レイの予定と夜会での一幕
「じゃあ、僕はこのまま本部に戻らせてもらうね。でも、今夜も遅くなるかもしれないけど瑠璃に館に帰るつもりだからね!」
一の郭まで戻ってきたところで、傾き始めた西の空を見て苦笑いしたレイがそう言って本部の方を指差して見せる。
「ああ、確か今夜も夜会に参加しなければいけないと言っていましたね。何も考えずにゆっくり帰ってきてしまいましたが、間に合いますか?」
西の空を見て、タキスが慌てたようにそう言ってレイを見る。
「うん、まだ大丈夫だよ。それじゃあここで一旦お別れだね」
「分かりました。では、頑張ってしっかりと自分の役目を果たしてきてくださいね」
「はあい、じゃあ頑張ってきま〜〜す」
タキスに揶揄うようにそう言われて、笑って肩をすくめるレイだった。
笑顔で手を振って護衛のキルート達と共に本部へ戻るレイを見送り、タキス達も護衛のオリサー達に付き添われて瑠璃の館へ戻った。
アルベルトをはじめとする執事達に出迎えられたタキス達は、まず、レイから受け取ったお土産のアップルパイと焼き菓子の包みをアルベルトに渡した。
「これは、レイが帰ってきてから一緒に食べるつもりだったので、もしかしたら明日になってしまうかもしれません。それまでシルフ達に管理をお願いしたいのですが大丈夫ですか? 必要なら私がお願いしますが」
食べ物を新鮮な状態で長持ちさせるには、シルフ達やウィンディーネ達にお願いするのが一番だ。
タキスの言葉に、アルベルトは笑顔で首を振った。
「かしこまりました。もちろん、精霊魔法を使える執事がおりますので、ではそのようにさせていただきます」
「はい、では、よろしくお願いします」
嬉しそうに笑ってそう言い、一旦部屋に戻って部屋着に着替えたタキス達は、その後は夕食までのんびり書斎で本を読んで過ごしたのだった。
一方、本部に戻ったレイは、まず先に本部へ戻ってきてくれていたラスティに街で使った木札の控えを渡し、明日、アップルパイがラスティ宛てに届くのを知らせておいた。
「かしこまりました。ううん、このお店の名は初めて聞きますね。では、せっかくですので注文店の推薦リストに入れておきます」
「注文店の推薦リスト? それって初めて聞くけど何ですか?」
外出用の第二部隊の一般兵の制服から竜騎士の服に着替えていたレイが、不思議そうにそう言ってラスティを見る。
「はい、竜騎士隊の本部で皆様が普段お召し上がりになっているお菓子などは、基本的に決まったお店から納品されたものになります。この店舗は、どなたかの推薦や指定があった際に決める事が多いのですが、その際には念の為、店舗の審査をさせていただきます」
「店舗の審査?」
「はい、まあレイルズ様にご理解いただけるように説明するなら……例えば社会的に何らかの問題のある団体や個人の方などが背後にある店や店主、また、特定の貴族の方と強く繋がっているような店は、指定から外れる事が多いですね」
「えっと、それってつまり……非合法な事をするような組織だったり悪い事をしているような人、他には竜騎士隊の事をよく思っていない人とか、って事だよね?」
やや含んだ言い方だったが、ちゃんと意味が通じていた事にラスティが密かに安堵のため息を吐く。
「ええ、そうです。レイルズ様の推薦としては、緑の跳ね馬亭に続き二つ目のお店ですからね。しかも、タキス様や奥方様、エイベル様とも縁のあるお店との事。早急に対応させていただきます」
まさか、お菓子を届けてもらっただけでそんな事になるとは思わず、ただただ驚いているレイだった。
その夜に参加した夜会でも、普段ならわざとらしく近寄ってきて嫌味の一つも言うはずの血統主義の方々が、何故かレイの視界に入るなりそそくさと下がっていき、全くこちらに近寄って来ようともしない。
不思議に思って首を傾げつつも平和で良いなどとのんびりと考え、美味しいお菓子を楽しみながらミレー夫人をはじめとする婦人会の方々に取り囲まれて会話を楽しみつつ、予定には無かったが何人もの人にお願いされて竪琴の演奏も行い、美味しい貴腐ワインも楽しんだレイだった。
ちなみに昨夜に引き続き、イルムガルド伯爵夫妻は体調不良を理由に夜会を欠席している。
そして、どうしたら良いのか対応の仕方が分からず、完全にパニックになってレイから逃げ回っている血統主義の人達の反応を見て、もう笑うしかない竜騎士達だった。
そして後日、正式に竜騎士隊指定の店舗となったティティー母さんのお店では、レイの正体だけでなく、タキス先生の今と息子のエイベルが誰なのかを改めて竜騎士隊の使いの者から教えられ、全員揃って驚きのあまり声を上げて椅子から転がり落ち、ティティー母さんに至っては、驚きすぎて過呼吸を起こしてしまいちょっとした騒ぎになったのだった。
もちろん、すぐに対処したのですぐに元気にはなったのだが、その後もしばらくの間、店では常連客の方々まで加わりその話題で持ちきりになったのだった。




