ep2.和の国編 火の意思を継ぐもの
飛空艇アストラルブレイカーの中は、異国の地へ向かう期待に満ちていた。
「和の国、ねぇ。どんなところなんだろう」ミリィが窓の外を眺めながら呟く。
創夜はコックピットでアストラルブレイカーの次元移動システムを起動させた。
「悪魔の言ってた最高の鍛冶職人ってのがいるんだ。ちょっと楽しみだぜ。ただ、前みたいにバラバラにされるのはうんざりだ。」
セリアが優雅に創夜の隣に立つ。
「大丈夫よ、創夜。魔力反応は安定しているわ。」
光の渦が機体を包み込み、一瞬の静寂の後、目の前の景色が一変した。
日本庭園のような趣のある、山深い光景が目の前に広がった。古風な家々が並び、空はどこまでも澄んでいる。
「……やだ、本当に和の国だわ」ミリィが目を丸くする。
「やっぱり古いなぁ」創夜は呟くと、アストラルブレイカーの巨大な船体を一瞥した。
「それに、こんな古い国にこの飛空艇は目立ちすぎる。」
創夜はアストラルブレイカーを手のひらサイズの宝石のように凝縮し、アイテムボックスにしまうと、重力召喚で小さな乗り物を呼び出した。
それは、金属で作られた、まるで紙飛行機のような小さな三角の飛行機だった。
「アーマードガーディアン飛行モードだ。これなら目立たない。近くの村へ降りるぞ」
一同はそれに乗り込み、スッと音もなく村の近くの山間部に着陸した。
「さて、鍛冶職人を探すかちょっと空から探してくる」
創夜は自らに飛行術で、軽く跳躍し、ふわりと宙に浮き上がった。そのまま周囲の山々を見下ろすように飛び立つ。
しかし、煙が奥の方からでている村の真上を通過した瞬間、異変が起きた。
下を見やると、村人たちが集まり、空を指差している。その顔には恐怖と怒りが浮かんでいた。
「……やばいな、目立たないようにしたのに」
創夜はすぐに地面に降りようと速度を上げたが、その時、一つの影が凄まじい速さで村から飛び出し、創夜の着地点に向かって切りかかってきた。
「おまえが妖魔か!」
二刀流の太刀を構えた、袴姿の若い女性――カエデだった。彼女の瞳は鋭く、全身から火のような闘気が立ち上っている。
創夜は無我の境地を起動させた。剣は納めたままだ。
カエデの鋭い太刀が創夜の首筋を狙う。だが、創夜は微動だにしない。剣はまるで意思を持っているかのように、創夜の肌に触れるすれすれの位置で軌道を逸らした。
「妖魔ってなんだ?」創夜は会話を試みながら、カエデの連撃を回避し続ける。
無我の境地。カエデの剣閃は速く、鋭いが、創夜の回避はそれ以上に極まっていた。剣そのものが彼を避けているように見え、数えきれないほどの太刀筋が創夜の周りの空を切った。
「とぼけるな! その異様な力と、空を飛ぶ姿……火の意思を継ぐ私が、ここで討つ!」
カエデは怒りに燃え、さらに速度を上げる。創夜の肌が、剣が生み出す風圧だけで少し切れ、血が滲んだ。
「待て、待ってくれ!」
「待つアル」
創夜の仲間たちが駆け寄ってくる。ミリィ、リン、セリア、ミーナが叫び、セリアが杖を構えた。
「これは誤解よ! 私たちは敵じゃないわ!」セリアが叫ぶ。
しかし、カエデの耳には届かない。彼女の闘気はさらに高まり、次の瞬間、彼女の体が変化した。
「はあっ!」
カエデは叫びと共に袴と着物の全部が弾け飛び、裸になり、全身に黒い線が走った。額からは短い角が生え、髪が逆立ち、体には体毛のようなものが見える。
「鬼化変身!」
速度と攻撃力が飛躍的に上がったカエデの剣が、創夜の顔めがけて振り下ろされる。創夜はそれでも剣を抜かない。
「危ないアル!」
リンが魔法を付与したガントレットを構える。創夜は手を上げてリンを制した。
その時、カエデはさらに力を込めた。
「阿修羅様、お願いします!」
カエデの叫びに呼応するように、上空の空間が歪んだ。そこには、三つの顔と六本の腕を持つ巨大な像、阿修羅様らしきものが光の影として浮かんでいる。
阿修羅様の六本の腕から、回避不可能なほどの高出力のレーザーが一斉に放たれた。
「危ない! あの攻撃は回避できないわ!」
ミリィが悲鳴を上げた。彼女の未来視で、その攻撃が未来において回避不可能であることを予知したのだ。
ヒュンッ!
ミリィは瞬速で光の残像を残し、創夜の体を押して、レーザーの軌道から強制的に引き離した。二人が回避した直後、大地が蒸発し、凄まじい爆音が響き渡った。
創夜はすぐに夜の剣を抜き、アルティメットブレードをイメージする。
「神様だろうが、襲ってくるなら関係ねぇ!」
創夜は瞬間移動で阿修羅様の影の真下へ移動し、夜の剣で切断を試みた。しかし、剣は光の影をすり抜けて、何の抵抗もなく空を切った。
「神様を切ろうなんてバチ当たりなやつめ!」カエデは激昂する。
「すり抜けるだと……? 」創夜は戸惑った。
「ん?、そういえばお前、角がないな! 鬼に変身しないのか?」カエデはハッとして創夜の姿を見下ろした。既に鬼化変身を解いており、そこには角のない創夜が立っている。
カエデは創夜をまじまじと見つめた後、剣を収めた。
「……ま、待て。あなた、本当に妖魔じゃないのか?」
「ああ。妖魔ってのがなんなのか知らねぇが、俺たちは鍛冶職人を探してるだけの旅人だ」創夜は剣を納めた。「さっきのレーザーは痛かったぞ、おかげで服が焦げた」
カエデは顔を赤くし、地面に正座した。
「わりぃな……! 空飛ぶ妖術使っておいて……妖魔に間違いないと思ったんだがぁ。昔、じっさまを襲った妖魔が角があって、空を飛んでたから」
誤解が解け、創夜たちはようやく和の国の地に立つことができた。
「まあ、いきなり襲われるのも異世界っぽいな」創夜は小さく笑った。
「セクシーじゃないわ。いきなり裸になるなんて、驚きよ」セリアがカエデに近づき、創夜のアイテムボックスから服を差し出す。
カエデは服を受け取らなくても大丈夫という仕草をし、元の着物の姿に戻った。
「それで、火の意思を継ぐもの、だったか? お前は、この国の腕利きの鍛冶職人を知っているか?」創夜は本題に戻る。
「ああ! この国で一番の職人なら、じっさまだなぁ」カエデは迷うことなく答えた。
創夜はニヤリと笑った。
「よし。じゃあ案内してもらおうか。加工が難しい素材の防具作り、を依頼したいんだ。」
「じっさまはさっき言ったとおり、妖魔に殺された。」カエデは殺気をだしながら言いはなった。
創夜たちの旅は、予期せぬ形で新たな展開を迎えたのだった。




