第169話:新時代の夜明け
ダンジョンから帰還した一行を待っていたのは、夕闇に沈む山間に煌々と光る、数十台もの車両のライトだった。
無傷で戻った大介とエイミーに対し、ボロボロになった特務探索者たち。
その対照的な姿が、事の結果を何よりも雄弁に物語っていた。
「戸田代表、エイミー様。……恐れ入りました」
氷室は深々と頭を下げた。もはやそこには、相手を推し量るような冷徹な視線はない。
あるのは、畏怖と、それ以上に巨大な「希望」を見出した政治家としての熱量だった。
「今回の調査結果を受け、政府はリディアトレードと正式に『国家戦略的パートナーシップ契約』を締結することを決定しました。後日、総理官邸にて調印式を行います。……異世界の扉を開く鍵は、貴方たちが握るべきだと判断いたしました」
「賢明な判断ですわ。……ただし、私たちのやり方に口出しはさせませんことよ?」
エイミーは『世界樹の枝杖』を消すと、不敵に微笑んだ。
数日後。調印式のニュースは全世界を駆け巡った。
だが、真に世界を震撼させたのは、その直後に始まったリディアトレードの「本格始動」だった。
まず発売されたのは、リディア産の薬草と地球のバイオ技術を融合させた**『リディア・リカバリー』**。
従来のポーションを遥かに凌ぐ治癒力を持ちながら、一般人でも手の届く価格帯でリリースされたその飲料は、医療の常識を一夜にして塗り替えた。
さらに、ガザル経由で調達された異世界の美白成分を配合した化粧品ライン**『ルナリス・エッセンス』**。
地球の化粧品を研究して魔法開発された商品を逆輸入した形だ。
「エルフのような美しさを」というキャッチコピーと共に、エイミー本人が広報モデルとして映像に現れると、予約サーバーは五分と持たずにパンクした。
新宿の街頭ビジョンには、かつて「ドリル魔女」と揶揄されたエイミーが、白銀の法衣を纏い優雅に微笑む姿が映し出されている。
「……ねえ、大介さん。見てくださいな。みんな、私たちの商品を求めて列をなしています」
双葉荘の窓から、遠く新宿の喧騒を眺めながらエイミーが言った。
「ああ。知名度は十分だ。これでようやく、俺たちのビジネスが『基盤』に乗ったな」
大介は拳を握り、自らの腕に刻まれた戦いの記憶を思い返す。
二億円の落札額から始まった狂騒は、今や国家を動かし、人々の生活を変える巨大なうねりへと成長していた。
ネット上では、この「リディアトレード現象」について、連日怒涛の議論が交わされていた。




