ep13. 精霊の国編 雷の神殿と衝撃
四人は、炎の神殿のワープポイントへと急いだ。前回、創夜とアレルが使用した場所である。
「いくぞ!」
創夜が合図すると、四人は渦巻く光の柱に包まれた。
視界が晴れた瞬間、彼らの目の前には、前回と同じ、雷の塊の精霊テラズマがいた。
「待たせたな!」
アレルが思わず大剣を構える。
テラズマは光の速さで創夜へと突進する。
創夜は一歩も動かない。
「雷はこれなら粉砕できそうだ」
創夜は懐から、夜の剣を抜いた。剣は、刀身を覆う光を瞬時に失い、夜の闇と同じ、無反射の黒いガントレットへと変形した。
テラズマの光速の攻撃が創夜の顔面に迫る――その刹那、創夜は頭をわずか数ミリ傾けるという最小の動作で、テラズマの突進の『運動の核』を右腕のガントレットで紙一重に捉えた。
テラズマの全エネルギーは、創夜の最小の動きによって、別の方向へと逸らされた。
「ッッ――」
テラズマは、その体から発する光の粒子をわずかに乱し、一瞬だけ動きを止めた。
テラズマの動きが止まった、そのゼロコンマ数秒の静寂。
「消えろ」
創夜はガントレットを装着した右拳を、テラズマの核へと静かに突き出した。テラズマの身体は光の粒子となって四散し、痕跡もなく消滅した。
全てが終わったのは、彼らがワープしてから、わずか一秒にも満たない間。
アレルが口を開けたまま、ゆっくりと大剣を下ろした。
「おい……おいおい!まじかよ創夜!避けねぇで、剣を拳につけて殴り飛ばして、一瞬でぶっ倒したぞ!? 俺たちの出番は!?」
シオンは双剣を抜く暇もなく、ただ冷や汗を流している。
「…とっとけよな!」
スーは杖を握りしめたまま、力が抜けたようにへたり込む。
「私たちの修行、何だったのよ……」
創夜は変形させた夜の剣を懐に収め、涼しい顔で言った。
「悪い。体が動いちまった」
テラズマが消滅した場所には、前回創夜とアレルがいた雪山の中腹だった。
「この先が、雷の神殿だ」
雷の神殿のワープポイントを抜けると、そこは巨大な岩盤に囲まれた空間だったが、精霊の気配は全くない。
「なんだ、誰もいないぞ?」
アレルが首をかしげる。
創夜が鋭い目つきで周囲を見渡した。
「ここは、どこだ?雲の上?」
光の神殿へのワープポイントを抜けると、眼前に広がったのは、雪山の頂上にあるとは思えない、清らかで巨大な祭壇だった。しかし、その清浄な空間は、禍々しい漆黒の光によって侵食されかけている。
そして、祭壇の中心、本来なら最も輝かしい場所に、巨大な黒い鳳凰が鎮座していた。その瞳は暗い紫の炎を宿し、周囲の光の精霊たちを、影のように従えている。
創夜が低い声で呟いた。
「あれが、光の精霊の……闇に堕ちた姿か」
スーは驚愕し、神殿の異変の理由を察した。
「あれは!、ありえないわ!」
黒い鳳凰は、四人に気づくと、一声、天を割るような暗い咆哮を上げた。
シオンは双剣を抜き、アレルも大剣を構える。
「俺たちが鎮めてやる!」アレルが叫ぶ。
鳳凰の周囲の闇が、四人に襲いかかる。
「創夜、俺たちに任せろ!」シオンが双剣を交差させ、風の斬撃を放つ。
しかし、鳳凰は羽ばたき一つで、その斬撃を黒い炎へと変質させた。
スーが焦りの色を見せる。
「精霊じゃなくて、何で鳳凰が闇に落ちてるのよ!」
「コイツは、暑そうだ」創夜はそう言うと、
創夜の両腕を、極限まで圧縮された氷のガントレットが覆った。それは、周囲の熱を全て奪い取り、空気を凍てつかせるほどの冷気を放っている。
「スー、火と風の魔法で、鳳凰の周囲の光と闇の力の循環を乱せ!シオン、アレル、俺の動きに合わせろ!」
「分かったわ!フレイム・トルネード!」
「ウィンドウ・ブラスト!」
スーは詠唱破棄で火と風の魔法を同時に放ち、鳳凰の周囲に不安定な熱と気流の渦を作り出す。鳳凰の闇の炎の勢いがわずかに鈍った。
その隙を見逃さず、シオンが動く。
「創夜、行くぞ!勇者剣術・鳳凰翼斬!」
シオンの双剣は、鳳凰の翼の動きを模した、光速にも近い連撃を放つ。しかし、シオンは『無我の境地』で、自身の動作を最小限に抑え、すべての力を鳳凰の周囲の闇の法則が崩壊した一点に集中させた。
剣先は鳳凰の体表をかすっただけだが、その一撃は闇の法則を乱す『最大の衝撃』を核へと伝える。
同時に、アレルが大剣を振り下ろす。
「創夜の動き、もらっていくぜ!無我の境地!勇者剣術・・大剣旋風!」
アレルもまた、大剣の重さと破壊力を、鳳凰の周囲の闇の法則が崩壊した同じ空間に叩きつける。これも最小の振りで、闇の力の流れをさらに寸断した。
鳳凰は怒り、漆黒の炎を吐き出しながら、四人に襲いかかった。
「そこだ!」
創夜は鳳凰の闇の炎を氷のガントレットを構えた右腕で、紙一重でかわす。
ヒュンッ!
鳳凰の吐き出した炎は、創夜の右腕をかすりもせずに通り過ぎ、その熱を氷のガントレットに一瞬にして奪われ、無害な水蒸気となって霧散した。
鳳凰が驚愕の声を上げる。
三人の勇者の攻撃は、もはや鳳凰を打ち崩すための『連携』へと進化していた。
シオンの双剣、アレルの大剣、スーの魔法、そして創夜の氷のガントレット。
四人は全員、『無我の境地』で鳳凰の攻撃を最小の動作でかわしながら、そのわずかな動きで、鳳凰の周囲の闇の法則を打ち崩し続けていく。
スーが叫ぶ。
「いけ、創夜!今のうちよ!」
「わかっている」
創夜は、鳳凰の周囲の闇の法則が完全に崩壊し、『光の精霊』としての核がわずかに露わになった瞬間を見逃さなかった。
創夜は、氷のガントレットを装着した右腕を、鳳凰へと最小の動作で突き出した。
極限の冷気が、鳳凰の核へと流れ込む。その冷気は闇の炎を完全に鎮静させ、鳳凰の黒い体表を、徐々に純白の光へと戻っていく。
鳳凰は苦悶の声を上げ、やがてその体を光の粒子へと変え、清浄な光の精霊として、神殿の奥へと消えていった。
戦闘が終わり、四人は息を整える。
「はぁ…はぁ…。なんとか、倒せたわね…って、創夜!一人で倒すどころか、完璧に四人で連携してたじゃないのよ!」スーが息を切らしながら創夜を責める。
アレルは興奮で顔を紅潮させていた。
「いや、創夜!最高の連携だったぜ!俺たちの『無我の境地』が、完璧に鳳凰の動きを無効化してた!四人の連携だな」
シオンは双剣を収め、創夜に微笑んだ。
「結果的に、お前は俺たちに、テラズマを倒す以上の力を授けてくれた。礼を言う」
創夜は、ため息をついた。
「……結果論だ。まぁいい。これで、この神殿の精霊も鎮まった。あとは、魔王というやつがいるのかしらないが、本当に悪いやつなのかをこの目で確かめるだけだな」




