手配の完了?
「はい、急な事で本当に申し訳ありませんが、どうか、受け入れの手配準備をよろしくお願いします」
ずらりと並んだシルフ達に向かって、ニコスがそう言って深々と頭を下げる。
大きなソファーにニコスを挟んで一緒に並んで座って大人しく話を聞いていたタキスとギードも、それに合わせて神妙な顔で一緒に深々と頭を下げた。
『ご依頼の件』
『確かに承りました』
『頼っていただけて光栄です』
『改めて息子と連絡を取り』
『すぐに陛下をお迎えする段取りを取らせていただきます』
『今後につきましては』
『万事我らにお任せください』
胸を叩く先頭のシルフの言葉に、ようやくニコスの顔も笑顔になった。
「はい、心強いお言葉をありがとうございます。もしも何か分からない事や確認事項があれば、いつでも遠慮なく私宛にシルフを飛ばしてください」
『かしこまりました』
『それでは急ぎ準備を始めます』
「あの、タキスです。会った事もない伯爵様に、こんな無理な事を急にお願いして本当に申し訳ありません。どうか、どうかよろしくお願いします」
顔を上げたタキスが、横から慌てたように先頭のシルフに早口でそう話しかける。
『いえとんでもございません』
『息子から話を聞いた時には』
『正直に申し上げると』
『それはもう本当に驚きましたが』
『エイベル様のお父上に頼っていただけるとは』
『光栄の至りにございます』
『万事お任せください』
居住まいを正すシルフが伝えるシルカー伯爵の言葉に、タキスも笑顔で大きく頷く。
高位の伝言のシルフと話をする際には、普段よりも動きを大きくした方が相手に伝わりやすい。
伝言のシルフが簡単な体の動きも伝えてくれるからだ。
『ではこれにて失礼します』
改めて一礼した伝言のシルフがそう言い、順番に立ち上がってくるりと回って消えていく。
全員が消えるまで無言で見送り、完全に消えたのを確認したところでニコスが大きなため息を吐いて両手で顔を覆い、ソファーの背もたれに体を預けてもたれかかった。
「はあ、とりあえずこれで急拵えとはいえ何とかなるだろう。ああ、本当に良かった……」
石の家にいる時と違いオルダムに来て以降は、普段でも決して気を抜くような事をしなかったニコスだが、さすがに今は完全に気が抜けて脱力している。
そんなニコスの心の底からの安堵の呟きに、タキスとギードも顔を見合わせてから揃って安堵のため息を吐いたのだった。
先ほどの伝言のシルフの相手は、ブレンウッドに住むシルカー伯爵本人で、蒼の森にいるシヴァ将軍からの連絡を受け急遽こちらに連絡してきてくれたのだ。
当然のように高位の伝言のシルフを寄越してきたのだが、その際には、実際に動いてくれる伯爵家の筆頭執事を同席させる徹底っぷり。
それを受けて急遽、こちらからも奥殿から派遣されている執事が立ち会ってくれて、石の家の部屋の様子や物の置き場所などについてはニコスも加わり詳しく説明して、その結果、実際の詳しい手配の段取りとそれに関する今後のやり取りは、彼らが直接してくれる事になった。
おかげで、ニコスはもうこれ以上、これに関しては心配しなくてもよくなったのだ。
ここで改めてタキスがシルカー伯爵と挨拶を交わし、少し自己紹介的な話をしての今である。
しかし、シヴァ将軍から、タキス達が今後も貴族社会に関わるつもりが一切ない事を伝えられているので、伯爵本人も、今後について彼らに何か言うような事は一切していない。
そもそも今回の一件はあくまでも内密の事なので、実際にはこれを手伝ったからと言って伯爵本人になんらかの利があるような事も一切ない。
とは言え、今回の件が上手く無事に終われば、皇族からシルカー伯爵家への信頼度が増すのは間違いない事だろうが。
「はあ、私もこれで安心出来ましたよ。それにしても、こんなところでエイベルの父親だということが役に立つとはねえ……シヴァ将軍のおっしゃる通り、シルカー伯爵閣下が良いお方だったようで、これについても安心しました」
同じくソファーの背もたれに体を預けたタキスの呟きに、ニコスはまだ顔を覆ったまま無言でこくこくと頷いていた。
「まあ、良かったではないか。とりあえずこれで今夜は安心して眠れそうだわい」
笑って肩をすくめるギードの言葉に、ようやく体を起こしたニコスとタキスは、揃って顔を見合わせてから乾いた笑いをこぼしていたのだった。
「それと、忘れておるようだが、そもそも其方がエイベル様のお父上でなければ、陛下が蒼の森へ行きたいなどとはおっしゃるような事は無かったと思うがな」
完全に面白がる口調のギードの言葉にニコスとタキスが揃って吹き出し、部屋は笑いに包まれたのだった。




