嬉しい再会
「懐かしいですねえ。ここのアップルパイを食べてご機嫌だったエイベルの笑顔も思い出しましたよ」
「じゃあ、その四角いアップルパイはお土産に買って行こうよ!」
嬉しそうに笑ったタキスの呟きに、目を輝かせたレイがそう言い、黙って聞いていたニコスとギードも笑顔で頷く。
「それは素敵な提案だな。じゃあ、帰って皆でこうやって四角いアップルパイをいただけば良いんだな」
笑ったニコスが、手拭き布を四角く畳んで両手で持ち齧る振りをする。
「是非やろうね! あ、良い事思い付いた! このアップルパイ、後で頼んでおいて竜騎士隊の本部の……ラスティ宛に、明日のおやつ用に届けてもらおうっと」
「そんなにアップルパイばかりで飽きませんか?」
「こんなに美味しいアップルパイだもん。毎日食べても大丈夫だよ!」
呆れたようなタキスにそう言われて、満面の笑みでそう答えるレイだった。
そんな話をしていると、車椅子に乗った高齢の小柄な女性を連れて先程の女性店主が戻ってきた。
それを見たタキスが立ち上がって車椅子に駆け寄り、その年老いた女性の右の手を取る。
真っ白な髪をしたその年老いた女性は、俯いていたその皺だらけの顔をゆっくりと上げた。確かにその容姿を見る限り百を超えていると言われてもおかしくない程だ。
「ティティー母さん。ああ、よく生きていてくださいました。またお会い出来るなんて思ってもいませんでした。とても嬉しいです」
涙ぐむタキスを見て、ティティー母さんと呼ばれたその女性はゆっくりと細い目を見開いた。
「まさか……まさか……タキス先生なのかい? 驚いた。記憶にあるあの頃と、全く変わりやしない……今初めて、竜人が羨ましいと思ったねえ」
左の手を伸ばしてタキスの髪を撫で、それからタキスの頬をそっと撫でる。話す早さこそゆっくりだがその声はとてもしっかりとしていて、ニコスとギードが驚いている。
「ええ、そうですよ。タキスです。本当にお久しぶりですね」
嬉しそうに目を細めたその女性は、顔を上げて周りを見た。
そして、同じテーブルに座って笑顔でこっちを見ているレイを見て、それからニコスとギードを見て、もう一度周囲を見回してから心配そうにタキスを見た。
「タキス先生。エイベルちゃんは、あの子は一緒じゃあないのかい?」
その言葉に、レイ達三人の目が見開かれる。
「エイベルは、少し前に精霊王の元へ先に逝ってしまいました。ここにいる三人が、今の私の家族です。もちろん、血は繋がっていませんけれどね」
笑ったタキスの言葉に、ティティー母さんの方が涙ぐむ。
「親より先に逝くなんて……エイベルちゃんは、とんだ親不孝ものだよ」
責めるような言葉だったがその口調はこれ以上ないくらいに優しく、ティティー母さんは、今にも泣き出しそうになりながらタキスの右手をぐっと握った。
「確かにそうかもしれませんが、でも、私にとってはこれ以上ないくらいに親孝行な良い子でしたよ」
握られた右手をそっと撫でながら笑顔のタキスがそう言い、ティティー母さんの俯いた髪をそっと撫でた。
「そうかい。タキス先生がそう言うのなら、きっとそうだったんだろうね。じゃあ、私が精霊王の元へ行った時には、代わりに褒めておいてあげるよ」
「そうですね。でも、そんなに急いで行かないでください。次にオルダムに来た時の楽しみが無くなります」
「そんな無茶言わないでおくれ。私は、幾つまで生きなきゃいけないんだよ」
カラカラと笑うその言葉にレイ達も小さく吹き出し、店は暖かな笑いに包まれたのだった。
「それじゃあね、タキス先生。ご家族の団欒を邪魔して悪かったね」
「いえ、お会い出来て本当に嬉しかったです。どうかお体には気をつけて、お酒はほどほどにね」
「あはは。久し振りにそう言われたねえ。今でも飲んでいるってどうして分かったんだい?」
「そりゃあ、長い付き合いですからね」
笑ったタキスの言葉に、ティティー母さんだけでなく、後ろで聞いていた店主の女性も一緒になって吹き出したのだった。
「よかったねタキス」
店主の女性に伴われて下がる車椅子のティティー母さんを姿が見えなくなるまで見送ったところで、笑顔のレイがそう言ってタキスの腕をそっと撫でた。
「そうですね。立ち寄った甲斐がありましたよ。でもまさか、あの頃のアーシアやエイベルを知っている人の子である彼女が、まだ生きていた事に驚きました。聞いた事はありませんでしたが、もしかして竜人の血が混じっていたりするのでしょうかね?」
人間と竜人は混血が可能なので、その子供は大抵が竜人並に長命となる場合が多い。それだけでなく、その子孫にも時折長命な子が出来る場合があり、それは先祖返りと呼ばれて当たり前のように受け入れられてもいる。
「どうだろうなあ。先祖返りで長命な人の子の場合は、大抵が俺達のように五十年くらいなら容姿は変わらないぞ。あのお姿を見るに、単にご長命な人間だと思うな」
「そうかもしれませんね。それでも、出来るだけ長くご健勝でありますよう。精霊王に祈らせていただきます」
嬉しそうに笑ったタキスは、そう言って両手を握るとその場で祈りを捧げた。
顔を見合わせたレイ達も揃って頷き、一緒にティティー母さんの健康を願って祈りを捧げたのだった。
「うん、この栗とナッツのタルトも美味しい!」
もう一つ頼んでいたタルトも綺麗に平らげたレイを見て、タキス達は呆れ顔だ。
「まあ、あの体だから食べる量も多かろう」
「そうだなあ。だけど、あれだけ食って横に広がらんとは羨ましい限りじゃわい」
「そうですね。ではルーク様にお願いしておきます。横に広がりそうになったら、遠慮なく叩きのめしてやってくださいって」
呆れたようなニコスとギードの呟きに、苦笑いのタキスもうんうん頷きながらそう言ってため息を吐いた。
「皆酷い。大丈夫だよ。食べた以上にしっかり動けば太らないんだからね」
無邪気なレイの言葉に、タキス達は揃って吹き出したのだった。




