ep4.ビキニアーマーの謎の少女ミリィ
創夜とリンは、城壁の高い大都市――オルディアに辿り着いた。
夜更けの街灯の光に照らされ、石畳が冷たく輝く。
人々のざわめき、馬車の軋む音、魔法光の灯る街灯。
創夜はくすりと笑った。
「いいじゃないか。まさに冒険の舞台って感じだな。
俺の物語、ここから始まるって気がするぜ」
「うん……ワクワクするネ!」
冒険者ギルドの重たい扉を押し開けた瞬間、創夜の顔には自信満々の笑みが浮かんでいた。
横に立つリンは眉ひとつ動かさず、無表情ながらも慣れた様子でついてくる。
「さて……物語の幕開けってやつだな。伝説の始まりにふさわしい舞台だ」
「創夜、早く行くネ。受付の人、待ってるアル」
木のカウンターの奥に立つ受付嬢は、少し眠たそうな目で二人を迎えた。
まだ昼前だというのに、既に何十人もの応対をこなしているのだろう。
「こんにちは、冒険者登録ですか?」
創夜は胸を張って堂々と名乗った。
「俺の名は創夜。職業は……無職だ」
受付嬢は一瞬目を見開いたが、すぐににこやかな笑みに戻った。
「ええ、大丈夫ですよ。無職でも登録は可能です。
薬草採取や簡単なお使いなど、Gランクの依頼を受けることができますから」
「……Gランク?」
創夜の眉がぴくりと動く。
「そうです。最初は皆さんそこからスタートして――」
「断る」
受付嬢の言葉をバッサリと切り捨て、創夜は手を前に出した。
「俺はSランク試験を受ける。今すぐに」
「……え?」
受付嬢は硬直した。まばたきを三度したあと、小さな声で確認する。最上のランクがSランクに該当する。
「Sランク試験は、Sランク推薦を受けた者、もしくは実績のある者のみ可能です。いえ、それ以前に、登録の段階でGランクの基礎試験が必要でして――」
「その基礎試験、不要だ。俺の力は、そんなものを経由するには危険すぎる」
「で、ですが……職業が“無職”では……」
「“無職”をなめるなよ」創夜はにやりと笑い、指を一本、受付嬢に向けて立てる。
「現に俺は――魔王を倒してきた。
……あ、これ言っちゃマズかったな。いや、なんでもない。
とにかく、今すぐSランク試験を受けさせろ」
「魔王…? 何のことネ?」
リンが横でツッコミを入れると、創夜は咳払いしてごまかした。
(リンには話してなかったな。まあいい。
魔王が既に死んでいるなんて、今言うことでもない)
受付嬢が困惑していると、奥から体格の良い男が現れた。
肩幅の広い鎧姿、腕には無数の傷跡。ギルドのSランク試験担当官、バルグだ。
「……騒がしいと思ったら、変わり者か。
俺が試験官だ。Sランク試験、受けさせてやろうじゃねぇか。
冒険者ならまずは薬草取りから始めてチマチマとランクを上げりゃいい。
もっとも……お前が無様に倒れて終わるだけだろうがな。
俺に負けたらGランクだ。分かったな?」
「ほう……言ったな。なら、俺の強さを見せてやる。
お前を指一本で倒してやるよ。防御力は大丈夫なんだろうな?
死なねーように気合い入れろよ!」
試験場は、ギルド裏の訓練場。
観客のいない静寂な空間で、見守るのはリンと受付嬢だけだった。
バルグが剣を抜き、構える。
「この試験は、俺に一撃でも加えられたら合格だ。
だが、やられる覚悟はしとけよ?
それにしても……お前の腰の剣、初心者用のアイアンブレードじゃねーか!
ははは、そんなんでSランク試験受けたいとか笑えるぜ!」
「その条件、乗った。……では、いくぞ」
創夜の姿が一瞬で消えた。
次の瞬間――バルグの体が吹き飛び、壁に激突していた。
バルグは、一切反応がない。意識が飛んでいるのか、ピクリとも動かない。そして、暫くして、バルグが意識を取り戻した。
「なにが……!?」
バルグは何が起きたんだ?と言いたかったが、言葉が出なかった。目の前には信じられない光景があった。
創夜は空中で飛行術を使い、剣を抜いた。
「見せてやるよ。この剣の威力を――!」
手に持っていたアイアンブレードが、眩い光に包まれる。
刃は七色に輝き、形を変えた。七色の剣――。
バルグが嘲笑していた剣は、一瞬で伝説の武器へと変貌した。
「ははは……こいつは、たまげた……」
受付嬢が駆け寄り、目を丸くする。
「う、うそ……あのバルグさんを、一撃で……?」
リンは胸を張って言った。
「言ったネ? 創夜は強いアル。
ワタシ、武道大会の決勝で戦ったネ!わたしが保証するアル。」
バルグはふらふらと立ち上がり、苦笑いを浮かべる。
「認めろ……あいつはバケモンだ。Sランク、文句ねぇだろ……」
受付嬢は震える手で登録用紙を差し出した。
「そ、それでは正式に、Sランク冒険者として登録します……!」
創夜は無言で署名し、ギルドバッジを受け取ってポケットにしまう。
「ふっ……無職最強伝説、始まりだな」
リンは呆れながらも、どこか嬉しそうに笑った。
「ホント、創夜って、面倒くさいネ」
手続きを終えた創夜がバッジを眺めていると、
背後から冷たい視線を感じた。
振り返ると、そこに立っていたのは――
露出度の高い金属のビキニアーマー風の鎧をまとった、小柄な剣士の少女。
その装備は観賞用のように見えるが、刃を担ぐ腰つきには鋭さがあった。
「いい依頼があるんだけど、一緒にどう?」
創夜は眉をひそめ、軽く頭をかいた。
「どんな依頼だ?」
少女は地図を差し出す。
町の外れの廃屋に魔物が住み着いているという。
「報酬も悪くないって」
リンは興味深そうに地図を覗き込み、うなずいた。
「面白そうアル」
三人はその依頼を受け、夜の闇を裂いて町を後にした。
森を抜け、薄暗い道を進む。やがて古びた小屋が見えてきた。
風に軋む扉。中は使われていないらしく、埃と腐敗臭が立ち込めている。
「……今日はここで仮眠だ。警戒は怠るなよ」
「言われなくてもわかってるアル」
リンは軽く頷き、少女――ミリィも小声で「わかった」と応じた。
創夜は疲れもあり、すぐに意識を失った。
だが、闇の中で金属の軋む音がする。低い足音――。
誰かが戸を開け、ゆっくりと小屋の中へ侵入した。
創夜の寝床へ近づき、冷たい剣先が喉元にあてがわれる。
「動くな……これ以上動けば、その首、飛ぶぞ」
だが刃が触れた瞬間――金属音が響いた。
見えぬ結界が刃を弾いたのだ。
「な、なんだ……こいつ、効かねぇ……!」
刃がバキッと折れ、金属片が散る。
創夜はゆっくりと目を開け、顔を上げた。
「……寝てる間に暗殺とは、随分と挑戦的だな」
背後からもう一人が飛びかかろうとしたが、同じく拒まれ、尻もちをつく。
「化け物か……こいつ……!」
その瞬間、リンが立ち上がり、拳を構えた。
「寝込みを襲うなんて卑怯アル!」
リンは空気を殴りつけた。
轟音とともに、正面の壁の向こうにいた兵士が数人、吹き飛ぶ。
圧縮された空気の塊が兵士たちを押し潰し、
同時に創夜の飛ぶ斬撃の抜刀術が閃く。
---和道横一文字!
リンの攻撃範囲外の敵を、小屋ごと一瞬で切り裂いた。
次の瞬間、真空となった空気が衝撃波を生み、
小屋は粉砕。跡形もなく吹き飛んでいた。
中心にはミリィ。
三人の連携は完璧で、敵は瞬殺された。
三人は速やかに町へ戻り、ギルドに報告を済ませた。
酒場で報酬を受け取り、夜風が窓から吹き込む部屋で、創夜はミリィに声をかけた。
「聞きたいんだけど……お前、この依頼の裏で何か知ってたのか?」
ミリィは目を伏せ、やがて顔を上げる。
「……ううん、知らなかった。ただの依頼だと思ってた」
(ギルドに偽装依頼を出して、冒険者を襲ってる奴らがいる……
黒幕がいるってことか)
創夜はグラスを傾け、静かに笑った。
「なあ、ミリィ。俺たちの仲間になってくれないか?、リンもあまり、この辺に詳しくないみたいだし案内役が欲しかったんだ。これも何かの縁だろ?」
創夜はリンに視線を送る、リンがすかさず笑顔で言った。
「もちろん歓迎アル!」
ミリィは驚いた顔をしたまま、しばらく沈黙した。
そして――小さく頷いた。
「……うん。よろしく、創夜、リン」
創夜はその言葉を聞き、夜空を見上げた。
闇夜の街灯が三人の影を石畳に伸ばす。
月がその輪郭を、淡く照らしていた。
あとがき:
キャラクターイメージ:ミリィ。
澄みきった青空の下、白銀の光を受けてきらめく少女――ミリィ。
まだ幼さの残る顔立ちだが、その瞳には確かな自信と戦場を見据える強さが宿っている。
腰まで届く髪は軽やかなポニーテールに結われ、跳ねるたびに陽光を反射して、空の一部のように揺らめく。
彼女の鎧は青を基調としたビキニアーマーで、軽装ながらも美しく、空と調和するような輝きを放つ。
金の装飾が施された剣を携え、白いマントをはためかせる姿は、まるで天上の騎士のようだ。
ミリィは攻撃をかわすその身のこなしが非常にうまい。彼女の右に出る者はいない。
一歩先を読む直感、かすかな動きに反応する俊敏さ、そして受け流しからの一撃必殺――それが彼女の真骨頂。
敵の刃が届く前に、彼女の姿はもうそこにはない。残るのは、青い閃光の残滓のみ。
俺たちは彼女をこう呼ぶ――
風のように舞い、雷のように斬る、その姿を。
「蒼閃の龍」。




