1.性別不詳
「化け物」
「デブ」
「近寄るな」
はい、全部俺の事です。
今日も通常運転です。ありがとうございました。
王立貴族学園の校門前、遠巻きにヒソヒソされながらのっしのっしと歩く。
まあ仕方ない。
だって俺、身長175センチの体重110キロ。
どう見ても熊だよね。
ほら、あの兵士まで笑ってる。職務中なの忘れてないか?
そんな時、前から来た貴族の坊ちゃんがこちらを避けようとして足をもつれさせた。
「うわっ――」
あ、転ぶ。と、反射で腕を伸ばす。うまく掴めた。
「大丈夫ですか?」
軽く支えただけのつもりだったのに、
「い、痛っ!? ちょ、腕が、腕がぁ!?」
……あ。
力を入れすぎた。
この見た目と剛力で、温室育ちの令息など簡単に怯ませる。
横にも縦にも広いので、だれも近寄っては来ない。
制服も特注で作らないと服がないので、全て父のお下がり。
おかげで学園一の重量級と言われている。
とにかく何ごともなく平和に卒業したいんだけど、無理だろうか。
入学当初は容赦ない中傷や揶揄などに凹みもしたが、さすがに一か月もすればもう慣れた。
毎日毎日化け物だの、デブスだのと、まあ自覚をしているから平気になった。
そりゃあ、下賤な平民が歩く化け物のような姿かたちをしていれば、誰だって気にもなる。
「あんな化け物の平民がなんで貴族の学校に通ってるんですの」
「所詮は下賤な平民ですもの。化け物も中にはいてよ。クスクスクス」
高位貴族令嬢が扇片手に薄笑いを浮かべている。
所詮は容姿至上主義な貴族という人種なので、見目の悪い存在を見下すのは当たり前。
金もないので、化粧品も美容グッズも貴族みたいにポンポン買えないから仕方ない。
客観的に見たら暴飲暴食などが原因だろと言われるけど、言い訳くらいさせてほしい。
好きでこうなったわけじゃない。
気が付いたらこんな見た目になっていた。
そして、この世界とは別の世界の記憶を持っている。
ほんの少しだけ。
ここよりテクノロジーが発達した地球生まれの日本人で、まだ高校生だった。
その時はまだこんなデブではなかった。
だって俺、元々スリムな男だったもん。
しかし、気が付いたらこの世界にいて、女としてデブスという存在になっていた。そして普通に生活していた。
これが転生なのか、なんなのか自分でもわからない。
男か女なのかさえも。
デブで女になっても、姿かたちは自分で間違いないんだけど、こんな脂肪の塊というアタッチメントはいらなかったよ。
これが転生後なら、前世の自分がどうやって死んだのかわからないし、前世の事を思い出そうとすると妙に頭が痛くなって、思い出すのを拒まれている。都合の悪い記憶でも封印されているのかな。
結局、俺は男なのか女なのかわからないまま毎日を生きている。
男としての方がピンとくるので、性別以外は男で統一した。
「……俺って何者なんだろ」
この世界に来て、何度目かの疑問を口にした。
ちなみに平民なのに、なぜこんな貴族しか通えない学校にいるかと言うと、俺に【聖なる魔力】ってのがあるらしい。
もうすぐ復活する魔王対策でここに集められている。
それに対抗するために、聖なる魔力を持つ者を国が率先して増やしているんだ力の源。15歳になったばかりの子供を、聖なる魔力持ちかそうじゃないかの選別がされて、いつか現れる魔王に備えているというわけ。
その聖なる魔力は、多ければ多いほど邪悪なモノを祓える。神官や教皇レベルになると悪を昇天させ、勇者になんてなると魔王すら倒せるほどの無限の光を持っている。
さすがに勇者レベルなんて数千年に一人の逸材。そう簡単には現れない。
それを俺が微量ながら持っているらしく、発覚した時は嬉しさなんかより面倒な事になってしまったという気持ちが強かった。
俺の平和な生活終わっちゃうじゃん。
しがない平民に期待されても困る。




