ep3.竜の隠れ里
創夜は魔王を瞬殺したものの、夜空を飛行術で移動しながら、自身の力にさらなる安定性を求めていた。
「魔王をぶっ倒してきたが……弱かったなぁ。気づいたら手に持ってた剣が無意識にあの技になるなんて……これでも無職らしいが、使えるだけありがたいな」
(あの技……無意識で出たけど、もっと安定して使えないか?
あのアニメの奥義も再現できるかもしれないし……いや、あれは魔力消費がエグいか。
てか、もし急に魔王クラスがもう一体出てきたらどうする? 今日のうちに対策考えとくべきだよな……)
創夜は飛行術の魔力を全身に巡らせ、スキルや魔法、戦い方などについて考えごとをしているうちに、高度がどんどん下がっていた。
その結果――うっかり超巨大な神樹の枝に真正面から激突する。
「ぐっ!?」
激しい衝撃で地面に叩きつけられ、激突の瞬間、飛行術の魔力が火花のように散り、
神樹の枝はわずかに焦げただけだった。
意識を取り戻した創夜が目を開けると、そこは小さな村の端にある、ひっそりとした家の隣だった。
「……痛ってぇ。ここは……?」
全身の痛みに呻きながら立ち上がろうとしたそのとき――。
「おい、落ちてきたナマモノ。何を突っ立ってる」
凛とした、鋭利な刃物のような声が響いた。
草むらから現れたのは、黒曜石のような髪を濡らし、低身長ながら引き締まった肢体を持つ武道家の少女だった。
目の前には、黒いツイン団子ヘアーに、ゲームのような武道着を着たかわいらしい少女が立っていた。
「誰!?」
少女は微動だにせず、鋭くも可愛らしい声で言い放った。
「私はリン。よろしくアル」
「アル!? この国のなまりなのか?」
創夜は苦笑いしながらも頭を下げた。
「俺の名前は創夜」
創夜は軽く飛行術を見せた。
「おまえ、『気』の練り方がなってないネ。……修行が足りないアル!」
彼女は岩に腰かけ、鋭い目で創夜を見据えた。
「全身のマナが泥水みたいに濁ってる。それじゃすぐ魔物にやられるネ。この辺の魔物は強いアル。簡単に死ぬネ!」
創夜は苦笑した。確かに、自分のスキルは万能でも、集中を切らせばただの赤ん坊並みに脆い。
リンは立ち上がると、軽く構えを取った。
「そんなんじゃ話にならないネ。少し見せてやるアル」
次の瞬間――リンの全身が光に包まれた。
そして、幼い体とは思えないしなやかな動きで舞い始める。
――灼光瞬連撃!
眩い光とともに、空気が灼熱に包まれる。
光の奔流の中でリンは一歩も動かず、不可視の連撃を放った。
ドォンッ!
轟音が鳴り、空気に焦げた匂いが満ちる。
光も熱もすぐに消え、静寂が戻った。
「これが『気』を使うってことアル。おまえも、これぐらい簡単にできるようになるアル」
その夜、宿がないことを話すと、リンは村に泊めてくれた。
リンの動きは美しく鋭かった。
魔王を倒した創夜でも、スキル頼みでは技にキレがない。このままでは、この世界で生き残れない。
「よーし、しばらく修行だ!」
創夜はリンの村に滞在し、彼女と共に森で修行を始めた。
身体強化を常時発動できるようにするため、日々イメージを繰り返す。
寝ているときも、気を抜いても解除されないように。
リンの鋭い動きに見とれてしまうこともあったが、リンは時折、鋭くも可愛い声で叱った。
「見とれてる場合じゃないネ! 修行するアル!」
創夜は笑いながらも真剣に取り組んだ。元々優等生でスポーツ万能だった彼は、数日で気の扱いに慣れていった。
その感覚はスポーツの『ゾーン』に似ていたが、意識的に身体を強化するイメージだった。数日の修行をしていくと、村で武道大会があることを知らされ、創夜も腕試しに出ることにした。
――村の武道大会「剣と拳の祭典」が開かれた。
「さあ、今年も恒例の武道大会の始まりだ!」
村長アクセンの声で会場が沸く。
リンの一回戦の相手は、防御に定評のある重装兵。
彼女は気功の技で華麗に勝利した。
創夜の一回戦――瞬間移動で相手の背後に立ち、軽く突いただけで相手は場外。
観客は何が起きたのか理解できなかった。
他の試合も決勝戦まで大した相手はいなかった。
「さああっ! 格闘大会、いよいよ決勝戦の幕開けですッ!!
観客のボルテージは最高潮――創夜選手対、リン選手!!」
観客席がどよめく。
リングの上、向かい合う二人の視線がぶつかる。
「リン、全力で行くぞ!」
「当たり前ネ! 修行の成果、全部ぶつけるアル!!」
――ゴングッ!!
風が爆ぜた。
創夜の姿が、消えた。
「なっ!? 見えねえ! 二人ともどこいった!?」
観客のどよめきが走る。
次の瞬間、空気が裂ける。
ドンッ!――音速を超える踏み込み。
創夜がリンの懐に入り、拳を振り抜く。
しかしリンは一歩も引かず、両掌を合わせて気を放つ。
「竜気の絶対防御!!!」
ゴオォォン!!
炸裂する光と風。
リングの床が波打ち、観客の髪が逆立つ。
だがリンは動じない。
足を止めたまま、口角を吊り上げた。
「創夜、ワタシの防御は完璧アル!」
「……さすがだな、リン」
創夜の影が揺らぎ――瞬間移動。
次の瞬間、リンの背後に立つ。
「そこアル!!」
反転と同時に回し蹴り。
その衝撃波が空気を切り裂いた――しかし、創夜の前に薄い光の膜が展開されている。
――シールド!
シールドが無意識に発動していなければ、やられていた。
閃光。
火花が散り、衝撃が押し返された。
空気が弾け、リングの床がめり込む。
「リン、驚いたぜ。俺の転移を読めるなんて!」
「気を読めば見えるネ! 簡単アル!」
二人の間に、一瞬の静寂。
次の瞬間――世界が爆ぜた。
視界が白く飛び、音が遅れて届く。
拳と蹴り、魔力と気功が火花のように交錯し、残像が幾重にも重なる。
観客には見えない。ただ、轟音と風圧だけがリングを支配していた。
(――な、なんだ……!?)
創夜の脳裏に、わずかな違和感が走る。
読まれている。
リンは自分の魔力の流れを、まるで未来を覗くように読み取っていた。
次の瞬間、創夜の腹に拳が迫る――。
(しまったっ……)
創夜の視界は、完全にリンの拳で埋め尽くされた。
(やべぇ、終わった……)
心臓が潰れるような、確実な敗北の予感。
その気迫に押しつぶされ、創夜の身体は、完全に硬直した。
脳裏に響くのは、アニメの断末魔のような叫び声だけ。
ドンッ!
鈍い轟音と共に、凄まじい衝撃が創夜の全身を襲った――はずだった。
(一拍の間)
体は、無傷だ。
創夜は、痛みもなく、息も上がらず、微動だにせずそこに立っていた。
目の前では、リンが驚愕の表情で拳を引いている。
創夜の全身には、薄く光る魔力の膜――シールドが、冷たく、不気味に展開されていた。
「……あ、れ?」
創夜の口から、力の抜けた声が漏れる。
自分でも信じられなかった。目の前には発動した記憶のないそれがあった。
――シールド。
全身に光が弾け、創夜は間一髪で直撃を防ぐ。
爆音と共に床がえぐれ、観客席にまで衝撃波が走った。
思考より早く、身体が勝手に動いた。
それは理性じゃない。――本能。
リンは距離を取り、真剣な眼差しで言う。
「創夜、初めて会った時に比べたら桁違いネ!」
創夜は口元を歪めて笑う。
「だろうな……。俺自身、今の自分が一番怖ぇよ」
観客席がどよめいた。
「今の防いだのか!? 人間じゃねぇ!」
リングの上――二人の視線がぶつかる。理性を超えた本能と、本能を制する気功。静寂が、次の爆発を予感させていた。
「すごい……動きが見えない! まるで二人が空気ごと殴り合ってるみたいだ!」
轟音。
閃光。リングの中央がえぐれ、観客が悲鳴を上げるほどの衝撃。だが――やがて、創夜は攻撃の手を止めた。息ひとつ乱さず、穏やかな笑みを浮かべる。
「リン……悪いが次で終わりにさせてもらう」
リンは地面を強く踏みつけた。灼光瞬連撃を放とうとしたが、創夜はただ、空気を殴った。突風がリンを襲う。
その渦の中で、創夜は静かに笑った。
――零式・無刃閃光
眩い閃光。灼光が一瞬で打ち砕かれ、リング全体を白く染め上げる。
観客が息を呑む。創夜の一撃がリンの攻撃を消し飛ばしていた。リンはあまりの光の衝撃と突風で一瞬意識を失い、倒れかかったところを創夜が抱き抱える。
──ヒール。
創夜の声は穏やかで、けれどまっすぐだった。
「負けたネ、おまえの勝ちアル」
静寂。そして――大歓声。「勝者、創夜!!」
歓声が爆発する。「創夜……何かお祝いをしないといけないアルね」
「おまえのお陰ですぐに気ってやつを会得できたんだ、誰でもおまえの気を感じたら使えるようになるさ、お祝いか……それなら、俺についてきてくれないか?」創夜は微笑んだ。
「今日、はっきりわかった。お前の拳は誰よりまっすぐだ。武道家として、お前の右に出るやつはいない。お前みたいな仲間と冒険するのが俺の夢だ。一緒に来てほしい」
リンの目が大きく見開かれ、頬がわずかに赤く染まる。
そして、にやりと笑った。
「……一緒に行くアル。村の外へ出るのは初めてアル。創夜とならなんだかおもしろそうネ」
風が舞い、観客の歓声が空へ弾けた。その中心で――二人の拳が、静かにぶつかり合った。
あとがき:
キャラクターイメージ:リン
リン――彼女は、戦場に舞う青き竜の化身だった。
二つにまとめた黒髪は高く跳ね、龍の角のような銀灰色の装飾が結び目を飾っている。瞳は深いエメラルドグリーンで、戦気を帯びた瞬間には、まるで竜の瞳孔のように鋭く光を放つ。
上半身には、黒を基調とした軽装の戦闘服。その上から青い縁取りが走るチャイナ風の上衣を纏い、胸元には丸く白地で書かれた**「龍」**の文字が刻まれている。腰には、流れるように長い青いスカーフがなびき、端には金糸で龍の鱗模様が刺繍されている。戦闘のたびに、その布が風を裂き、青い残光を残す。
腕と脚には黒い防具を装着し、軽やかさを損なわない設計になっている。蹴りを放つたび、衣の縁が光を反射し、まるで蒼い稲妻が弧を描くように見える。
両の拳には、練気が凝縮した蒼白い光球が浮かび、その光からは龍の咆哮のような響きが微かに伝わる。
そして、彼女の背後に顕現するのは――透明な霊体の青龍。鱗の一枚一枚が光の粒でできており、彼女の動きに合わせて滑らかにうねり、拳や脚の軌跡を追うように舞う。
その姿はまさに、拳と気を極めた武の化身。
戦場に立てば、青龍にしか見えない。青き龍が戦場を舞うかのごとく複数人に囲まれたとしても敵をせん滅できる。正に青龍だといえる。
戦いの最中でも笑みを絶やさず、恐れ知らずの瞳で敵を見据える――それが、リンという少女の全てである。




