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第83話:魔道具メーカー「限界性能テスト」編:後編


【伝説の破壊神とお嬢様の微笑み】

 二本目、三本目、そして四本目。  テストドームには、もはや研究の熱気などは微塵も残っていませんでした。ただ、数千万、数億という開発費が文字通り「火花」となって散る絶望的な破壊音だけが、規則正しく響き渡っています。


「――はい、次。これでもう四本目かしら? 案外、時間がかかってしまいましたわね」


 大介(中身:エイミー)は、煤一つついていない真っ白なドレスの袖を優雅に払い、最後の一本――五本目の杖を手に取りました。  それはアーク・マジック社が「人類の至宝」とまで豪語し、対物戦車魔法ですら防ぎきると豪語した究極のプロトタイプ。しかし、大介の手の中にあるそれは、もはやただの「三千万円の引換券」にしか見えていません。


「あ……ああ……もうやめてくれ……! 壊さないでくれ、エイミー様ぁ!!」


 開発主任の佐藤が、ついに大介の足元に縋り付きました。その顔は涙と鼻水でぐちゃぐちゃです。


「それは我が社の社運をかけた、歴史に残るはずの一本なんだ! 壊れたら、俺の進退どころか会社が傾く! 計測データはもう十分だ、だから、どうか……!」


「あら、佐藤さん。何を仰っているのかしら?」


 大介(中身:エイミー)は、地べたに這いつくばる佐藤を冷ややかに見下ろし、どこまでも気高く、そして非情に微笑みました。


「『わが社の杖を壊せる者などいない』……そう仰ったのは貴方たちでしょう? わたくしはただ、その言葉が『真実』かどうかを確かめてあげているだけですわ。それに……」


 大介は、佐藤にしか聞こえないような小さな声で、けれど力強く付け加えました。


「契約は、最後まで遂行するのが『お嬢様』の流儀ですわ。……あと三千万、きっちり頂きますわよ?」


「ひっ……!? 鬼だ、この女……美しい顔をした、破壊の鬼だぁぁ!!」


【一億五千万の凱旋】

 大介は五本目の杖を天高く掲げました。  もはや「属性」を練る必要すらありません。ただ、エイミーの膨大な魔力を「質量」として杖の限界点を超えて注ぎ込むだけ。


「――『終焉おしまい』よ。消えなさい」


 ドゴォォォォォォン!!


 最後の一本が、これまでの比ではない爆鳴と共に粉砕されました。衝撃波がドームの強化ガラスを震わせ、佐藤の叫び声さえもかき消します。  立ち込める煙の中、大介は「クリーン」の魔法を自分にかけ、一糸乱れぬ姿で立ち尽くしていました。


「……ふぅ。いい運動になりましたわ」


 数時間後。新宿ギルドの個室。  北川さやかは、震える手で『アーク・マジック』社から振り込まれた一億五千万(の数パーセントの仲介料)の明細を眺めていました。


「……本当に、全部壊したんですのね。メーカーの社長がギルドに泣きながら抗議の電話をかけてきましたわよ? 『うちの誇りを粉々にした悪魔を野放しにするな』って」


「フン。壊れる方が悪いのよ。それより、わたくしの取り分、一円たりとも間違えないでちょうだいね、北川」


「もちろんですわ! これで当分の間、リディア・トレードの運転資金には困りませんわね!」


 二人の銭ゲバ(片方はお嬢様のフリをした大介)が、薄暗い部屋でニヤリと笑い合いました。


 その日の夜。大介は自分のアパートで、エイミーの華奢な指で通帳の数字をなぞりながら、一人で勝利の美酒(高いジュース)を味わっていました。


「(へへっ、これだけあれば白石商事への支払いも、エイミーの欲しがってた新しい魔導書も余裕で買えるな。……あいつ、帰ってきたら驚くだろうな。俺、めちゃくちゃ『いいお嬢様』やってるぜ!)」


 外では「新宿の破壊姫」という二つ名が爆速で広まりつつあることも知らず、大介は楽天的に、三日後の入れ替わり解除を待ちわびるのでした。

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