第41話:セレナへの「戦利品」披露
翌朝、リディアの王都。
エイミーは、机の上に並べられた「地球の戦利品」を前に、まだ夢心地でいた。
昨夜、戸田大介が送ってくれた見たこともないほど洗練されたパッケージの数々。
そこへ、昨日の同窓会での一件を気にかけていたセレナが、エイミーの家を訪ねてきた。
「おはよう、エイミー。こないだは……あら?」
部屋に入るなり、セレナの鼻腔を未知の甘い香りがくすぐった。
そして彼女の目は、机の上に鎮座する「異世界の品々」に釘付けになる。
「何かしら、その宝石箱のような箱は? それにその、魔導液か何かのような美しい瓶の列……」
「あ、セレナ! これ、その……大介さんが送ってくれたんです」
「戸田大介さんが? ……少し見せてもらってもいいかしら?」
衝撃の「地球魔法」
セレナがまず手に取ったのは、最高級の美容液だった。
蓋を開け、手の甲に一滴落とした瞬間、彼女の目は見開かれた。
「……信じられない。術式による強制的な幻惑魔法じゃないわ。肌の組織そのものを活性化させるような、極めて緻密な調合。リディアの王宮薬師でも、これほど不純物のない『ポーション』は作れないはずよ」
「大介さんは『すきんけあ』って言ってました。あっちの世界の技術なんですって」
「……あっちの世界は、魔法がない代わりに『理』を極めているのね」
次に二人が手を伸ばしたのは、地球の有名ブランドのチョコレートだった。エイミーが一粒、セレナの口に運ぶ。
「……っ!!」
セレナは衝撃のあまり、その場に固まった。リディアにも蜂蜜や果実の甘味はあるが、カカオの濃厚な香りと、口の中で雪のように溶ける繊細な脂質のハーモニーは、まさに未知の体験だった。
「な、何これ……。脳に直接、幸福の魔法をかけられたみたい……。エイミー、これ本当に食べ物なの? 禁忌の媚薬か何かじゃなくて?」
「ふふ、ですよね。私も最初、毒かと思うくらい美味しくてびっくりしました」
大介が選んだ丈夫なブーツを履いて見せると、セレナは感心したように頷いた。
セレナは机の上に並んだ「地球の戦利品」から視線を上げると、ふふっと悪戯っぽく笑い、エイミーの顔を覗き込んだ。
「でも驚いたわ。昨日の同窓会でのあなた、まるで見違えたもの。……ねえ、エイミー。あなた学園時代によく言っていたわよね? 『もし私に理想の厚い胸板があれば、それをおかずにご飯二杯は行ける』って」
「なっ……! セ、セレナ! 何を急にそんな昔の黒歴史を!」
エイミーは顔を真っ赤にして両手で頬を押さえた。
エルフの細身な男性ばかりを見て育った彼女にとって、大介のような、服の上からでも筋肉の起伏がわかる「厚い胸板」は、まさに信仰の対象に近い憧れだったのだ。
「あら、豪語していたじゃない。『細マッチョなんて甘えだ、真の美学は大胸筋に宿る』って。昨日のあなたの戦いぶり、まさにその理想を自分で体現していたわよ。……ねえ、実際どうだったの? 自分のものになった『理想の胸板』の感触は」
セレナの容赦ない追及に、エイミーは一瞬だけ遠い目をして、大介の体で目覚めた時のあの「弾力」と「重量感」を思い出した。
「……それは、その。……確かに、最高です。鏡を見るだけで、白米どころかリディアパン三つは余裕でいけるくらいには、惚れ惚れする完成度でした」
エイミーは一度開き直って堂々と肯定したが、すぐに我に返って身を乗り出した。
「でもセレナ! だからって、大介さんを恋愛対象にするのとは話が別です」
「……だって、私たちエルフの寿命は平均で200年でしょう? でも、大介さんの世界の人間の寿命は、平均で70年くらいなんだって。それじゃあ、生きてる時間が違いすぎるもの。私がまだ若いつもりでいても、彼はあっという間におじいさんになって、いなくなってしまう」
エイミーは窓の外、異世界の空を見つめて静かに続けた。
「だから……これは、最高の『相棒』への敬意なの。今はそれだけで十分だわ」
友情の「一歩」
「……そう。エルフの時間は、時として残酷ね」
セレナもしんみりと頷いたが、すぐに表情を明るくした。
「でも、今のエイミーは今までで一番輝いているわ。あっちの世界の『カラテ』を、こっちの魔法で再現できるように頑張ってるのね」
「うん、私、大介さんに負けないように頑張りたい」
二人の若き魔導士は、異世界の戦利品に囲まれながら、未来への作戦会議に花を咲かせた。




