓の扱いを見せてくれるか。もしかしたら、何か教えてやれるかもしれんからな」
元冒険者であり、今でも狩りの際にはかなりの強弓を使うギードが、そう言いながら笑って弓を引く振りをする。
「うん! 是非お願いします! ブルーからも、こう言うのは数を打つしかないって言われて、定期的に打ち込みの訓練は今でもしているよ」
笑ったレイも、そう言いながら両手で弓を引く振りをした。
「剣術や格闘術、棒術辺りなら俺も少しは教えてやれるが、弓は俺もそれほど得意ではないな。確かに弓を教えられるのは、俺達の中ではギードくらいだな」
苦笑いしたニコスの言葉に、タキスも笑って頷く。
「私はそもそも、弓なんておもちゃ以外持った事すらありませんよ。ああ、そういえば花祭りの際に、広場に出ていた屋台で的当てなら何度かやった事がありますが、結果は散々でしたね。これは私よりもアーシアの方が上手かったですよ」
「ああ、本格的な弓術と違って、的当てなんかは女性の方が上手いって話はよく聞くぞ」
笑ったギードの言葉に、タキスが驚いたようにギードを見る。
「女性の方が腕力も握力も低いでしょうに、それなのに女性の方が上手なのですか?」
「おう、屋台の的当てなどは弦もゆるゆるだし、そもそも矢が真っ直ぐではない事すらあるぞ。なので力のある男性の方が、引き方が不自然になってまともに引けぬのだよ。逆に女性の方が素直に引けて真っ直ぐ飛ぶ事が多い。まあ、もちろん女性でも弓を引ける程度の力は必要だがな」
「ああ、成る程。確かに弦はゆるゆるでしたね」
ギードの説明に立ち上がったタキスが笑っている。
「ああ、思い出しました。花祭りに一緒に行った時に、エイベルに景品の木彫りの鳥が欲しいと言われて挑戦したんですが、全然駄目で大変だったんですよね」
「ええ、エイベルが欲しがるって、どんな鳥? それは取れたの?」
同じく立ち上がったレイが、目を輝かせてタキスを覗き込む。
「小さな白鳥でしたね。それがもう、何度やっても全然かすりもしなかったんです。でも、その時一緒に行っていた師匠が、見兼ねて代わってくださったんです。そうしたら、何とたった一回で見事に目的の鳥を落としてくれたんですよ。エイベルは大喜びしていましたよ。ああ、ありがとうございます」
白服を持ってきてくれたラスティにお礼を言い、とにかく着替える。
「じゃあ行こうか。えっと無理は禁物だからね」
「そうですね。今になって怪我でもしたら大変ですから」
タキスの言葉に、レイだけでなくニコスとギードも笑って何度も頷いている。
午後からは、ルビーに乗った皇王様と一緒に森へ帰るのだ。
さすがに怪我は勘弁願いたいと、全員が本気で思っていたのだった。




