ep2.取り敢えず魔王に会いに行く
「はぁ……マジか。」
創夜は、最初にたどり着いた町――フロンティアの町外れで、小さく息を吐いた。
ステータスボードに表示され続ける【職業:無職】の文字が、何よりも気分を悪くさせる。
「よりによって“無職”って。
俺のイメージが具現化するチートスキル設定と、この**『世界の設定』**がまるで釣り合ってないだろ。」
転生直後、豪華な王の前で「そなたは無職である!」と宣告され、警備兵に追い出されたあの理不尽で恥ずかしい記憶が蘇る。
「あの王様の顔、どう見ても怪しいモブキャラの顔してたしな」
俺は思わず吐き捨てるように呟いた。
「あの冷たい視線。あの王は、本当にこの国を治める正義の王なのか…?」
――魔王が悪だなんて、本当に信じられるかよ。
こうなったら、自分の目で真実を確かめるしかない。
――王が黒なら、魔王は白。
王が黒なら、魔王の仲間になってもいい。
創夜は、町で調達した装備を確認する。
武器屋で買った一番安物の鉄の剣、皮の鎧、そして目立たないフード付きの黒いローブ。
「あえてレベル1初期装備で魔王に会いに行くか。今ならなんでもできそうだ。このアイアンブレードでも怖くないな、早めに会わないとあの王を忘れられなくなってしまう、一度会ってから魔王が本当の悪かを俺の目で判断させてもらう。」
森で何体か倒した魔物の素材を売り払い。
淡々(たんたん)と目的を再確認した創夜は、情報収集のため酒場へ向かった。
適当に座っていた男に話しかけた。
「すいません、魔王の居場所を教えてもらえますか。」
すぐに北の方角を指さした。
「あ、あれは……暗黒山脈。
この国の北の果て、巨大な山脈を越えた先に魔王城がある。
行く奴はみんな、帰ってこねぇ……」
と、場所だけわかれば頭の中で行くことしか頭に描いておらず話の途中で、無言で酒場を立ち去った。
「よし。王様が信用できないから、魔王をこの目で確かめにでも行くか。正直、会ったことないやつがどうだこうだ言うやつのことは信用できない。そいつがどうかは俺が決める。」
創夜は酒場を出て、広大な草原に立った。
空は澄み渡り、風が心地よい。
「さてと……誰も見てないな。」
彼は静かに目を閉じ、全身に魔力を集中させた。
魔法名は叫ばない。無詠唱が基本だ。
体の周囲に、薄く光る魔力の膜が展開される。
(――飛行術、発動。)
ふわりと体が浮き上がり、次の瞬間には空を切り裂くように加速。
彼は北の空へと一直線に飛び立った。
遠くに見える険しい山脈の影。
その向こうにあるのが、魔王城――。
フードを深くかぶり、全身をバリアで包む。
時速数百キロを超えるスピードで、無職の転生者は天を翔た。
北の空を切り裂くように飛び続け、
創夜はやがて巨大な魔王城の敷地に降り立った。
城全体から立ち込める禍々(まがまが)しいオーラ。
だが、いかにも『闇の城』ですと言わんばかりのテンプレ感に、創夜は逆に冷める。
「……到着っと。
飛行術で合理的な移動を済ませたな。
瞬間移動は戦闘以外で使うとズルい気がするからな。」
中庭で出会った四天王バルバスは、話がまるで通じないタイプの会話拒否モブだった。
「魔王様に会いたいだと、人間風情が…」
と言うセリフを聞いたときには既にそいつは目の前から消えていた。
創夜は即座に切り捨て、一撃で瞬殺。無心にするほど感情は高ぶっていた。
敵を無視し、飛行術で最短距離を突き進む。
そして――玉座の間。
そこにいたのは、予想外に華奢な人型の魔王だった。
「貴様が、我が四天王を破った異世界人か。」
魔王は立ち上がり、漆黒のマントを翻す。
創夜は剣を**鞘**に納めたまま、一歩前へ。
「あんたが魔王か。
単刀直入に聞く――あんた、本当に世界を滅ぼしたいのか?」
創夜は真剣な眼差しを向ける。
「王都の王は、あんたを悪の権化だって言ってた。
でも、俺の現代知識からすると、王様の方がクソで、魔王が実はいい奴ってパターン、わりと定番なんだよ。」
「だから、俺は自分の目で確かめにきた。
あんたが本当に悪かどうかをこの目で確かめに来てやった。」
しかし、魔王は創夜の言葉を最後まで聞かずに鼻で笑った。
「くだらん。人間など、誰も彼もが我が敵。
質問など無用だ。その生意気な態度――この魔王が直々に八つ裂きにしてくれよう!」
漆黒の魔力が収束し、創夜めがけて放たれる。
爆音と共に衝撃波が走るが、創夜は眉一つ動かさない。
冷めた苛立ちを覚えながら、創夜はバリアで攻撃を受け止めた。
「うわぁ……八つ裂きかよ。てか、人の話を聞けよ、もういい。」
創夜は静かにスキルを発動する。
――瞬間移動。
次の瞬間、彼の姿はかき消え、
魔王の真後ろに現れた。
魔王が驚愕の表情を浮かべた瞬間、
その体は美しい軌跡を描いて――真っ二つに裂けた。
創夜の手に握られた鉄の剣は、
七色の光を帯びて巨大な聖剣のように輝いている。
ーー 七色の剣アルティメットブレード
「炎」「水」「風」「土」「光」「闇」「雷」属性を剣に宿したもので、魔法剣である。
相手の弱点属性などを無視した攻撃が可能であり、魔法剣なので物理的に破損することはない。
すべての魔法攻撃に耐性があるものを除き、攻撃は必ず通る、感情が高ぶり魔王であっても反応できない速度で魔王を攻撃した。
「がっかりした。もう何も話さなくていい。
俺は、お前と会話する意味を失った。消えろ。」
「え……あ、ぐっ……!」
魔王は呻き声と共に崩れ落ちた。
――一撃。
創夜は静かに剣を抜き、血を払う。
創夜は剣を**鞘**に戻し、ゆっくりと息を吐く。
「……どう考えても、速すぎたな。ゾーンってやつか。」
言葉にしながら、自分でも苦笑する。
あの瞬間、自分の動きは完全に常識を超えていた。
魔王が魔力を放つより早く、気づいたときには背後に回っていた。
思考よりも先に体が動く。
優等生達に成績も一桁ではあったが、アニメ好きだからといないもの扱いされていた創夜はスポーツも一人プレイ中心で得意としていた。バスケットでボールを奪ったらそのままダンクを決めるほどスポーツには自信があるがここまでゾーンに入ったのははじめてだった、恐らくアニメの好きなスキルを自由に使えたからだろう。
剣の柄を軽く叩き、創夜は夜明けの空を見上げた。
風が**頬**をなでる。どこまでも冷たく澄んだ風だった。
「理性で戦ってたら、多分、負けてた。
色々な怒りがなんだか一瞬でスッキリとしたな
結局魔王は悪だったみたいだからな。」
ほんの少しの静寂ののち、彼は歩き出した。
「ま、無職でも、本能だけは一流ってわけだな。」
その背中は、誰よりも冷静で、そして少しだけ誇らしげだった。
無職それは、彼が、必要であれば魔法使いにも、戦士にも、超能力者にもなれるということです。しかし、それは一時的な**「能力の行使」であって、恒久的な「職業への転職」**ではありません。
創夜にとって「無職」は、**全能力を解き放つための「チートスキル」**なのです。




