第157話:第二回オークション
新宿ギルドの地下。かつて二億円を叩き出し、リディアトレードの伝説が始まったその場所に、再び異常な熱気が渦巻いていました。
今回のオークションは、開催前から異常でした。リディアトレードが「歴史的発表」を行うと予告していたため、会場には前回を遥かに凌ぐ政財界の重鎮や、各国のエージェントまでもが顔を揃えていたのです。
「……ふん。相変わらず、俗世の空気は濁っていて不快ですわね」
貴賓席に座るエイミー(中身は大介)は、銀髪の隙間から「尖った耳」を堂々と晒し、不敵な笑みを浮かべていました。
いつもの高飛車な魔女のロールプレイです。
見た目は可憐なエルフの少女。しかし、その内側で大介は必死に心臓の鼓動を抑えていました。
「(よし……耳は出した。設定通り『エルフの王族』っぽく振る舞うぞ。エイミー、カンペ頼むぞ!)」
その背後に控える屈強な大男、大介(中身はエイミー)が、低く渋い声で耳打ちします。
「……落ち着いてください、大介さん。もっと顎を引いて、下界を見下ろすような目で。……そうです、完璧です」
ついにメインディッシュの時間が訪れました。
会場の照明が落ち、一点の曇りもないクリスタル容器に収められた、淡く発光する液体がステージに運び込まれます。
「皆様、お待たせいたしました! 本日の目玉、リディアトレード提供——『霊樹の雫』です!」
司会者の声が震える。会場がどよめく中、エイミー(中身は大介)が静かに立ち上がり、手すりの前へと進み出ました。
「静まりなさい」
大介はエイミーの鈴を転がすような声を使い、会場全体を圧するようなプレッシャーを放ちました。
「それは我が故郷、エルフの国にのみ伝わる至宝。魔力を恒久的に安定させる奇跡の雫。地球では魔法使いが貴重と聞いています。……その価値、言葉よりも真実でお見せしましょう」
エイミー(中身は大介)が手招きすると、背後に控えていた大介(中身はエイミー)がステージの中央へと歩み出ました。代表自らの登場に、会場の視線が一斉に注がれます。
「我が社の代表であるこの方は、魔力においては凡夫も同然。……代表、お願いします」
大介(エイミー体)の指示に従い、大介(中身はエイミー)が魔力を練り、指先に火を灯します。
しかし、その体格に見合わず、現れたのはライターの火よりも小さく、今にも消えそうな頼りない火種でした。
会場からは「なんだ、あんなものか」
「代表がこれでは……」と落胆の混じった失笑が漏れます。
「(……大介さん、いきますわよ)」
「(ああ、派手にかましてくれ!)」
大介(中身はエイミー)は、差し出された『霊樹の雫』を一滴、その身に含ませるパフォーマンスを見せました。
直後、大介の肉体の中で眠っていた潜在的な魔力が、霊樹の雫によって劇的に増幅・安定し、目に見えるほどの蒼い輝きを放ち始めます。
「……ハァッ!」
大介(中身はエイミー)が力強く腕を振るった瞬間、先ほどとは比較にならない巨大な紅蓮の火柱が、天井を焦がさんばかりに噴き上がりました。
轟々と燃え盛る炎の熱波が、最前列の観客たちの顔を赤々と照らし、会場全体が恐怖に近い静寂に包まれました。
「……ご覧の通りです。消耗品ですが、一時的でも魔力を高めたいなら、他にない選択肢となるでしょう。信じる者だけが、その価値を競いなさい」
一瞬の静寂。直後、代表の肉体で示された圧倒的な効力に、会場が爆発しました。
「5千万!!」
「7千万だ!!」
「1億!! 我が社は1億出す!!」
跳ね上がる数字。一階席ではエージェントたちが血走った目で端末を叩き、二階席の富豪たちが互いを睨みつけます。
「(……お、おいエイミー! 1億突破したぞ!)」
「(大介さん、お、お、落ち着いてください。……ふふ、大成功ですね)」
最終的に、『霊樹の雫』は中東の石油王によって二億円で落札されました。リディアトレードの圧倒的な完全勝利。
アパートへ戻る車内。二人はようやく深く息を吐き出しました。
「……やったな、エイミー。俺の体であんな火炎出された時、焦げないかヒヤヒヤしたぞ」
「ふふ、加減はしてます。でも、これで『リディアトレードの代表』の名前も、エルフの存在と一緒に世界に刻まれましたね」
二人の「城」は、もはや単なる隠れ家ではなく、世界が注目する「新時代の拠点」へと変貌を遂げようとしていました。




