闘う相手、その力
この話もよろしくお願いします。
赤、赤、赤、――。
天まで昇る火柱が目に灼きつき、僅かに行う呼吸でさえ肺を焼いていく。
『ヒジリツルギ!私を使え、その程度の相手この炎があれば一瞬で屠れる』
“紅蓮の炎を纏う大剣≪レイヴァ≫”の“声が聞こえる”。
気軽に言ってくれるが、ただの“人族”の俺がこんな業火の中を歩ける訳がない。
攻撃ですらないただ燃え移っただけの炎で、あんなに巨大な魔物が一瞬にして炭になる火力なのだ、俺では“大剣”を掴む前に跡形もなく燃え尽きるだろう。
巨大なミミズの魔物が、次から次へと轟音と共に地面から飛び出し、生徒達を襲っている姿が見える。
しかし、ある者は“疾風を纏う短剣”を、ある者は“岩石を放つ大弓”を、またある者は“水流が刃となる槍”を持ち、各々が襲いかかる脅威を自力で払っていた。
“俺以外”の隷い手は武器化した魔宝族を使用して闘っている。
獣人族は、そのしなやかな肉体と身のこなしで武器の放つ衝撃を受け流し、それすらも攻撃に転化しているし、闘鬼族は、自慢の腕っぷしでミミズの魔物の堅い表皮をカチ割り、そこに武器の一撃を叩き込んでいた。
鎧魚族は、自身の堅い鱗を魔物が噛み砕けないことをいいことに、一度魔物に飲み込まれてから腹を突き破って出てくるという恐ろしい戦い方をしている。
他にも様々な種族が己の特性を生かし、ミミズの魔物を蹴散らしていく。
なんて無力なんだ俺は。
どの種族も、武器化した魔宝族に頼り切らず、自分の戦い方で魔宝族に貢献している。
そんな彼らと比べて、俺のやっていることと言えば、震えて状況に流されているだけだ。
「あら、随分と情けないですわね小僧。それとも明日の決闘に備えて手の内を隠すつもりなのかしら?」
後ろから、ソルガの肩に腰かけた幼女に声を掛けられる。
俺に隠す手の内等ないことは分かっているだろうに……。
その声色は、明らかに人の事を見下し、馬鹿にしたものだった。
他の種族にとってはなんでもないような相手すらも、人族では戦うどころか武器を持つことさえままならない。
この世界において、人族が見下され侮蔑されている理由が分かった気がする。
「それと……、逃げないと喰われますわよ?」
「へ……?」
ロウリィの指さす方向を見ると、レイヴァに近づけないと判断したのか、ミミズの魔物が何体かこちらに狙いを変えて向かってきていた。
「先程はソルガが“勝手に助けた”だけですわ。これは実習なのですから少しは自分の足でお逃げなさいな」
「……お嬢様、人族にそれを求めるのは些かかわいそうではないのか?」
「お黙り!これは“命令よ”ソルガ。ワタクシの指示があるまで助けてはダメよ」
彼女の命令という言葉に反応したのか、ソルガの耳についた派手な装飾のイヤリングが鈍く光っている。あれが幼女と闘鬼族の“契約の証”であり、魔宝族の持つ他種族を隷属させ戒める力なのだろう。
自分の左手に目をやると、ソルガのイヤリングと違い指輪の宝珠は光っていなかった。恐らく主である魔宝族が、何か命令を強制した時に光るのだと思われる。
「すまんな、少年。助けてやれそうにない、生きろよ」
ソルガは、見捨てることは不本意だが、どうにもできない。と、そう言いつつどこかに幼女を抱えつつ飛び去って行ってしまった。
あれ……、マジでやばくね? 地面を削岩機の様にガリガリと削り取りながら、巨大なミミズの魔物がこちらに向かってきている。
「嘘ーッ!!?」
「ギシャアアア!!」
俺は全力でその場から逃げた。
◇◆◇
「あまり趣味がいいとは言えないな、お嬢様」
「ワタクシを侮辱した男ですわよ、助ける義理はありませんわ」
「義理はなくとも義務はあるだろう。今日の君は、あの少年達と“同じ班”なのだからな。見捨てて殺せばそれこそコンプレッツォの名に傷がつくのでは?」
「べ、別に見殺すとはいってないでしょう! 少しお灸を据えるだけですわ!」
ソルガの説得にぐぬぬ……、と悩んでいる幼女が見える。
レイヴァは、炎に囲まれているおかげでとりあえずは襲われずに済んでいるみたいだ。しかし、武器化を解けば俺と同じように魔物に追い回されることになるだろう。
背後からは魔物のギシャアアという雄叫びと、岩石等の障害物を砕いて進むおぞましい音が聞こえてくる。少しでも走るペースを落とせばミンチにされること間違いなしだろう。
「うおおおお!!」
とりあえず、今俺が取れる最善の行為、それは――。
“俺を追い回すミミズの魔物を他の生徒に押し付ける!!”
我ながら情けなくて涙がでるが、こうでもしないと窮地を脱することができない。
幸い周りの連中でこの魔物に苦戦している様子のやつはいない、一匹も二匹も大差ないだろう。
「うおおおお!!」
「ッ!?ギシャアア!!」
「おい、割り込んでくるな!!死にたいのか!!!」
「うおおおお!!」
「ギャオオオオオ!!!」
「ちょっと!獲物を取らないでよ!!」
「うおおおおおおおおお!!!」
「ギャオオオン!!!!!」
「フッ、随分と張り切ってるじゃねえか。いいぜ、譲ってやるよ」
「「「ギャオオオオオオオオオオ!!!」」」
俺は、自身を狙う魔物を他人に押し付ける為、戦闘中の他生徒達の間に割って入っていったのだが、なぜか魔物は、標的を目の前の生徒から割り込んだこちらに移し、後を追いかけてくる。
他人に魔物を擦りつけようとすればするほど、その数は増えていくのだ。
俺を追い回すミミズの魔物は、最終的に数十匹程となり、この戦場にいるほとんどの数を引き受ける形になってしまった。
「な、なんでだー!!!」
「「「ギャオオオオオン!!」」」
計画が狂ってしまった。絶体絶命大ピンチ。
「も、もうだめだー!!」
「まったく、貴方はやることなすこと癇に障りますわね」
大量の魔物に取り囲まれ正に捕食されそうとした時、幼女と闘鬼族が割って入って、助けてくれた。
ソルガのおぞましい覇気に魔物は震え、どんどんと後ろに後退していく。
「これだけ周りを巻き込んで死なれたら、同じ班であるワタクシの家の名に傷が付きますわ。……やりますわよソルガ」
ロウリィは、まるで自分自身に言い聞かせるかの様に言っている。
ソルガは彼女の話を、ハイハイそうだなと言った感じで聞き流しつつ、肩からゆっくりと地面へ降ろしていた。
そして――。
「崇め讃えよ! 万雷の賛歌! 我が雷撃は汝と共に!!」
カッ、と眩い閃光が辺り一帯を包み込む。
ソルガの手には大斧が握られていた。
ギラギラと自己主張の激しい装飾を施された巨大な斧。柄は銀色、刃の部分が鉄ではなく、翡翠の様な色合いの鉱石で出来ており、非常に綺麗だ。
バリバリと帯電していて、一目で普通の武器でないことが分かる。
俺から見ればものすごくデカい斧だが、三メートル近い身長のソルガからすればそうでもないらしく、片手でブンブンと振り回し、具合を確かめていた。
刀身には何やら“白い”文字の様な模様が浮かび上がり、ソルガがそれをフムフムと読み始める。
『ソルガ、ワタクシ達の力を魅せるいい機会ですわよ。術で一気に決めますわ』
「承知」
術? 術ってなんだ?
俺は“聞こえた”言葉にこれから起こる凄まじい出来事の予兆を感じ、固唾を呑む。
刃に“黄金”の文字が輝き始め、ソルガはロウリィを天高く掲げ、それを詠唱み上げた。
「我が血の運命、仇名す土塊の愚者に、光輝く雷帝の一撃を!」
程なくして空に暗雲が垂ち込め、激しい稲光と轟音が場を支配する。
魔力の奔流が雷となり、巨大な紫電の龍が顕現した。
俺はその光景から目が離せなかった。
紫電の龍は眩い光と共に一瞬にしてその場にいた魔物を消し飛ばしたのだ。
光の速度で魔物の表皮などお構いなしに全て砕き、削り、焼き殺す様は圧倒的で、一瞬にしてケリがついた。
誰もがその力の凄まじさに声が出ないでいると、ソルガがゆっくりと歩きだし、一言発してこの場を去っていった。
「明日はそれなりに楽しみにしている。まぁ、ブレイディアの力はそれなりだった。後はお前がアレを使えれば少しは決闘らしくなるだろう」
そうだ。
明日、こいつらと決闘をするんだ。
俺はその事実に目眩がした。
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