人の繋がり
「ただいま戻りました〜〜〜」
その日、もう深夜になろうかという時間になってから、ようやくレイが瑠璃の館に帰ってきた。
「おかえりなさい。ずいぶんと遅かったんですね」
今夜は、夜会は無いと聞いていたが違ったのだろうか。
玄関まで出迎えた笑顔のタキスの言葉に、レイは苦笑いしながら首を振った。
「その予定で聞いていたんだけどね。結局、お茶会の時に夜会の予定が無いのなら是非にって誘われてしまって断れなかったんだ。それで竪琴の演奏と、合唱の倶楽部の皆さんと一緒に歌も歌ってきたよ」
「それはお疲れ様でしたね」
笑って頷き合い、そのまま一緒に館の中へ入る。
「早めの夕食を食べたきりで、夜会ではあまり食べられなかったの。ちょっと小腹が空いているんだけど、何かありますか?」
「はい、パンケーキをご用意しておりますので、まずはお召替えを」
廊下を歩きながらレイにそう言われ、当然、その事はラスティから事前に知らされていたアルベルトは笑顔でそう答えて頷く。
「ありがとうね。じゃあ着替えてきます」
「おう、では我らは先に部屋に行っているよ」
「はあい、じゃあまたあとでね」
笑ったレイに手を振り、彼が部屋に戻るのを笑顔で見送ってから顔を見合わせて笑顔で頷き合ったタキス達は、執事に伴われていつもお茶を飲む部屋へ向かった。
「はあ、お疲れ様。そう言えば陛下が石の家へお越しになるって話はあのあとどうなったんだろうね。シヴァ将軍に準備をお願いするって言っていたけど、大丈夫かなあ」
どう考えても、そもそもシヴァ将軍は執事達に世話を焼かれる側であって、世話をする側ではない。
それとも、貴族の当主ならばそんな事も知っていて当然なのだろうか?
部屋着に着替えながら、密かに首を傾げるレイだった。
『心配せずとも、其方の家族と周りの皆が周到に準備を整えてくれているので大丈夫だよ。恐らく、あとで彼らの口からその話をしてくれるだろうから、しっかりと聞いておきなさい』
ブルーの使いのシルフがテーブルの上に現れて、笑いながらそう教えてくれる。
「そうなんだね。じゃあ、あとで聞いておこうっと」
納得したように笑ったレイは、着替えを終えてラスティと一緒にタキス達の待つ部屋に向かった。
「お疲れ様でしたね。私達はワインをいただきますので、あなたはしっかり食べてくださいね」
「ええ、僕だけお茶なの〜〜」
笑ってそう言ったレイは、隣の席に座ったタキスのワイングラスをそっと指先で突っつく。
「でも、僕は夜会でたくさんワインをいただいたからお茶でいいです〜〜」
「おや、そうなんですか。あまり酔っている様子が無いので、夜会ではそれほど飲まなかったと思っていたんですが?」
驚いたタキスが、横からレイの顔を覗き込む。
「えっと、途中でかなり酔っ払っちゃったから、手洗いに行く振りをしてブルーに回復してもらったの」
当たり前のようにそう言われて、タキスだけでなくニコスとギードも驚いたようにレイを見る。
「あれ、言った事なかったっけ? えっと、ブルーが使う精霊魔法で、酔いを覚ましてくれる方法があるんだよ。僕、何度もお世話になってるんだよね」
ああ、あれか。という顔になった三人を見たブルーの使いのシルフが、苦笑いしながら頭上を見る。
そこには数え切れないくらいのシルフ達と光の精霊達がこっちを見ていた。テーブルの上や足元には同じく大勢のウィンディーネ達の姿もある。
『そうそう。これくらいの精霊達を同時に扱えれば、其方達にも扱える程度の術だよ』
「「「だからそんな無茶を言わないでください!」」」
面白がるようなブルーの使いのシルフの言葉に三人の悲鳴のような叫びが重なり、レイは堪え切れずに思い切り吹き出したのだった。
そのあと、レイはパンケーキをいただきながら、あの後の大騒ぎとその後始末についてニコスから詳しい話を聞いた。
「へえ、シヴァ将軍の弟さんの奥様が、ブレンウッドの地方貴族のシルカー伯爵の娘さんで、シルカー伯爵が受け入れ準備を手伝って下さった。ううん、人の繋がりって本当に凄いんだね」
無邪気に感心するレイに、ニコス達も揃って苦笑いしていたのだった。
『一応念の為、シルフ達を通じてその伯爵本人の為人について調べさせてもらったが、基本的に大真面目で、どちらかというと冗談が通じぬほどのお堅い人物らしい。そのせいで周囲からは少々鬱陶しがられている程の人物のようだな。だがまあ、今回は逆にその生真面目さが信頼の元にもなったのだから、良いではないか』
「おお、真面目そうなお方だは思っておりましたが、それ程とは。ですがそれならば、伯爵閣下の口からこの事が第三者に迂闊に漏れる心配はしなくてもよさそうですね」
こういった貴族の裏での色々について詳しいニコスの言葉に、ブルーも同じ事を考えていたので苦笑いしつつ頷いていたのだった。
そういった裏事情には全く考えが及ばないレイは、無邪気に感心しつつ、シルカー伯爵に自分からもお礼のお手紙を描いたほうがいいのだろうかと、割と真剣に悩んでいたのだった。




