表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/2

星のプレゼント


 星のプレゼント

 

 

  星に願いを

  

「君は、宇宙を信じるか?」 

 ある夜、空を眺めていると、見知らぬ老人が声をかけてきた。田中は警戒し、物理的にも、心理的にも、距離を取る。至極当然の反応であろう。

「………。」

「フォッフォッ。良いのぅ。昨今の学校教育は充実しておる。不審者の対応すらも教えてくれるようじゃからのう。」

 ドガッ。と、老人は田中の横に腰掛けた。

「怪しいものではない。というのも無茶か。」

(当たり前だろ…。)

 何だこのおっさんは、と田中はさらに心に距離を置く。なんせ、一人で空を見るこの時間を、

「邪魔してしまったからかのぅ?」

「………。」

「フォッ。図星じゃろうて。ん?儂、もしかして今上手いこと言ったかの?」

 フォッフォッ、と大きく笑う老人に、田中はただ呆然とするしか無かった。全てを見透かされているような感覚だったからだ。それを否定すべく、田中は口を開いた。

「あなたは、誰ですか?ごめんなさい。今は一人が良いんです。」

 老人は、初めてしゃべる田中を少し見つめたあと、間をおいて、再び語りはじめた。

「じゃがのう。今は、二人のほうがよかろうて。少年。君は今、諦めようとしておるじゃろう?」

「なんなんですか⁉怖いんですよあなた‼さっきから!」

 しまった、と思った。つい苛立って大声で怒鳴ってしまった。この手の人は、刺激してはダメだった。何をされるか分かったもんじゃない。

 恐る恐る老人の様子をうかがってみると、先程とは一転、悲しげな顔をした老人がそこには立っていた。

「そうか。やはり怖いか。………原因が儂だけでは無いということは、君が多分分かっておるじゃろう?」

 何を、言ってるんだ、この人は。あなたが、一番、怖いよ。

 そう言い聞かせても、駄目だった。

「君は、星が大好きじゃろうて。夢は、諦めたもんじゃないぞ。」

「あなた、僕の何を知ってるんですか⁉僕の夢なんて、解るはず無い!」

「いいや、解るさ。」

「本当にもうやめてください。警察、呼びますよ!」

 心臓が、ドクン、トクン、と脈打つ。奇しくも、老人が言った通りになっていた。この動機の原因は、老人のせいだけではなかった。

 泣きそうな田中を肯定するかのように、老人は、優しい声で話した。

「何せ、この場所はこの町で一番、星がよく見える所じゃ。」

 

 何者になる

 

 思えば、自分の人生が明確に変わったのは

 あの夜だったな、と田中は思う。地球を出て十年、度々あの事を思い出す。ある一人の老人と出会ったあの夜が。今まで、自分で選んだ道は多々ある。が、元をたどればこの道は全て老人が導いてくれた道であった。


「何せ、この場所はこの町で一番、星がよく見える所じゃ。」

 そう言われて初めて、田中は自分の頭を星明かりが照らしているのに気が付いた。久しく忘れていた感覚。その反応を見越してきたかのように、、老人は矢継ぎ早に少年に問うた。

「うむ。では、おぬしは何を夢見ておるのじゃ?」

 思わず、口から本音が溢れる。他者から耕され、乾ききっていた心の底から、再び水が湧き上がってくる。

 自分は何者になる?自分は何者になる?自分は何者かになる。自分は、何者かになるのだ。

 突如として眼前に浮かんできた希望。自分がかなえられなかった希望。老人は、少年の様子を見て、己の過去が清算されていくのを感じた。

 

 

 何者でもない



「儂は…」

 青白く輝く星空の下老人はおもむろに語りだした。

「何者でもない。考えてみれば、お主にものを言える人間ではなかったのかもしれぬな。

 そう言うと、老人は星に目を向けた。その横顔が、あまりにも幼く見えたため、田中は驚いた。

「儂は、疾うの昔に夢を捨ててしまっていた。じゃが何故かな、今もまだ星は美しく輝いておるんじゃ。どうじゃ、少年。今日の星空は?」

「とても、きれいです。」

「うむ。それでよい。」

 極限まで圧縮された時間の中、二人は星を眺め続けていた。

 どれくらいたったであろうか。田中は老人が話し続けているのに気づき、ようやく現実へと戻ってきた。

「……れはベガかの?夏の大三角形も今日はよく見えるわい。」

「そうですね、今日は、天の川もよく見えます。」

「……。晴れて、よかったのう。」

「晴れて、よかったです。」

 織姫と彦星の舞台である夏の星空、今宵は名ない二つの星のほうが、明るく輝いていたのかも、しれない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ