第111話:扉の向こうの、たった一人の「城」へ
夜の街を駆け抜け、エイミーは交差ダンジョンのゲートを飛び越えました。
息を切らしながらアパートの扉を開けると、そこには数日前から連絡が途絶え、彼女の姿を探し続けていた男が、険しい表情で立ち尽くしていました。
「……エイミー! お前、今までどこに行ってたんだ!」
大介の怒鳴り声に近い叫びが、狭い部屋に響きました。
その手には、彼女の身に何かあった時のためにと用意されていたのであろう、使い古された装備が握られています。
「急にいなくなるから、おまえの実家で何かあったのか心配で仕方なかった……。最悪の事態ばっかり頭をよぎったんだぞ。無事なら、なんで一言連絡しなかった!」
大介の肩は激しく上下しており、その瞳には怒りよりも、彼女を失うことへの切実な恐怖が滲んでいました。
その「デリカシーのない大きな体」が、どれほど自分を想って震えていたか。それを目の当たりにした瞬間、エイミーの胸に、セレナの言葉が熱くこみ上げてきました。
「……ごめんなさい。本当に、ごめんなさい。大介さん」
エイミーは立ち尽くしたまま、ただ深々と頭を下げました。
いつもなら「心配しすぎです」と笑い飛ばすところですが、今の彼女にはそんな余裕はありません。
「お前……泣いてるのか?」
大介の声から、ふっと棘が抜けました。彼は持っていた装備を床に置き、戸惑いながらもエイミーに歩み寄ります。
「何があった。誰かに何かされたのか? 俺にできることなら、何だってしてやるから……」
「……誰のせいでもないんです。私、怖かったんです。大介さんに会うのが……会って、自分がどうなってしまうのかを考えるのが」
エイミーは顔を上げ、涙で滲んだ瞳で大介を見つめました。
彼女の視線の先には、自分を心配して、真っ直ぐに自分だけを案じてくれる、不器用で温かい大介がいます。
「私……お話ししたいことがあるんです。ずっと、一人で考えていたことです」
彼女は震える指先で自分の腕を抱きしめました。
今ここで言葉にしてしまえば、もう「ただの相棒」には戻れない。
それでも、セレナに背中を押されて辿り着いたこの「城」で、これ以上自分の心に嘘をつき続けることはできませんでした。
「……おう。話せよ。お前が納得いくまで、いくらでも聞いてやる」
大介は、彼女の心の揺れを敏感に感じ取ったのか、それ以上は詮索せず、静かにパイプ椅子を引き寄せました。
狭い部屋の中に、二人の吐息だけが重なるような、痛いほどの静寂が流れます。
銀髪の魔法使いは、唇を噛み締め、覚悟を決めたようにその口を開きました。




