新たな問題?
「レイルズ様、先ほどルーク様より連絡がございました。本日は、ご家族の皆様方も共に本部へお越しくださいとの事です」
楽しく朝練を終えて一旦それぞれの部屋に戻り、軽く湯を使って出てきたところで待ち構えていたラスティにそう言われて、レイは驚いて足を止めた。
「え? 僕だけじゃあなくて、タキス達も?」
「はい、そう伺っております」
「えっと、何かあったのかな?」
不思議そうに首を傾げるレイに、ラスティも困ったように首を振った。
「申し訳ありませんが、私にも分かりません。特に何か問題があったとは聞いておりませんが、もしかしたら、先日のイルムガルド伯爵家のご子息の件で、何か進展があったのかもしれませんね」
「ううん。どうなんだろう。でも、一緒に来てくれって言われたのなら、そうしないわけにはいかないよね。タキス達に連絡は?」
「もちろん、担当執事達には伝達済みです。急ぎとは聞いておりませんので、まずは朝食をお召し上がりください」
「分かった。じゃあ準備するね」
苦笑いしたレイはシルフ達に風をもらって少し休んでから、手早く用意してくれてあった竜騎士の制服に着替えた。
剣帯を締めて剣を装着したところで、小さくため息を吐いて顔を上げた。
「ねえブルー、いるんでしょう? 何かあったのか知ってる?」
やや控えめな声の後に、ふわりと目の前にブルーの使いのシルフが現れてレイの肩に座った。
『うむ、まあ心配せずともよい。何か問題があったというわけではないのだが……いやまあ、少々問題ではあるかな?』
「ええ、何それ。問題があったわではないのに、少々問題って」
『だが、そう言う以外にない状況だからな。まあ、とにかく急ぎの話ではないから、まずは食事をしなさい』
笑ったブルーの使いのシルフにそう言われて、首を傾げつつ頷くレイだった。
食事を終え、少し休憩したところで出掛ける事にした。
急ぎではないというが、わざわざタキス達まで一緒に行く理由が何なのか気になって仕方がなかったからだ。
「先日の、図書館の一件で伯爵様が何か言ってこられたのでは?」
ラプトルを並べて本部へ向かう道すがら、心配しているレイにタキスがそう言ってくれた。
「でも、あの一件はガンディがイルムガルド伯爵に直接連絡を取ってくれたから、もう大丈夫のはず……だよ?」
「ですが、それ以外で、わざわざルーク様に呼び出されるような理由に思い当たる事はありませんからねえ。何か、他に問題が起こっていたりしたらどうします?」
「やめて!」
笑ったタキスにそう言われて、情けない悲鳴をあげたレイだった。
「お呼び立てして申し訳ない。まあ、とりあえず座ってください」
本部に到着したところで、出迎えたルークにそう言われてそのまま会議室へ連れて行かれた。
しかも、到着した会議室にはアルス皇子とマイリーが待っていた。これはもう、間違いなく何かあったとしか考えられない。
「おはようございます。もしかして、イルムガルド伯爵様が何か言ってきたの?」
タキス達と並んで進められた椅子に座りながら、心配そうにレイがそう尋ねる。
「ああ、その件ならもう大丈夫だよ。伯爵からは丁寧な謝罪の手紙とお詫びの品が届いているから、後で確認しておくといい」
笑ったルークにそう言われて、さらに謎が深まる。
伯爵の一件でないのなら、わざわざタキス達まで呼び出される問題が何なのかが全く分からない。
こっそりタキス達を見たが、彼らも揃って首を傾げている。ニコスも困ったようにしているので、彼にも分からないみたいだ。
「えっと、じゃあ何があったんですか?」
そう尋ねると、アルス皇子が苦笑いしながら右手を挙げた。
「じゃあ、レイルズ君が心配しているようだから、とにかく状況の説明をさせてもらうよ」
「はい、よろしくお願いします」
慌てて居住まいを正すレイ達を見て、アルス皇子が頷く。
「その前に一つ質問なんですが、そろそろ蒼の森へ帰る事を考えておられるのではありませんか?」
「はい、まさにその事を昨夜話しておりました。シヴァ将軍閣下やロディナの皆様に甘えるのにも限界がありますからね」
代表して、タキスがそう答える。
「もう、お帰りになる日程は決まりましたか?」
「いえ、そこまではまだ。ですが近日中にはお暇しようかと考えております。帰るにも、それなりの日にちが掛かりますのでね」
タキスの答えにもう一度頷いたアルス皇子は、困ったようにレイを見た。
「実は父上が、以前からエイベル様の墓参りに自分も行きたいと希望していたんです。それで、タキス殿さえ良ければ、お戻りになるのに合わせて一緒に行きたいと言い出しているのですよ」
「え……陛下が蒼の森へ? そんな無茶な……」
驚きのあまりタキスがそう呟き、慌てて口を押さえる。
「いえ、そう言いたくなるのは重々承知の上ですので、お気になさらず。本人も無理を言っているのは分かっているのでしょうが、隣国との関係も落ち着いている今ならば可能なのではないかと言われましてねえ」
「その、質問をお許しください。もしも陛下が本当に蒼の森にお越しになるのだとすれば、そもそもどうやってお越しになるのでしょうか? ラプトルに乗ってお越しになるのなら、お立場上、街道沿いの各街へもお立ち寄りにならねばならぬのでは?」
その時、右手を上げたニコスが口を開いた。
「ああ、その際にはフレアに乗って行ってもらう事になるでしょうね。もちろん、竜騎士の誰かが随行する事になりますね」
納得したニコスを見て、逆に驚いたレイが目を見開いてアルス皇子を見る。
「もちろん、その際にはレイルズにも行ってもらう事になるだろうね。とりあえず、今日のところはお戻りになる予定が決まっているのかの確認と、父上を行かせても良いか、タキス殿にお伺いしたかったのですよ」
「それは……そもそも私が決めていいような事なのでしょうか?」
困ったタキスがそう言ってニコスとギードを見るが、二人ともタキスと目を合わそうとしない。
「その際には、石の家に泊まらせていただく事になるのですから、許可をいただくのは当然では?」
当然のようにそう言われて、タキスが思いっきり吹き出して咳き込む。
石の家に陛下がお泊まりになるのだと聞いて、横で聞いていたレイも、ちょっと本気で気が遠くなったのだった。




