105.5話 女帝の鑑定、男の覚悟
大介の不安はさらに色濃くなっていました。「エイミーさんだって都合がある」という言葉では説明のつかない、あの部屋の「冷たさ」が脳裏から離れません。
「……あいつを、このまま暗闇の中に置いておけるかよ」
大介が最後の手がかりを求めて向かったのは、リディア側にあるセレナの屋敷でした。
夜、急に訪ねてきた大介に対し、セレナは不機嫌さを隠そうともせず、応接間の椅子に浅く腰掛けて冷たいハーブティーを口にしていました。
「……こんな夜更けに、何の用かしら? 戸田大介さん。エイミーなら、もうあなたとは会わないと言っていたはずよ」
「セレナ……頼む、教えてくれ! エイミーがいなくなったんだ。部屋へ行ったが、もぬけの殻だった。あいつ……いったい何があったんだ!?」
必死に食い下がる大介。セレナはティーカップをソーサーに戻し、カチリと硬い音を立てました。
「やっぱり、あの子、本当に閉じこもってしまったのね。……昨日、あの子に会いに行ったわ。ひどい顔をしていた。『好きになればなるほど、失う時の恐怖で頭がおかしくなりそう』だって泣きじゃくって……。私が何を言っても、耳を塞いで『一人にして』と叫ぶばかりだったわ」
セレナは大介を、品定めするような鋭い目で見つめました。
「大介さん。あなたが以前送ってくれた『地球の魔法』や『チョコレート』。あの子、あれを手に取るたびに、少女のように瞳を輝かせていたわ。でもね、エルフにとっての200年と、あなたの世界の70年……その残酷な差は、あの子にとって、魔法では消せない死の宣告と同じなのよ」
「……っ」
「あの子は今、自分の心の『城』に鍵をかけて、誰の手も届かない暗闇の底へ逃げ込んだわ。あなたが放つ『人族としての生気』が、今のあの子には眩しすぎて耐えられないの。……ねえ、大介さん。あなたはあの子に、何をしてあげられるの? 拳を振り回すことしかできない、寿命の短いあなたが」
セレナの言葉は、大介の最も痛い部分を正確に抉りました。
大介は拳を握りしめ、震える声で、しかし真っ直ぐに答えました。
「……何も、できないかもしれない。あいつより先に死ぬのも、変えられない事実だ。でも、あいつが一人で泣いてるのを放っておくことだけは、絶対にできない。あいつが俺を忘れるくらい長い時間生きるとしても、今この瞬間、俺があいつを必要としてるんだ!」
大介の剥き出しの感情に、セレナは一瞬だけ目を見開き、ふっと溜息をつきました。
「……本当、エイミーの趣味には困ったものね。あんなに『厚い胸板が理想』だなんて言っていたけれど、中身まで暑苦しい男を連れてくるなんて」
セレナは机の引き出しから、一枚の古い羊皮紙を取り出し、大介に投げ渡しました。
「これは……?」
「あの子の実家の場所よ。エイミーが行ける場所なんてそう多くない、恐らくそこにいるはず……」
「セレナ……!」
「勘違いしないで。私は、私の『親友』が、あんな湿っぽい顔で引きこもるのが我慢ならないだけ。……でももう少し待ってあげて。きっと今戻ってもあの子の居場所なんてないはず。考える時間が必要なのよ」
「分かった。少し俺の方で考えてみる。ひとまずエイミーに危険が迫ってるわけではないことが分かっただけでも助かった」
セレナの言葉に背中を押され、大介は地図を胸に詰め、夜のリディアを駆け出していきました。




