ep1.玉座なき魔王編 プロローグ
星間を繋ぐ門『ヨグ=ソトース』との激戦から数日。世界を覆っていた混乱は鎮まり、創夜たちは平和な日常を取り戻しつつあった。しかし、あの次元を超えた戦いの記憶は、彼らの心に一つの疑問を植え付けていた。
安堵に浸る中、創夜は、ふと遠い目をしながら、妙なことを口にした。
「なあ、神鳴りの洞窟、行ってみないか、酒場の老人が不思議な場所だっていってたから一度行ってみたくなったんだ。武器もなんかクリスタル状になったままだし。玉座なき魔王の手がかりも、ヨグをほぼ瞬殺したせいでなんの手がかりもつかめてないし、知識の図書館はだんまりだったから、手詰まり状態だ」
ミリィが首を傾げる。
「神鳴りの洞窟?なんか変なこと言っていたよね。おじいさんがさぁ」
「だろ。なんかあるかもしれないだろ、神が鳴るって書くらしいしな」
創夜は剣の柄を撫でながら、どこか落ち着かない様子で続けた。
「ヨグ=ソトースと戦った後から、どうも頭の片隅に引っかかってて。『神鳴り』なんて、ろくでもない名前だが……なんか、気になるんだよ」
リンがガントレットを握り直し、目を輝かせる。
「直感アルか! 創夜のそういう勘は当たるアル! きっと何か面白いものがあるに違いないアル!」
ミーナが悪魔の書をぱたんと閉じる。「好奇心には勝てないね。まぁ、退屈してるよりはマシかも」
フィーリアは、少し心配そうに創夜を見るが、セリアが「神々のお導きかもしれないわ」と前向きに微笑んだ。
「異界のゲートよりはマシだろう」と、創夜は立ち上がり、軽い気持ちでその洞窟へと向かうことを決めた。
神鳴りの洞窟は、地図が示す通り、人里離れた山中にひっそりと口を開けていた。内部は予想に反して静寂に包まれ、雷鳴の痕跡一つ見当たらない。
洞窟は中にはいると、周囲の壁面は、いつの間にか奇妙なほど滑らかに変化していた。そこにあるのは、無数の鏡――。だがそこに映る自分たちは、本物とは全く異なる表情と服装をしていた。
創夜が足を踏み入れると、彼の黒い外套をまとった姿が鏡に映る。だが、その像は、創夜とは真逆の、眩しいほどの純白の服を身に纏い、その表情は、いつもの飄々とした創夜とは異なり、圧倒的な怒りと、少しの威圧感を帯びていた。
創夜の黒い服は、鏡の中では眩しい白い服。
リンの青い武道着は、引き締まった赤い武道着だ、何故かズボンをはいていないチャイナドレス風の武道着から足が見えている。
ミリィの青いビキニアーマーは、セクシーな面積が更に少なめの赤いビキニアーマー。
セリアの黒いローブは、ドS系の威圧感が消えた控えめの白いローブスカート。
ミーナの黒シャツに白短パンは、白いシャツに黒短パンに反転していた顔はミーナとは逆の小悪魔女子のような顔をしている。
フィーリアは、そのままの姿がうつしだされている。
「わたしこんなにエロい格好してないアル!」リンが驚愕の声を上げる。
「まるで、『その人とは真逆の服装と性格』を写し出しているわ。恐ろしいほど正確に」と、セリアが鏡の中の、快活で陽気な自分自身を見て息を呑む。
その時、異変が起きた。
――全員の武器が一斉に、強烈な光を放ち始めたのだ。
放たれた光は、鏡の間の中央で集束し、形を成していく。それは、人の形。
生成された光の人は、ゆらゆらと揺らめきながら、虚空に座を組み、静かに座禅の姿勢を取った。その姿は、まるで彼らに何かを訴えかけるかのように、微動だにしない。
光景を前に、創夜がポツリと呟いた。
「おい、まさか……ここで座禅をしろってことなのか?」
誰からともなく、創夜の言葉に呼応するように、全員が顔を見合わせた。理不尽な状況だが、武器が、そしてこの空間そのものが、彼らに何かを促しているのは明白だった。
創夜はためらいなく、光の人の前で静かに膝を折り、座禅の姿勢を取った。
「まあ、やってみるか。どうせ、何かの手がかりになるんだろう」
「ざぜんアル? 全くわからないアル」
「ざぜん!?」
「座ればいいのかしら?」
ミーナは鏡の奥のミーナとにらめっこをしている。
その創夜の行動に、仲間たちも次々と従う。
ミリィ、リン、フィーリア、ミーナ、そしてセリア。全員が鏡の部屋の中央で座を組み、静かに瞑想に入った。
彼らを映す鏡の中の、真逆の彼らの表情もまた、静寂の中で深遠な何かを捉えようとしているかのように、創夜たちを見つめ返していた。




