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転生したら無職で追放されたけど、実はチートだったので、とりあえず、魔王というやつをこの目で確めて来ます  作者: 真柴 零
和の国編

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ep13.和の国編 大天狗の国

一度、奏雅に別れを告げ、創夜達とカエデは創夜の瞬間移動スキルで狛犬の大天狗の国の入り口の門へ移動するのだった。

創夜の瞬間移動スキルが発動し、一行の足元が入れ替わる。


 次に彼らが立っていたのは、雲の切れ間にそびえ立つ、巨大な霊山の麓だった。山頂は分厚い雲に覆われ、麓から中腹にかけては巨大な岩を削り出したかのような黒い鳥居と、荘厳な結界門が連なっている。


 ここは、大天狗の国。風と霊気が渦巻く、峻厳な神域、大天狗神社の境内そのものだ。

「うわぁ、でっかい山だね」ミリィが目を丸くする。


「まさしく、神社の山ね。水底都市とはまた違った荘厳さだわ」セリアが霊気の濃さに感心したように呟いた。


 一行は、山頂へと続く最初の巨大な門の前に立つ。門は、岩と風の霊力で編まれたような複雑な結界で閉ざされていた。


「大天狗の封印はここか。随分と頑丈なもんだな」創夜が門のクリスタルに軽く触れる。


 その瞬間、門の結界から、ねっとりとした黒い影が滲み出した。風の唸りが邪悪な波動へと変わり、空気が凍りつく。


 ズゥン……ズゥン……



 影はみるみるうちに巨躯を形成し、漆黒の毛皮に蝙蝠の翼、そして歪んだ第三の眼を持つ妖魔となった。


 その名は、影狼かげろう。大天狗をこの山に封じ込めた、妖魔王の忠実な妖魔だ。


「我は、影狼。この大天狗の国の守護を司る。火の意思を穢した者どもめ、これ以上神域へ立ち入ることは許さぬ」


「おっと。影か。」カエデは双剣を構え、炎を燃やし始めた。


 影狼は、低く、威圧的な声で笑う。


「まずは挨拶代わりだ。」


 影狼の翼が大きく広げられると、黒い影と風の霊力が混ざり合った、おぞましい眷属たちが数十体、門の結界から溢れ出した。風を纏った骨の兵士、影でできた狼の群れ。


「うわー、大群だ」ミーナがあくびをしながら、尻尾を振る。


「まあ、こいつらは私達が遊んでいいってとこよね、創夜。」セリアが杖を回す。


 創夜は剣を抜かず、手のひらを前に向ける。

「カエデ、お前はメインディッシュに集中しろ、本体以外は俺達が暇潰しに遊んでやる」


「任せろ!」


創夜の言葉を合図に、戦闘が始まった。

「承知いたしました、ご主人様。この程度、お戯れにもなりません」ミーナは悪魔の書(ソロモンの書)を片手に、創夜の横に立つ。


「アル! 遊びアルね! リンちゃん、思いっきり行っちゃうアルよ!」武道着姿のリンはガントレットを鳴らし、元気いっぱいに叫んだ。


 影狼が生み出した眷属の群れは、一斉に創夜たちへと殺到する。


 しかし、創夜パーティの動きは、すべてが無我の境地を極めたものだった。


 創夜は刀を握る代わりに、掌から不可視の霊力刃を放つ。


ーー無数次元断インフィニット・スライス

 目にも留まらぬ速さで空間が薄く切り刻まれ、影の眷属の群れが一瞬で霧散していく。


 ミリィは、残った風の骨兵士たちの攻撃を、すれすれの最小の動きでかわし続ける。


「当たるわけないでしょ!」


 彼女の瞬速の剣が、骨兵士の急所を一撃で粉砕し、霊体を浄化する。


 セリアは杖を回しながら、襲い来る影狼の眷属を軽く見下す。


「ふふ、アストラルコントロールは、あなたの影より速いのよ」


 彼女の制御魔法が、風の霊力を操る眷属の動きを完全に止め、そこに集中した炎の術を浴びせ、焼き払った。


 そしてリンとミーナ。


「 黒い狼対して強くないネ!、前のやつの方が手応えがあったアル!」リンは敢えて眷属の攻撃を受け止めながら、竜の里の気を込めたガントレットの一撃で、風を纏った狼の群れを山肌に叩きつけた。


「フフ、では私は実用的なものを」ミーナは悪魔の書を開き、数体の低級悪魔を呼び出し、残りの影の群れを囮のように食わせて、あっという間に消滅させた。


 数十体いた妖魔の群れは、わずか数十秒で、跡形もなく消え去った。


 影狼は第三の眼をカエデへと向けた。

「ふむ……厄介な手駒が揃っているが、本命は貴様。火の意思を継ぐ娘か。その荒々しい炎、ここで潰してくれる」


 影狼が巨大な爪を振り上げ、カエデめがけて突進する。


 カエデは迎え撃つように、全身の霊力を解き放ち、鬼神の力を解放した。


「舐めんじゃねぇ! 全力でぶった切る! 鬼神化きじんか!!」


 全身を包む黒炎のオーラ。カエデの振るった双剣が、影狼の巨体に深々と突き刺さる。


「《黒炎双牙・鬼王斬こくえんそうが・きおうざん》!!」


 爆発的な黒炎が影狼の内部で弾けるが、影狼は黒い煙を噴き出し、瞬時に傷を治癒させた。


「ぐおおおおッ!! ぬらりひょんの屍を超えてきただけはある! だが——甘いぞ!!」


 影狼は、水底での時とは比較にならない、強力な影の力でカエデの全身を拘束した。


「水底での影縛りとは格が違う! 《影の牢獄・絶空の鎖かげのろうごく・ぜっくうのくさり》!!」

 カエデの足元の影が鎌首をもたげ、全身を無数の鎖で拘束する。黒炎が鎖を焼き切ろうとするが、鎖は焼き切れるごとに増殖し、カエデの霊力を吸収していく。


「くっ……固すぎる! 鬼神化の力でも、霊力の消耗が早すぎる……!」


「黒炎を纏おうとも、貴様はまだ『鬼』の力に呑まれかかっている。その隙間を、この闇が永遠に封じる!!」


 影狼が口を開き、風と影を凝縮させた黒いレーザーをカエデに向けて放つ。拘束されたカエデは、力を振り絞ろうともがくが、影の鎖は霊力を吸収し、身動きが取れない。


「冗談じゃねえ……こんなところで!!」

 極限まで追い詰められたカエデは、最後の力を振り絞り、天を仰いで全身全霊で叫んだ。


「神様、お願いしますッ!!」

 カエデの叫びは、山全体を揺るがすほどの霊力となって拡散した。


 その叫びに呼応するように、鉛色の空の遥か上空、雲を突き破って空間が二箇所裂け、灼熱の光と疾風のオーラが降り注ぐ。


 一つ目の裂け目には、三つの顔と六本の腕を持つ、金剛のごとき巨大な像、阿修羅あしゅら様が光の影として浮かんだ。


 二つ目の裂け目には、優雅な羽衣を纏いながらも、光速の疾風を操る二面六臂の姿、韋駄天様が、光の残像として現れる。


 阿修羅様の六本の腕から、回避不可能なほどの高出力の金剛滅尽光こんごうめつじんこうが一斉に放たれた。


同時に降臨した韋駄天様が、一瞬でカエデの前に立ち、その六本の腕が凄まじい速さで光速結界・風塵壁こうそくけっかい・ふうじんへきを展開。

 光速結界は、影狼の黒いレーザーと、阿修羅様の高出力の光線を、ギリギリのところで相殺させた。


「動けぬは貴様ではない、敵だ」韋駄天様がカエデを拘束する影の鎖へ、風の霊力を注入。鎖が霊力で侵食され、一瞬にして弛緩する。


「動ける!!」カエデは束縛から解放され、再び全身に黒炎を纏う。


 影狼は神の権能に驚愕し、動きが止まった。

『破壊せよ』阿修羅様が静かに告げる。


 カエデは、韋駄天様のスピードの加護と、阿修羅様の破壊の力を身に宿し、黒炎の双剣を交差させた。


「神様と鬼神の合わせ技だ! テメェなんか木っ端微塵だ!!」


 韋駄天様の加速がカエデを光速の一閃へと変え、阿修羅様の権能が破壊のエネルギーを黒炎に上乗せする。


 カエデの放った渾身の一撃は——

「《黒炎神鳴・疾風業火斬こくえんしんめい・しっぷうごうかざん》!!」


 影狼の巨体は、一瞬の閃光と共に、山頂まで届くほどの巨大な黒炎の柱に飲み込まれた。

 影も闇も、そして影狼の存在そのものも、完全に消滅した。


 カエデは鬼神化を解き、肩で息をする。空の神々の光の影も、ゆっくりと消えていった。


「すげえ……カエデ、やったな!」創夜が満面の笑みでカエデの元へ駆け寄る。


 影狼が消滅したことで、門を閉ざしていた結界が、光の粒子となって霧散する。


 巨大な門の奥からは、古木の香りと、清涼な風が吹き込んできた。


 そして、門の奥、山の麓にそびえ立つ巨大な祠の中から、一人の老人がゆっくりと姿を現した。


 鋭い眼光を持つ白髪の老人だが、背中からは巨大な黒い羽根が広がり、高貴な霊気を纏っている。彼こそが、この国の主、大天狗だった。


「……よくぞ、わしを封じた妖魔を討ち果たしてくれた。火の意思を継ぐ者よ、そしてその一行」


 大天狗は深々と一礼する。

「大天狗様! あの……早速なんですが!」創夜が前に出る。「俺たち、鍛冶職人の仙人を探してるんですけど、心当たりはありますか!?」


 大天狗は、その鋭い瞳で創夜をじっと見つめ、ゆっくりと頷いた。


「鍛冶職人の仙人はこの国にもおらぬようだな、恐らくこの先の黄泉の国にいるだろう、火の意思を継ぐものよ、黄泉の国に妖魔王がおる。この先の山の頂上を越えたさきに黄泉の国がある。」


一行は、水の意思を継ぐものとカエデが一緒に黄泉の国へ入る必要があるため、各国の神社巡りが終わるまでカエデの家でカエデに妖魔を創夜達が倒してしまったお詫びとしてカエデに修行をつけることにした。


カエデの里に、修行の熱気が満ちた。奏雅が残る十一箇所の神域を巡り、大天狗の国へ辿り着くまでの間、カエデの力は驚異的な速度で進化していくのだった。


 創夜の繰り出す空間の刃や、ミリィの光速の突き、セリアの緻密な霊力制御、そしてリンとミーナとの実践的な連携。規格外の師たちによる特訓は過酷だったが、カエデは持ち前の根性と鬼神の力で全てを吸収していった。


 特に、鬼神化状態での霊力消費は大幅に改善され、韋駄天様の加護なしでも、高速で動けるようになるまで成長していた。


「ふぅ……最高だぜ! 創夜、もう一戦!」カエデが双剣の炎を燃やしながら叫ぶ。


「私が教えた気をしっかりと使うアル!攻撃が避ける速度がまだまだアル。」


「これで最後だ。お前の炎、もう一段階上に行けそうだな」


 創夜が笑った、その瞬間——


 里全体を包む空気の波動が一変した。それは、山脈のように重厚で、湖底のように静かな水の霊気。


「……奏雅そうがだ」セリアが静かに呟く。


 水の意思を継ぐ者、奏雅が、約束の場所である大天狗の国へ辿り着いたのだ。


 創夜はすぐに瞬間移動を発動させ、一行全員を大天狗の神社へと連れ戻した。


 門をくぐり、祠の前に立つと、水の意思を継ぐ者・奏雅が、大天狗と向き合って立っていた。長い水色の髪が、霊山の風に静かに揺れている。


 奏雅は、疲労の色一つ見せず、真っ直ぐな瞳で創夜たちを見つめた。


「創夜殿、カエデ殿。待たせたな」

カエデが元気よく答える。「奏雅! 待ってたぜ!」


 奏雅は静かに首を振った。


 創夜の瞳に、強い光が宿った。


「ご主人様、ついに最後の目的地です。黄泉の国、悪魔の力も存分に揮える場所よ」ミーナが忠実に進言する。


 創夜は剣の柄に手を置き、決意を固める。


「よし。カエデ達は妖魔王だな。俺達は鍛冶職人の仙人を探しに行く。」


 奏雅は、氷のように落ち着いた瞳で創夜を見た後、深く一礼した。



 カエデは双剣を握りしめ、力強く頷いた。

「任せろ!妖魔王をぶった斬って帰ってきてやる!」


 大天狗は、創夜たちを山頂へと続く結界の奥へと導いた。


「山頂の祠に、黄泉の国への入口がある。だが、一度入れば生きて帰れる保証はない。覚悟はよいな」

「ああ、できてるとも」


 創夜は短く応え、カエデ、セリア、ミリィ、リン、ミーナを率いて、雲を突き抜けて山頂へと続く、険しい道を踏みしめた。


 山頂の祠の奥には、風も霊気も吸い込まれていくような、巨大な黒い亀裂が口を開けていた。


 その先は、この世の全てを拒絶する、黄泉の国。


「行くぞ」


 創夜は刀を抜き、その刃を最初に黒い亀裂へと向ける。


 光を呑み込む異界の闇の中へ、創夜たち一行は、躊躇なく飛び込んでいった。


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