5.ハヤミとヤマト
なんで高位貴族と王族がこんな平民街の店に来てんの!?
唖然とした俺は、とりあえず厨房の奥に引っ込む。隠れる必要はないのだがなんとなく隠れてしまった。
もしかして、何か至らない部分があったのだろうか。
昼間のあの視線。
ヤマト殿下の、あのやけに鋭い目。
やらかした?何かやっちゃった?死亡フラグ?
不敬罪かしら。ひいいいい。ガクブル。
壁からこっそり見ると、二人とも平民用の服に着替えているが、隠しきれていない。
顔がいいとかそういうレベルじゃない。格が違うというやつだ。
ヤマト殿下は静かに店内を見渡し、ハヤミ嬢は少しだけ緊張した様子で背筋を伸ばしていた。
……そんなに気張らなくていいですよ。ここ、酔っ払いが騒ぐ店なんで。
「こんにちは。ユラ・ハナゾノさんの家……というかお店はここで間違いないですか~?」
ハヤミ嬢がにこやかに親父に声をかける。
軽いノリな話し方で驚いた。あれ、公爵令嬢だったよね?
貴族の令嬢ってもっとこう、堅苦しいもんだと思ってた。
「そうですが……娘になにか用ですか」
「今日、学校でお世話になったので、そのお礼に来たんです。あ、私はハヤミと申します。同じ学校の。隣は不愛想だけど付き添いのヤマト」
「どーも……こいつの付き添いだ」
不愛想だな王子。にこりともしない所が評判通りだ。
「ユラは厨房の奥にいる。席にどうぞ」
親父はまったく動じない。
さすが元王と知り合いなだけある。壁際の席に案内される二人。
「ユラ。来い。お前に用だ」
「うぅ……お礼とか別にいらないのに……」
貴族と関わるとか面倒の塊だろ。
ただでさえこの外見で苦労してんのに。
「まったく、お前は自信がなさすぎる。お前のおかげで助かったと言ってお礼に来てくれたんだ。堂々としてこい。そして照れてこい」
「照れてこいって、どんな指令だよぉ」
渋々、二人の前へ出ていく事にした。
ハヤミ嬢がぱっと顔を明るくする。
「ごめんなさい、急に来ちゃって」
そのまま少しだけ距離を詰めてくる。どんどん。
「どうしても、気になっちゃって」
……あの、近いんですが。
「その……家の場所、調べちゃった♡」
てへ、と舌を出す。
「いやいやいや、普通に怖いんですが」
思わず本音が出た。
「でもね、本当に嬉しかったの」
声が少しだけ真剣になる。
「今まで、ああやって助けてくれる人なんて……ヤマトくらいしかいなかったから」
ちらっと横を見る。
ヤマト殿下は何も言わない。
ただ、こちらを見ている。じーっと。
まばたき、してるよな?
してるよな……?
してないかも……。
「………」
「………」
あの、なんで見てんですか。
俺なんて見ても面白くないでしょ。
それともなんちゅうでかい図体してんだこいつwとでも思っているのだろうか。
人を観察するのが趣味な人?
そうしてこっち見んなアピールをしているのだが、一向に視線が離れない。
視線が痛いんですけど。いつまで見つめられるの俺。
なんか言いたいことがあるなら言ってくださいよ。居たたまれないですから。
「だからユラ様はぁ、あたしの白馬の王子様です」
「……はい?はくば……?」
どこをどう見たらそうなる。眼科行った方がいいですよキミ。
「いやいやいや、ないないない」
「あります♡」
いや、ねぇよ。と、心の中で突っ込み。
……この子、なんか強いな。
「様付けやめてください。身分的にそっちが上なんで」
「えー。でも王子様だし」
押しが強い子。
その眼は節穴ですね。それともブサ専ってやつなのか。ただ助けただけなのに。
俺じゃなくて隣にもう本家本元の王子がいるでしょ。
「じゃあ、ハヤミって呼んで?」
「え?」
「そうしたら様やめる」
条件付きっすか。
「い、いきなり呼び捨てはちょっと……」
「ほら、呼んで♡」
そうしてこの上目遣い。
強い。色々強い。
「ハ、ハヤミ……さん」
「さんいらない」
即修正を促してくる。
「これ以上は無理です……!」
思わず後ずさる。
ハヤミは少し考えて、
「じゃあ今はそれでいいや」
にこっと笑った。
「でも、いつか呼び捨てね?」
未来確定してるの怖いんですが。
「――ユラ」
いきなり名前を呼ばれてドキッとしてしまう。
その顔でそのイケボで名前呼びはちと心臓に悪い。
あといつまで俺の事見てくる気ですか。いい加減目線逸らしてちょーよ。
「お前」
言葉が短い。
「……あれは、計算か?」
「はい?」
意味がわからない。
「ザァコを止めた時だ。偶然じゃないな」
逃げ場がない。
なんだこの人。
「……別に、ただ見てられなかっただけです」
「そうか」
それだけ言って、ほんのわずかに口元が動いた。
笑った?いや、気のせいか。
まあ、どっちでもいいけど。
「面白いな」
「は?」
「いや、なんでもない」
興味を持たれた。理由はわからない。
少女漫画によくあるオモレー女を見つけたみたいな反応ですね。
やめてくださいよ?デブスに変な興味持つのは。持たれても迷惑なんで。
でも、なんとなく嫌な予感がした。
……あの視線。簡単に終わる気がしない。




