幸せで大切な時間
「ええ! また奥殿への御招待……ですか?」
驚くタキスに、レイがにっこりと笑って頷く。
「そうだよ。帰る前にもう一度会いたいっておっしゃられて、今回はマティルダ様とティア妃殿下の連名でのご招待だって聞いたよ。きっと、ティア妃殿下がニコスにもう一度会いたがったんだと思うな」
「おお、それは俺も嬉しいが……この前奥殿に伺わせていただいた際にも思ったが、もうかなりお腹が大きくなっておられたが、大丈夫なのか? 大事な時期だろうに」
心配そうなニコスの言葉に、タキスが笑顔で首を振る。
「確かに、お腹はもうかなり大きくなっておられましたね。ええと確か……お生まれになるまであと三ヶ月ほどだ聞いた覚えがありますので、それなら今は安定期でしょうから大丈夫ですよ。外出もままならないご身分ですから多少の気晴らしも必要でしょうね。ニコス、せっかくのお招きなのですから、行ってゆっくり話し相手になって差し上げてください」
ここは医者の顔になったタキスにそう言われて、苦笑いしつつニコスも笑顔で頷く。
「そうだな。もちろん、俺もティア妃殿下にお会い出来れば嬉しいよ。それにしても、あの小さかった姫様が、もう母親になられるなんてな……本当に人の子の成長の早さには驚かされてばかりだよ」
目を閉じたニコスのしみじみとした呟きに、タキスとギードも笑顔で頷き合っていたのだった。
「それじゃあおやすみなさい。皆に明日もブルーの守りがありますように」
お茶をいただきながら少し話をしたところで、もう遅いので今夜は休む事にした。
「ええ、おやすみなさい。明日も貴方に蒼竜様の守りがありますように」
笑顔のレイの、いつもの夜の挨拶にタキス達も笑顔で応える。
それから、手を振って部屋に戻るレイをタキス達は笑顔で見送った。
「はあ、では明日は午前中はゆっくりして良いとの事ですので、書斎でまた本読みでしょうかね」
ため息を吐いたタキスの呟きに、ニコスとギードも苦笑いしつつ頷く。
「そうだな。さすがに午前中だけなら、城の図書館まで行って帰る時間が勿体無いわい」
ギードの言葉に、タキスとニコスも同じ事を思っていたので揃って頷き合ったのだった。
「はあ、あと二日で帰っちゃうなんて、分かっていても寂しいなあ」
部屋に戻ったレイは、部屋に入るなり小さな声でそう呟いてソファーに体を投げ出すようにして座った。
そのまま背もたれに体を預けて天井を見上げる。
呼びもしないのに集まってきていたシルフ達が、レイの視線に気付いて笑顔で揃って手を振ってくれる。
「君達はいつも元気だね。ふああ、ちょっと眠くなってきたや」
大きな欠伸をするレイを見て、シルフ達が揃って欠伸をする振りをする。
「はあ。このままだと冗談抜きでここで寝ちゃいそうだ。それじゃあ、まずは湯を使ってくるね」
そんなシルフ達を見て笑ったレイは、一つため息を吐いてから立ち上がり、襟元のボタンを外しながら湯殿へ向かった。
その後を追いかけて行ったシルフ達に髪を引っ張られつつ、のんびりと湯を使って温まってから休んだレイだった。
翌日、いつもの時間に張り切ったシルフ達に起こされたレイは、眠い目を擦りつつ起き出し、相変わらずの寝癖をラスティ達に直してもらってから白服に着替えた。
「あれ、せっかくなんだからゆっくり休んでいればいいのに」
廊下へ出たところで、白服を着た三人が揃っていたのを見て驚く。
「言っただろう? ちょっと冗談抜きで、ここへ来てから腹周りが大きくなった気がするからね。それに、体を動かす事自体を思い出しておかないと、帰った時に、いきなり働いて筋肉痛になったりしたら洒落にならんからな」
苦笑いしたニコスの言葉に、タキスとギードが揃って吹き出す。
「あはは、確かにそうだね。じゃあ一緒に準備運動からだね」
笑顔になったレイが嬉しそうにそう言い、四人並んで裏庭へ向かう。
まずはしっかりと準備運動をして身体を解してから、四人で走り込みを行う。
しっかり走って一休みした後は、タキスも加わり木剣での素振りを行う。
ここまではタキスも一緒に参加したが、この後の木剣での手合わせと乱取りは、さすがに武術の心得のないタキスは参加出来ないので、ここからはレイとニコスとギードの三人で行う。
用意された座り心地の良い椅子に座ってそんな三人を見学していたタキスは、嬉しそうに目を細めて何度も頷きつつ、張り切って二人と手合わせする元気なレイをずっとただただ見つめていたのだった。
「はあ……この時間が永遠に続けばいいと本気で思ってしまいますね。今になって、今になってこんなにも幸せで大切な時間を、ここオルダムで過ごせる日が来るなんて、本当に長生きはするもんですね。ねえ、エイベル。ねえアーシア。今の私はこれ以上ないくらいに幸せですよ。貴方達に申し訳ないくらいに……貴方達にもう一度会いたいですねえ……今なら、話したい事が沢山ありますよ」
密かなため息と共に小さな声で呟かれたその幸せな言葉を聞いたのは、ブルーの使いのシルフとニコスのシルフ達、それから周りにいたシルフ達だけだった。




