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訳アリ食堂店員、勇者になってしまう〜学園の嫌われ者がイケメン英雄になるまで〜  作者: はえたたき


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6.料理

「ところで……ここは食堂なんだよね?」

「まあ、オンボロですが」

「食べたい!」


 ハヤミさんが目をキラキラさせてこくこくと頷く。


「ごはんごはん……うふふふ」


 え、えええ……いいのかな。貧乏飯だよ。おたくらの舌にあわないかもしれないし。

 そもそも王族と上級貴族に俺の料理なんて恐れ多すぎる。腹壊しても責任取れません。もし腹壊したら不敬罪で打ち首獄門とかあるかもしれないし。

 一瞬で頭をフル回転させていると、親父が背中を叩いた。


「いい機会だ。いつも通り出してやれ。お前の得意料理のチーズ牛丼特盛温玉付きを」

「えええええ。よりにもよってそれかよ」

「ぜひとも味わいたいな。なんてったって白馬の王子様の食事なんですからん♡」


 いやいや。どこの世界の公爵令嬢が白馬の王子(デブス)のチーズ牛丼を食いたがるんだよ。

 元の世界でチー牛だった俺でも、自分で自分を食ってるみたいで自己嫌悪したのに。


「もちろんユラが作ってくれるんだよね?ね?ね?」

「う……俺が作るのぉ……?」

「当然でしょ!待ってるね」


 ハヤミさんの期待の目に押されて、渋々厨房へ戻る。

 親父の作ってくれるやつが最高に美味しいチーズ牛丼なんだが、自分でいいのだろうかという不安と恐れがグルグル脳内をまわる。

 とりあえず冷蔵庫から味付けしておいた肉とチーズを取り出し、玉ねぎを切り始めた。緊張しすぎて手元が狂いそうだ。

 その間、親父と二人は会話をしている。なんの会話をしているのかは聞こえない。

 いつも通り。いつも通り。と、ぶつぶついつもの手順で手を動かした。



 数分後、湯気の立つチーズ牛丼特盛温玉付き(ご飯と味噌汁付)を二人の前に置いた。


「ど、どうぞ……口に合うかわかりませんが……」


 緊張気味に言うと、ハヤミさんは目をキラキラさせて「美味しそう」と呟いた。


「いただきまーす!」

「……いただきます」


 二人は同時に手を合わせて箸を割り、チーズ牛丼を一口とる。

 それを見守りながら、俺の心の中はいろんな意味で伸びたり縮んだりしている。心の中の葛藤である。

 そして、眉がわずかに上がる。


「……わあ、すっごいおいしいじゃん……!」

「えっ……ほ、ほんとうに?」


 恐る恐る訊ねる。


「本当だよ。確かに白馬の王子様のお料理だからぁ、贔屓目になっちゃいはするけど嘘ついてないよ♡」


 にっこり超絶賛するハヤミさん。


「味もいいけど……それだけじゃない感じがする。妙に体が軽いし、力も湧くし、頭も冴える。不思議だね」

「……おお、やはり姉ちゃんもそう思うか。違うなって思ったんだ!」

「でしょお!オヤジさんわかってるぅ!」


 親父は軽いノリでハヤミさんと話している。めっちゃ仲良くなれそうだなこの二人。


「ただの料理じゃないな」


 ヤマト殿下に俺は慌てて手を振る。


「いやいや。ただのチーズ牛丼温玉付きですから。いつも通り作ったんです。時々初見客からこんなデブスが作った飯なんか食えるかって怒鳴られる事だってあるし!」

「えー何そのクソ客。ユラの料理を貶すなんて終わってるー。ハヤミ、ボコっていいかなぁ」


 なぜかブチギレているハヤミさん。一瞬だけ禍々しい顔つきに見えた気がした。


「だって常連客はみんな絶賛してそう言ってるんでしょ?ユラが作った料理だけ能力を一時的に向上するって。その辺のお客さんから聞いた~」


 俺は言葉に詰まる。気のせいにしか思えないけど、やはり光の魔力のせいなのかも。


「……面白いな」


 低く呟く。


「料理でここまで影響が出るか」


 箸を止めたまま、こちらを見る。


「意図してやっているわけじゃないのか?」

「意図してできるほど自分は頭がまわらないんで」


 学校の成績は下の中ってところ。こんな赤点前後な奴が、意図できるほど頭が冴えているわけがない。

 ヤマト殿下はもう一口食べてから、ゆっくりと視線を上げた。


 また、目が合ってしまう。

 もう今日で何度目だろうか。

 この人、やっぱり人の行動を観察するのが好きな人なのかも。

 王太子だから、人の機微や些細な反応も見逃せないってやつなのかな。


「……変わった奴だ」


 いや、あなたも十分変わってますよ殿下。俺の事をそんなに見つめてくるんですもん。

 だけど、今度は逸らせなかった。

 なぜか、さっきよりも視線が強い。

 まるで――――逃がさないみたいに。


「あの、どうか料理の事……学校の連中とかにはご内密に……面倒くさくなるので」


 いろんな意味で死活問題に関わる。


「別に言う必要もない」


 そう言いながら静かにぱくぱく食べている殿下。綺麗な箸の使い方だ。


「言うワケないじゃん。ユラの価値がわかるのはあたしらだけで十分」

「お、おねがいしゃーっす!」


 そろそろ閉店間近で客達もほとんど帰った頃。

 からんからん。


 その音に、ヤマト殿下だけが反応した。

 わずかに目が細まる。

 何かを警戒するように。

 



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