第123話:真価の発揮、空手の真髄
ギルド裏の訓練場。石畳が敷かれたその場所で、大介はガルガンと対峙していました。
以前、エイミーが大介の体に入っていた時は、慣れない肉体に振り回され、魔道具の爆炎グローブを「当てる」ことだけに必死でした。
しかし、今ここにいるのは**「空手の有段者」**である大介本人です。
「行くぜ、大介ぇ! 鈍った体に活を入れてやる!」
ガルガンが巨大な斧を担ぎ、地響きを立てて突進してきました。
常人ならその威圧感だけで竦み上がるような一撃。しかし、大介の瞳は冷徹なほどに静かでした。
(相手が「動こう」とした瞬間、その「先」を打つ。……空手の基本だ)
大介は僅か一歩。最短の動作で斧の軌道から身をかわすと、ガルガンの懐へと滑り込みました。
「なっ……!?」
ガルガンが驚愕に目を見開いた瞬間には、すでに大介の「正拳」が彼の分厚い鎧の隙間、鳩尾を的確に捉えていました。
「ふんっ!!」
鋭い呼気と共に放たれた一撃。魔道具の爆炎に頼らない、純粋な身体操作と体重移動が生み出した衝撃が、ガルガンの巨躯を文字通り「浮かせて」数メートル後方へ吹き飛ばしました。
「……ガハッ!? お、おいおい……なんだ今の動きは!?」
地面を転がり、必死に体勢を立て直したガルガンが、信じられないものを見るような目で大介を凝視します。
傍らで見ていたリリーも、持っていた矢を地面に落とすほど呆然としていました。
「……大介、あんた。しばらく見ないうちに、一体どんな修行をしてきたのよ?」
リリーが震える声で尋ねます。
「前までのあんたは、力任せに突っ込んで、あとはあのグローブの火力で押し切るような戦い方だったわ。でも今のは……無駄が一切ない。まるで、相手が次にどう動くか分かっているみたいじゃない」
「ああ。……今まではこの体の『力』を振り回してただけだったからな。今は『技術』でその力を一点に集める方法を思い出してるんだ」
大介は静かに拳を握り直しました。
中身がエイミーだった時に、魔法のコントロールで足掻いた経験が身体強化魔法に活かされていた。
これまでの経験が大介本人の技量と噛み合い、さらなる高みへと昇華されようとしていました。
「面白い……面白すぎるぜ大介ぇ! さっきのは油断だ、次は本気で叩き潰してやる!」
ガルガンが興奮で顔を赤くし、再び斧を構えます。
「いいぜ。……その代わり、次は俺の『魔法格闘術』の実験台になってもらうからな」
大介の体から、微かな、けれど研ぎ澄まされた魔力が溢れ出します。
空手の「型」と異世界の「魔力操作」。
二つの世界の力が融合し、リディアの地でかつてない最強の拳が産声を上げようとしていました。




