第143話:王都の熱狂、束の間の休息
ついに辿り着いた王都。城壁を潜れば、そこには新宿の喧騒とも、リディアの片田舎とも違う、圧倒的な熱量がありました。
数日後に控えた「王国武闘大会」を祝う祭礼により、街路は色とりどりの旗で飾られ、屋台からは香ばしい肉の焼ける匂いと、甘い果実の香りが漂っています。
「……すごいですわね。人が、ゴミのようです」
エイミーはいつものように銀髪をかき上げ、不機嫌そうな口調を作りますが、その瞳は見たこともないほど煌びやかな王都の景色を前に、子供のように輝いていました。
「おい、エイミー。はぐれるなよ」
大介が自然に手を差し出すと、エイミーは一瞬驚いたように目を見開き、それから「……仕方ありませんね」と呟いて、嬉しそうにその大きな掌に自分の指を絡めました。
修行の成果か、二人の歩調は驚くほど一致しています。
ガルガンとリリーは「俺たちは酒場へ行く」と気を利かせて別行動。今、この賑やかな街の中に、二人だけの時間が流れていました。
「大介さん、見てください。あれ、地球の『リンゴ飴』に似ていませんこと?」
「本当だ。こっちでは『焔果の蜜がけ』って言うらしいな。一つ買ってみるか」
屋台で購入した真っ赤な果実を差し出すと、エイミーは人目を忍ぶようにして、ぱくりと小さな口を開けました。
「……ンッ、甘いですわ。……でも、大介さんと食べた地球のアイスの方が、ほんの少しだけ……美味しかったかな」
頬を赤らめ、視線を泳がせるエイミー。
繋いだ手から伝わる鼓動は、期待と緊張で小さく跳ねていました。
ふと、二人は広場の中央に張り出された、巨大な対戦表の前に足を止めました。
「……いましたわ。アルフレッド・ヴァンハイム。……そして、お父様や兄様たちが期待を寄せる騎士たちの名が」
その名を見た瞬間、エイミーの手が微かに震えました。
かつて彼女を閉じ込め、道具として扱おうとした「家」という呪縛。その象徴が、すぐそこに迫っています。
「大丈夫だ。……俺がいる」
大介が繋いだ手に力を込めると、エイミーは深く息を吐き出し、再び凛とした顔で前を見据えました。
「ええ。……怖くはありません。今の私には、この街の誰よりも頼りになる、最強のパートナーがついていますから」
華やかな祭りの喧騒の中、二人は誓いを新たにしました。この賑わいの先に待つのは、過去を精算し、自由を証明するための戦い。
「……さあ、大介さん。最後の一軒まで付き合っていただきますわよ。明後日からは、戦いの日々(修行)なのですから!」
「ああ、分かってるよ」
銀髪の美少女に引っ張られ、大介は苦笑しながら、光り輝く王都の夜へと踏み出していきました。




