この後の予定
「以前、アルス皇子殿下がお越しになった際にも驚きましたが。まさか、皇王様を石の家にお泊めする日がこようとは……」
苦笑いしたタキスの言葉に、アルス皇子も苦笑いしながら何度も頷いている。
「前回、私がエイベル様のお墓の件で押しかけさせていただいた時にも、本当なら自分が行きたいのだと散々言っていましたからね」
「さすがにそれは駄目だと、必死になって説得したんですから」
マイリーも一緒になって苦笑いしている。
「では、ルビー様に乗ってお越しになるのですね。ならばその時に、もう一度レイは帰ってきてくれるのですか。それは嬉しいですね」
素直に嬉しいと笑うタキスの言葉に、マイリーが何故かにんまりと笑った。
「お気づきになっていないようなので説明させていただきますが、その際には皆様も一緒に帰るのですよ」
「えっ? 我々は、先に戻るのでは?」
驚いたタキスとニコスの声が重なる。
どう考えても、皇王様を何の準備もなく受け入れるのはあまりに失礼だ。
今の石の家には、シヴァ将軍とアンフィーだけでなく、ロディナから主に畑仕事や家畜や騎竜達の世話をする為に何人もの人達が来てくれているのだから、それなりに受け入れ準備は必要だろう。
「ああ、その件なら大丈夫ですよ。タキス殿や皆様からお許しをいただけたようですので、この後シヴァ将軍に私が直接連絡を取って、父上が皆様と一緒にそちらへ向かう事を知らせておきます。最低限の準備くらいはお願い出来るでしょう。父上も、勝手を言って押しかけるのだから無理な接待は必要無いと。以前私が押しかけさせていただいた時と同じ扱いで構わないと言っていますので、どうぞそのように」
マイリーと同じくらいににんまりと笑ったアルス皇子の言葉に、タキスだけでなくニコスとギードも絶句する。
そして、横で呆気に取られて聞いていたレイは、堪える間もなく吹き出していた。
「レイ?」
ジト目になったタキスが、低い声でそう言ってレイの袖を引っ張る。
「引っ張らないで、タキス。でも、きっとシヴァ将軍やロディナの皆様も、陛下が石の家にお泊まりになるって聞いたら、きっとびっくりされるだろうね」
「笑い事ではないよ、レイ。でもまあ……滅多に使わない来客用の、ましてや特別室の掃除も普段からしておいて良かったと、俺は今、本気で思っているよ」
大きなため息を吐いたニコスのしみじみとした呟きに、今度はアルス皇子とマイリーが堪えきれずに揃って吹き出したのだった。
それからアルス皇子が陛下と直接連絡を取り、三日後に蒼の森へ陛下も一緒に出発する事が決まったのだった。
竜騎士隊からは、ヴィゴとルークが同行する事も決まった。
もちろん、レイも一緒だ。
「ちなみに今回の陛下は公式の訪問ではなく、あくまでも休暇中の行動の一部という扱いですので、そこのところはよろしくお願いします」
最後に苦笑いしたマイリーにそう言われて、タキスとギードは堪える間も無く吹き出し、オルベラートの皇族とは違う自由すぎるその行動力に、ニコスは無言で頭を抱えていたのだった。
「レイ、では私達は瑠璃の館へ戻らせてもらいますね。しっかり務めるんですよ」
話が終わったところでタキス達は瑠璃の館へ戻り、レイは今日の予定があるので本部に残る事になった。
「今夜は、夜会はないんだけど、その代わりにお茶会に招待されているんだって。愛想笑いをしてきます」
あと三日しか一緒にいられないのだから、本当ならレイも一緒に帰りたい。だが、竜騎士としての勤めがある以上は勝手な事は出来ない。
しょんぼりと肩を落とすレイを見て、タキス達は困ったように笑っていたのだった。
「それにしても、大丈夫かなあ。出来れば俺は、ひと足先に石の家に戻りたいよ。幾らシヴァ将軍や皆様が準備をしてくれるとは言っても、皇王様をお泊めするんだぞ。幾らなんでも、無茶が過ぎるよ」
レイに見送られて本部を後にしたタキス達だったが、しばらく進んだところでニコスが大きなため息を吐きながらそう言って空を見上げた。
「確かに、幾らかまわないとは言われても、はいそうですかと頷けるものではありませんよねえ」
苦笑いしたタキスも、そう言ってため息を吐いて空を見上げた。
「はあ。良い天気だな」
「はあ。そうですね。確かに良いお天気ですねえ」
もう一度ため息を吐いたニコスの棒読みの言葉に、同じくもう一度ため息を吐いたタキスがこちらも棒読みで返す。
「お前ら、そう言いたくなる気持ちは分かるが、現実逃避したところで目の前の現実が変わる訳ではないぞ」
呆れたようなギードの言葉に、もう一度揃って空を見上げたままため息を吐いたタキスとニコスだった。




