第134話:少し前の王都の酒場
王都で最も賑わう一等地に店を構える高級酒場『竜の吐息亭』。 ここは腕利きの冒険者や商人が集まり、日々莫大な金と情報が動く場所だ。
今夜、その喧騒の中心にあるのは、掲示板に貼り出されたばかりの「公示」だった。
「……おい、マジかよ。パーティ単位でのAランク昇格だってよ」
一人のベテラン戦士が、エールを片手に掲示板を指差した。
そこには、大介、ガルガン、リリーの三人の名と、新たなAランクパーティの誕生を告げるギルドの公印が押されていた。
「ガルガンとリリーは知ってる。Bランクでも指折りの実力者だった。だが、あのリーダーの『ダイスケ』……。あいつ、数ヶ月前まで無名のCランクだったはずだろ?」
「ああ。だが噂じゃ、あの『森の破壊者』を素手で粉砕したらしい。それも、ただの打撃じゃない。魔法とカラテとか言う格闘術を融合させた、見たこともない技を使うって話だ」
酒場中に、その「魔法空手」という奇妙な響きが伝播していく。
「魔法空手? 魔法使いが拳で殴るのか?」
「いや、拳の風圧で魔法を飛ばすらしいぞ」
「なんでも、魔力を直接体内で爆発させて神速を実現するとか……」
尾ひれがついた噂が飛び交う中、当の本人たちが酒場の扉を潜った。
「おーい! 店主、こっちに一番いい酒を持ってこい! 今日は祝杯だ!」
ガルガンの野太い声が響いた瞬間、酒場の空気が一変した。
さっきまで騒いでいた冒険者たちが一斉に静まり返り、三人の歩みに合わせて、モーセが海を割るように道が開いていく。
「……これがAランクの『風圧』かよ」 誰かが呟いた。
大介は、周囲の視線を肌で感じながらカウンターへと歩を進めた。
以前なら気後れしていたであろう強者たちの視線も、今の大介にとっては心地よい微風にすぎない。
エイミーの体で高慢な魔女として振る舞い続け、無数の魔術師たちの羨望と嫉妬に晒されてきた経験が、彼に揺るぎない「王者の風格」を与えていた。
「大介、あんた本当……有名人ね。これじゃ落ち着いて飲めやしないわ」 リリーが周囲の視線に肩をすくめながらも、その口角はわずかに上がっていた。
「……名声は、後からついてくるものだろ。今はただ、この一杯を味わいたい」
店主が恭しく差し出した、最高級のヴィンテージ・エール。 大介がそれを一口煽ると、酒場全体に「新時代の到来」を祝福するような、一段と大きな歓声が巻き起こった。
リディア王都。その歴史に、新たな「伝説」が刻まれた瞬間だった。




