必死の打ち合わせ
「どう思いますか? 一応、こちらからもシヴァ将軍やアンフィーに連絡すべきでは?」
とりあえず瑠璃の館へ戻ったタキス達は、一旦各部屋に戻って部屋着に着替えてからタキスの部屋に集合した。
ため息を吐いてソファーに座るタキスの言葉に、向かいのソファーに座ったニコスとギードも揃ってため息を吐いてから頷いた。
「そうだな。とりあえず連絡だけでも先にしておこう。色々とお願いしなければならない事もあるが、それは後だ。シルフ、蒼の森にいるシヴァ将軍閣下を呼んでくれるか」
しかし、現れたシルフは困ったようにニコスを見て首を振った。
『今他の人とお話し中だよ』
『だから今は駄目なの』
「もしかしたら、殿下やマイリー様とお話をされているのかもしれませんね」
それを見ていたタキスの言葉に、苦笑いしたニコスも頷く。
「確かにそれっぽいな。仕方がない。じゃあ、そちらのお話が終わったら呼んでくれるか」
『了解了解』
笑ったシルフは、そう言って一旦消えてしまった。
「とりあえずお茶にしよう。なんだかものすごく疲れたよ」
顔を見合わせて揃ってため息を吐く三人を見て、本部で何があったのかまだ知らないアルベルトや執事達は、心配そうにしつつも特に横から何か聞くような事はせず、黙って手早く紅茶を用意したのだった。
「お、終わったかな?」
とにかく紅茶をいただいて一息ついたところで、何故かニコスではなくタキスの前にシルフが一人現れて座った。
『タキス殿シヴァです』
「おやおや、こちらから連絡するつもりが、向こうから来ましたよ。どうしますかニコス。こちらから改めて連絡したほうが話しやすいですよね」
シルフの口から聞こえた言葉に、笑ったタキスがそう言いながらニコスを見る。
「そうだな。すまないがそうしてもらえるか」
苦笑いしたニコスの言葉に笑って頷いたタキスは、目の前のカップの横に座ったシルフに話しかけた。
「タキスです。まさに今そちらへ連絡しようと思っていました。申し訳ありませんが、我らは高位の声飛ばしが使えますので、一旦切ってこちらから改めて連絡仕直しさせていただいてもよろしいでしょうか?」
『かしこまりました』
『そのほうが楽に話せますね』
『ではお手数ですがよろしくお願いします』
そう言って立ち上がったシルフは、その場でくるりと回って消えてしまった。
今シヴァ将軍が使ったのは、伝言の小枝の上位版、伝言の木と呼ばれるもので、枝を折れば伝言の術と同じようにシルフを通じて会話をする事が出来る。
だが、伝言の術と同じであくまでも一対一の短い言葉での会話のみであり、あまり長い言葉は伝えきれない場合もある上に、作るのもかなりの時間を要する為に使い所は限られる。もちろん伝言の小枝と同じで使い捨てだ。
主に、伝言の術を使える者が近くにいない緊急時などに連絡を取る際に使われる程度だ。
こちらは上位の声飛ばしを使えるのだから、無理にそんな物で会話する必要はない。
「シルフ、蒼の森のシヴァ将軍閣下を呼んでくれるか」
伝言のシルフが完全に消えたのを確認してから一呼吸おいて、改めてニコスがシルフ達にそう言った。
すぐに複数のシルフ達が現れてテーブルの上に並んで座る。
『はいこちらシヴァです』
『何やら大変な事になっていますね』
もちろん話すのはシルフ達の声だが、明らかに戸惑っているのが分かるその言葉にタキス達が揃って大きく頷く。
「ニコスです。同じ部屋にタキスとギードもいます。ええ、お聞きの通り大変な事になりました。出来ればひと足先に帰りたかったのですが、三日後と言われてしまえば先に帰る事も出来ませんからね」
『ええ私も先程殿下から詳しく伺いましたが』
『もう椅子から転がり落ちるくらい驚きましたよ』
『しかも準備と言われましても』
『何をどうすればいいのか』
『私にはさっぱり分かりません』
『ご指導いただけますかニコス』
先頭のシルフが、肩をすくめながら困ったようにそう言って首を振る。
「ええ、まさにそれについて話をしようと思っていました。まず、シヴァ将軍のお泊まりになっている部屋から見て廊下の左奥、一回り大きな扉のある部屋があるのが分かりますか?」
『ええ分かります』
「その部屋が来客用の特別室で、以前アルス皇子殿下にもお泊りいただいた部屋になります」
納得するかのように頷く伝言のシルフを見て、ニコスは困ったようにため息を吐いてから首を振った。
「一応、日常的な掃除はしてありますが、それだけです。それに、今は廊下の反対側奥にある他の部屋に、ロディナからお越しになった皆さんがお泊まりになっていますよね」
ニコスの言葉に、先頭の伝言のシルフが手を打って立ち上がった。
『そう! それについても聞きたかったんです』
『どうすればいいですか?』
『陛下がお泊まりになる部屋の並びに』
『市井の出身の一般職員達や下級兵士を』
『泊まらせてもいいものでしょうか?』
大きなため息を吐いたニコスは、両手で頭を抱えた。
「いくら陛下がいいとおっしゃってくださったとしても、保安上の問題がありますので、その並びにお泊まりいただけるのは、その中ではシヴァ将軍閣下までです。アンフィーも駄目です」
『ですよね』
『ううんこれは困った』
『今回は特に畑仕事と家畜や騎竜達の』
『お世話を第一に考えていましたから』
『そういった貴族のお世話に関する知識のある者は』
『一人も連れて来ていないんですよね』
頭を抱える伝言のシルフを見て、ニコスも困ったようにため息を吐いた。
「そうなりますよね。なあギード。そっちの家の客間はどうなっている?」
顔を上げたニコスの言葉に、少し考えたギードは笑って頷いた。
「今回お越しくださっているロディナの皆様とアンフィーなら、泊まってもらえるくらいに客間の数はあるぞ。だが、いくつかの部屋は閉め切ったままでしばらく掃除もしとらんから、使う前に掃除と換気をしてもらわねばならんがな」
『良かった。その程度なら問題ありませんよ』
安堵するかのようなため息と共にシヴァ将軍の言葉を伝える伝言のシルフに、ギードが笑って頷く。
「ワシの家の方の客間の場所と鍵の置き場所は、アンフィーが知っておりますので彼に聞いてください。毛布やシーツなどの置き場も彼が知っとります」
以前から何度か、炉に火を入れてミスリルを打った際に、アンフィーに手伝ってもらった事がある。
その際に、汗を流したり休んでもらえるようにいつも客間を使ってもらっていたので、備品の置き場や、客間がどこからどこまでなのか、また客間の各部屋の鍵をまとめてある鍵の置き場を知っているのだ。
彼に、鍵の置き場所と客間がどこなのかなどを教えておいて良かったと、心の底から思ったギードだった。
「となると、やはり問題は陛下がお泊まりになる事への対応と事前準備だな……はあ、どう頼めばいいのか考えただけで気が遠くなりそうだ。俺だって正直言って泣きたいよ」
腕を組んだニコスの呟きに、タキスとギードも真顔になる。
『そもそも私も執事達に世話をされる側ですから』
『皇族の方がお泊まりになる際に』
『事前準備に何をすればいいかなど』
『正直言ってさっぱり分かりません』
『ああせめて屋敷の執事一人だけでも連れてきていれば……』
先ほどのニコスのように頭を抱える伝言のシルフの言葉に、三人揃ってまた大きなため息を吐いたのだった。
そして、すっかり空になった紅茶のカップを片付けながら、もれ聞こえたその会話の内容にもう驚きすぎて言葉もないアルベルトをはじめとする執事達だった。




