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紅蓮の炎は踊り狂う

 この話もよろしくお願いいたします。






「ギシャアアアア!!!」


「うぎゃあああああ、落ちる!! 地面が!! 地面が近いーッ!!!」



 咆哮える魔物、せまる大地、落ちる俺。

 どこぞの偉い学者が発見した万有引力は、異世界イーワルドに置いてもその効果に何ら違いなく、俺を地面へと吸い寄せる。

 

 諦めの境地に達した俺は静かに目を閉じ、短い人生に幕を降ろす……、降ろす……、おろ……アレ?



「何をやっているんだお前は?」



 いつまで経っても地面に激突しないので、恐る恐る目を開けるとソルガと目が合った。……どうやらソルガが助けてくれたようだ。

 ヤレヤレまったくお前は、と ひと昔前に流行ったラノベ主人公みたいな顔をしている。



「あ、ありがとうございます」



 太くたくましい腕に抱きかかえられ、これがお姫様抱っこかー等と乙女な気持ちに芽生えつつ、お礼を言っておく。

 とりあえずは助かったのか。



「ギシャアアアア!!!」

 

「!? う、後ろ! ソルガさん!? 後ろ、後ろー!!」



 ミミズの魔物の巨大な口が迫ってきている。牙が口の奥までズラッと続いているのが見え、捕食されればどうなるか嫌な想像をしてしまう。

 恐怖から俺はソルガの体をタップし、せまる魔物の存在を口早に伝える。



「うるさいですわよ、小僧。ソルガッ!」



 ソルガの肩に腕組みしながら腰かけていた“ロウリィ(ようじょ)”は、俺に一喝しながらも隷い手(パートナー)に指示を出す。



「承知」



 たった一言、名前を呼んだだけだったが、ソルガはそれで充分だと言わんばかりに主の言葉の意味をくみ取り、行動する。


 ソルガは上に乗った俺たちに一切負荷が掛からない様、神業とも言える体さばきで巨大な魔物の攻撃を躱していく。

 フワリと緩やかに跳ぶと、ワンテンポ遅れてさっきまで俺達がいた場所に魔物が攻撃を加えている。 相手の行動を常に先読みしているのだ。

 目にも止まらぬ速さで動くわけでもなく、敵からの攻撃の位置を予測し必要最低限の動きだけでなす……。まさに神業だ。



「すげぇ……」



 思わずそんな声が漏れる。

 人間二人抱えてそんな超人めいた動きをする鬼に、種族階位第三位の凄みを感じた。


 そうしてそのままソルガは、魔物の猛攻を躱しながらレイヴァの近くまで移動する。

 ソルガ程の神業ではないが、テレビ中継等で観る新体操さながらのアクロバティックな動きでレイヴァも魔物の攻撃を躱していたようだ。



「ほら、届け物だ」



 ポイッ、とソルガに地面にほうられてしまう。

 先程の落下と比べれば全然マシではあるが、やはり三メートルクラスの大男の胸の位置から降ろされると普通に怖い。 

 腹にくる浮遊感に「うぉ!?」等と情けない声がついつい出てしまう。



「ワタクシ達は見てますから、そちらからお先にどうぞブレイディア」


「ああ、すまないな。それではやるぞ、ヒジリツルギ」



 そういうとレイヴァを俺の目の前に立ち、言葉を紡ぐ。

 彼女が詠唱する程にジンジンと、左手薬指の指輪に埋め込まれた赤い宝珠が輝き、俺にとある意思を伝えてくる。――闘う意思を。

 


刮目かつもくせよ! 劫火ごうかの祭典! 我が炎撃えんげきは汝と共に!!」



 カッ、と眩い閃光が辺り一帯を包み込む。


 魔宝族まほうぞくの“武器化ぶきか能力”――。

 見るのは二度目になる、一度目は教室でガリガリの教師と牛の人が見せてくれたレイピアだ。

 細身の剣でありながらその存在感は目の前に戦闘機や戦車が銃器をコチラに向けてるんじゃないかと錯覚するほどであった。


   

 レイヴァの変身した姿は“一本の大剣”だ。 俺の身長より遥かに長く、大きく、そして分厚い。金色の柄に“赤熱発光”した刀身は美しく、まるで今も打ち鍛え続けられてるかの様にジリジリと大気をいている。

 レイピアと同じように、戦闘用にしてはやや派手な装飾を施されたその見た目は、武器としては異質で、しかしながら内から感じさせるその力強さは、紛れもない“武器”だった。



「ほぅ……、これは中々」



 ソルガはボソっとそんな言葉を漏らした。

 俺からしたら中々どころの騒ぎではない。掴む前から肌にビリビリと感じる圧倒的な力の流れに体が震える。これならあんな魔物の一匹や二匹軽く相手にできる、そう感じずにはいられなかった。


 そして俺は手を伸ばす、その力を我が物とする為に、



 しかし、剣の柄に触れようとした刹那――。




 “地上に太陽が現れた”。



 

 “赤熱した大剣(レイヴァ)”の刀身から灼熱の炎が噴き出し、瞬く間に周囲を払い、包み込み、紅蓮の業火を纏ったのだ。


 一瞬のことで状況が飲み込めないでいたが、ソルガがいつの間にか俺の服の襟元を掴み、炎の届かない位置まで動かしてくれていた。

 つい先程まで俺が立っていた場所はすでに炎の海と化しており、ユラユラと周囲の景色が真夏の陽炎かげろうの様に揺らめいていた。


 飛び火した炎にかれて、何体かのミミズの魔物は断末魔の雄たけびを上げ、もがき苦しんでいた。

 信じられないことに燃え移った火は消えることなく、猛り狂う狼の牙となって魔物の肉体を蝕み、喰らっている。



 普通の炎じゃない。



 仮にただの炎だとしてもその熱量は常軌を逸している。見ているだけで目をき、息をすれば肺を溶かしそうだ。


 アレは、炎に見える何かだ……。


 俺は、常識では計れない異質な何かをその“炎”に感じていた。



「どうした? ああして置いていても恐らくは周りの魔物を燃やし尽くすだろうが、闘わんのか?」 


 

 ソルガがそんなことをいってくるが、一言もの申したい。





「近づけるかぁー!!」






 俺の魂の叫びは地獄絵図こうやに響いた。










 お読みいただきありがとうございました。

 次回もよろしくお願いいたします。


 鎧魚族アーマンぞく豆知識。


 彼らの元は水中で生活していた魚人だが、長い年月をかけ鱗が進化し、まるで甲冑を着込んだ戦士の様な外見をしている。

 これにより陸上の熱やら何やらから身を守っているのだが、非常に分厚く強固になりすぎた為、動きは鈍重になってしまった。

 鎧魚族アーマンぞくの女はオシャレをする為、陸上の服を着たがるのだが、鎧姿の上から着れるものなど当然ない為、鎧の上から着こむサーコートが大流行している。

 サーコートを着ている鎧魚族アーマンぞくはレディなので、くれぐれも対応には気を付けよう。

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