鬼と幼女と決闘状
物語がようやく動き始めそうです。
――“種族階位”。
この世界“イーワルド”には十の種族がいるらしい。
それらは戦闘における力の強さで序列がつけられ、その序列が世界に置ける身分の高さにもつながっているんだとか。
俺こと“聖 剣”は、
“種族階位”第一位の“魔宝族”、“レイヴァ・フレイムテイン・ブレイディア”に“隷い手”として召喚された。
魔宝族は武器に変身することができ、その力はとても強大らしいのだが、自分が武器になるものだからその力を振るえないのだそうだ。
そこで魔宝族は別種族を“召喚の儀”という儀式で強制的に呼び出し、隷属させて自分専属の“隷い手”にするんだと。
ちなみにこの隷属させるというところがポイントで、魔宝族がその気になれば、隷い手として喚びだした者の自我を完全に消して、操り人形にだってできるらしい。
だからこの世界で最も戦闘力が強いとされ、“種族階位”第一位の地位にいる。
なぜ急にそんなことを語りだしたのかと言えば、
現在俺が、その“種族階位”が発端で、第三位の“闘鬼族”にまるで子猫のように持ち上げられて、身動きが取れないでいるからだ……。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「ちょっとお待ちなさい!!貴方、名家としての誇りはないんですの!!?」
講習が終わり、教室から出ようとしたレイヴァと俺に、そんな声が投げかけられた。
「これはこれは誰かと思えば、コンプレッツォ家のご令嬢。 この私に何の用かな?」
レイヴァの目の前には彼女の背丈の半分程しかない幼女が、見上げるようにレイヴァのことを威嚇していた。
金髪ツインテールの幼女。テールは雷の様にギザギザと自己主張の強い癖が付いており、一度みたら忘れられないインパクトがある。
顔も背丈に見合った童顔で、若干つり目なところが猫の様でかわいい。
※猫といってもそこらの野良猫ではなく、高級カリカリと缶詰しか口にしてこなかったような、そういう気位の高い猫だ。
レイヴァと同じ格好をしているので、この子も同じ魔宝族なのだろう。
しかし、俺に対してはいつも温かみのある声で接してくれるレイヴァが、なぜ目の前の小さい女の子に対してだけは、こんなに棘のある口調で返答しているのだろうか?
「何の用かですって!!?貴方、ブレイディア家でありながら恥ずかしくありませんの!?こんな“階位最底辺の落ちこぼれ”種族を召喚して!!」
幼女は俺を指さしながら甲高い声でめちゃくちゃ怒っていた。
んー、薄々感じていたがやっぱり“人族”である俺が召喚されたのは、あまり好ましい事態ではなかったのか。
そうだよな、なんか他の魔宝族の連中とか、ずっとこっちを見ながらニヤニヤと馬鹿にした様に笑っていたもんな。
「何も恥じることなどないな。 私は私に見合った素晴らしい隷い手が召喚されたと思っている。 むしろ誇らしいくらいだ」
レイヴァはピシャリと何の迷いもなくそんなことを言い切った。
何なの?その俺に対する謎の信頼感……。 めっちゃ重いんですけど。
「まあまあ、二人とも落ち着いて」
まあでも、それはそれとしてレイヴァにはこんな小さい子相手に大人げないことをしてほしくないと思い、間に割って入った。
人族はこの世界では非常にか弱い存在みたいだし、争い事はなるべく避けた方が無難だろう。
「レイヴァさん、こんな小っちゃい子相手に大人げないよ、少し落ち着こう。 お嬢ちゃんもさ、そんなにカリカリしてたら背が伸びないぞ?」
「小さ……ッ!お嬢ちゃ……ッ!!」
ツインテールが一瞬ピンッ、と逆立ったかと思えば、ワナワナと肩を震わせ、みるみると顔を真っ赤にしていった。
「ソルガッ!!」
幼女が怒気を含んだ声で叫ぶと、一瞬で背後にものすごい威圧感を感じた。
「やれやれ……、あまりうちのお嬢様を怒らせてもらっては困るな人族の少年。 彼女はあれで中々乙女で気難しい子なんでな」
浮遊感が襲い、俺の視線が一気に高くなった。
――首根っこを掴まれ持ち上げられたのだ。
「えっと……、どちら様でしょうか?」
目の前には角の生えた男の顔があった。 端正な顔立ちをしている。
目つきは鋭く、日々命のやり取りをしていますといわんばかりの覚悟を宿した目だった。
体格はガッチリと筋肉質で、額だけでなく肩肘膝と鋭利な大角が生えていた。
赤銅色の肌は盛り上がった筋肉をより際立たせて、こちらにものすごい威圧感を与えてくる。
背丈も三メートルはあるのではなかろうか。
でかい、つよい、こわい。
そんな三拍子が揃った鬼に俺は捕まった。
「オレか? オレは“種族階位”第三位の“闘鬼族”、“ソルガ・バーガンディ”だ。 そこのお嬢様の隷い手をやっている」
第三位!?めっちゃ格上の相手じゃん。
「コンプレッツォ、貴様の隷い手を下がらせろ。 私の隷い手に対して無礼だぞ」
そう言って、レイヴァが助け舟を出してくれた。
しかし何故だかレイヴァはこちらを一瞬見た後、ニヤリとし、とんでもないことを言い出した。
「私の隷い手は貴殿にささやかながら助言しただけだ。 カリカリすると“背が伸びない”……とな」
ブチリ、と何かが切れた音が聞こえた気がする。
幼女の顔は赤さを通り越して、今は青白くさえある。
「ふ……、フフフッ、いいですわ……、いいですわよ、そこまでこのワタクシをコケにするのならこちらにも考えがありますわよ」
不敵な笑いを浮かべ、ボソボソとつぶやき始めた。
闘鬼族のお兄さんはヤレヤレと言った感じで肩をすくめている。
俺はこの後の展開を想像して絶望していた。
「ロウリィ・ボルトニング・コンプレッツォの名のもとに宣言する!!決闘よ!!!レイヴァ!!!!」
「受けてたとう!!」
ちくしょー、やっぱりな!!!
読んでいただきありがとうございます。
今後このスペースに、本編では語るかどうか微妙かつ、知ってても知らなくても読むのに何の問題もないイーワルド設定を書こうかと思います。