第40話:120万の使い道
新宿ダンジョン第十四層。
結晶の欠片を撒き散らして消滅したブラッド・オーガの跡には、巨大な魔石と、討伐の証となる赤い角が転がっていた。
「よっしゃ、完勝だ」
大介(エイミー体)は荒い息を吐きながら、「暴君の杖」を肩に担いだ。
エルフの華奢な体は汗ばみ、銀髪が頬に張り付いているが、その瞳には勝利の昂揚感が宿っている。
一時間後、新宿の冒険者ギルド。
受付カウンターに座る職員は、目の前の可憐な少女――エイミーが提出した「ブラッド・オーガの角」を見て、震える手で報酬の束を差し出した。
「……こ、こちら、特別報酬と素材買取分を合わせて、計120万円になります。エイミー様……本当にお一人で?」
「ああ、悪いかよ。あー……いや、おっほん! 悪かったかしら? おほほ」
大介は慌ててエイミーらしい言葉遣いを絞り出し、札束をひったくるように受け取ると、風のようにギルドを後にした。
大介は新宿のデパートへと向かった。
入れ替わりの制限時間まであと一日。
この金は、エイミーの体で稼いだものだ。ならば、たまには彼女が喜ぶことに使うのが筋というものだろう。
「(あいつ、自分のこと『嫌い』なんて言ってやがったからな。少しは贅沢させて、気分を上げさせてやらねえと)」
大介(エイミー体)は、普段の自分なら絶対に入らないような高級化粧品売り場や、ブランドショップを練り歩き、いくつかの品を選び抜いた。
最高級の美肌・美容セット: 「地球の魔法」とも言える最新のスキンケア商品。
リディアにはない、甘くて高級なチョコレートの詰め合わせ。
頑丈で歩きやすい「地球製の高品質なブーツ」。
そして残りの現金は大金だ。
大介は服のポケットに、買ってきた品々をこっそりと入れた。
入れ替わりは着ているものもそのまま入れ替わりの対象だった。これなら小さなものならそのまま渡せるはず。
夕暮れ。入れ替わりの解除が始まった。
視界が歪み、魂が本来の肉体へと引き戻される。
「……っ」
目を開けると、そこは新宿の自宅リビングだった。
一方そのころ、リディアのエイミーの家では、
『だ、大介さん!? な、なんですかこの見たこともない綺麗な小瓶、それに甘い匂いのお菓子……えっ、靴まで!?』
大介は扉のこちら側で、壁にもたれかかりながらニヤリと笑った。
「お前の体で一稼ぎしてきたんだ。その金はお前の給料だ、好きに使え。それと、その小瓶は『すきんけあ』ってやつだ。……お前、自分のこと嫌いだって言ってたけどさ。たまにはそうやって自分を甘やかしてやれよ。お前は、それだけのことをしてるんだからな」
扉の向こう側、リディアの世界で、エイミーは自分の本来の手に戻った「暴君の杖」と、机の上の贅沢品を交互に見つめていた。
大介の声は届かないが、不器用だが真っ直ぐな励ましを感じた気がする。
『……っ。もう、大介さんのバカ。勝手に人の体で無茶して……でも、……ありがとうございます。大切に、使いますね』
リディアの夜、エイミーの部屋には、地球から贈られた甘いチョコレートの香りが静かに広がっていた。




