ep15.バベルの塔編 六層 神々との決闘リッサ(Lyssa) vs ミーナ
焦げつくような赤黒い風が吹き抜けた。
先ほどまで糸の光で満たされていた空が、今や不吉な紅に染まっていく。
地面が脈動する。鼓動のように、ドクン、ドクンと。
そこに現れたのは――狂気の女神、リッサ(Lyssa)。
血のような赤髪、瞳は獣のように細く、口元には絶えず笑みが浮かぶ。
「アハハハ! ねぇ、ずっと見てたの。あなた、悪魔でしょ? その理性の鎖、切ってあげようか?安心しなさい、皆が知る疫病とかはわたしのせいじゃないわ、全部決めつけなのよ」
舌先で唇を舐めながら、リッサは足を踏み出す。
そのたびに地面が黒く溶け、周囲の空気が悲鳴を上げる。
ミーナは両腕を組み、ピンクの唇を尖らせて返した。
「いやぁ、理性ないとネイルとかできないから無理~」
その瞬間、背中から紫電が走った。
悪魔の魔力が共鳴し、髪が逆立つ。
「でも……遊びたいなら、ちょっとだけびりびりしてあげる♡」
リッサがケタケタと笑い、空間が一気に爆ぜた。
「アハハハハ! 壊してみなさい! 私の狂気を――!」
ミーナが指を鳴らす。
「デモニック・サンダー!」
紫の雷が地を這い、蛇のようにリッサへと突き進む。
空気が焦げ、周囲の岩が溶ける。
しかし、リッサは狂気の笑みを浮かべながら手を広げた。
「壊れろォォォォッ!!」
その掌から、血のようなオーラが炸裂。
紫の雷と赤の怨念がぶつかり、空間がぐにゃりと歪む。
ミーナが舌打ちする。
「やっぱり感情系の神は相性悪いネ。けど――」
リッサが狂気の声を上げて突進してくる。
「もっと見せて! あなたの中の本当の顔をォ!」
ミーナの瞳が光る。
「……やれやれ、うるさい子」
瞬間――
「デビル・スパーク・ストーム!」
紫電の竜巻が爆発し、リッサを包み込む。
電撃の渦が空を貫き、稲妻の柱が天まで届く。
創夜たちは思わず腕で顔を覆った。
「ミーナ、出力上げすぎだ!」創夜が叫ぶ。
だががフィーリア笑う。
「でもあの子、まだ余裕あるよ」
煙が晴れる。
リッサが、笑いながら歩み出てきた。
髪は焦げ、体中に傷を負いながらも、瞳は狂気で燃えている。
「アハハハ! 痛い! けど、楽しい! もっと壊して!」
ミーナは片手を腰に当て、あくびをした。
「……ほんと、うるさい神サマだこと」
リッサの拳が走る。
速度は音を超え、残像すら見えない。
だが――ミーナの指先が軽く動く。
「パルス・シフト」
空間が反転。リッサの攻撃が逆方向へ逸れ、衝撃が自分に跳ね返る。
轟音。リッサの身体が後方へ弾かれた。
「う、そ……私の狂気が、弾かれた?」
ミーナの瞳が細く光る。
「あなたの狂気って、ただの感情の爆発でしょ。私たち悪魔は、それを制御するために生まれたの」
リッサが唸るように立ち上がる。
「なら、制御できないほどの怒りを見せてあげる!」
女神の全身から、黒い瘴気があふれ出す。
空が赤黒く染まり、狂気そのものが具現化する。
「マッドネス・オーバードライブ!!!」
世界が歪んだ。
ミーナの周囲の地面がひび割れ、幻影が重なる。
リッサが百人、千人と増え、笑いながら襲いかかる。
「ハハハハハハハハハハハハ!」
創夜が目を見開く。
「これは……精神攻撃も混ざってる!?」
ミリィが眉をひそめた。
「やばい、ミーナが飲み込まれる!」
だが――ミーナは目を閉じた。
「……狂気ね。悪魔の世界じゃ、それは日常ヨ」
次の瞬間、彼女の瞳が見開かれ、紫の閃光が爆ぜた。
「デビル・リミテッド・モード――解放♡」
背中に黒紫の翼が生え、空気が震える。
唇の端が笑みを作り、雷が彼女の身体を縁取る。
「さぁ、リッサ。狂うのは――私の番ヨ!」
リッサが雄叫びを上げる。
「来い、悪魔ぁぁぁぁぁぁっ!!!」
空中で二人の拳と拳がぶつかり、世界が光と闇に分断された。
雷鳴と叫びが入り混じり、天地が震える。
稲妻がリズムを刻み、狂気が笑う。
それは破壊であり、舞踏であり、どこか悲しい魂の共鳴。
ミーナが一気に詰める。
「ライトニング・カタストロフ!」
雷の雨が天地を覆い、
リッサが両手を広げて迎え撃つ。
「ブラッド・マッド・ウェイブ!」
紅と紫がぶつかり、空そのものが砕けた。
閃光がすべてを包み、地上からでも目を開けられないほどの眩さ。
爆音とともに、両者が吹き飛ぶ。
創夜が手をかざして叫ぶ。
「……どっちが勝った!?」
セリアが魔力波を感知しながら言う。
「……まだ、終わってないわ。両方、生きてる!」
煙の中から、二つの影が現れた。
片方は、まだ笑っているリッサ。
もう片方は、紫の雷を纏ったまま――息を切らせたミーナ。
だが、ミーナの表情には、恐怖も焦りもない。
ただ、楽しそうに笑っていた。
「ねぇ、リッサ。楽しかったでしょ?
あたしも久しぶりに、本気で遊べたヨ」
リッサの瞳が一瞬、揺れる。
狂気の奥で――微かに、人間的な感情が灯る。
「……楽しい? この戦いが?」
ミーナは指を鳴らした。
「悪魔はね、楽しめる限り、地獄でも笑うの♡」
雷が弾け、リッサの狂気の波をかき消していく。
リッサは息を吐き、笑みを緩めた。
「……ふふ、あなた、気に入った。狂気の本当の意味……わかった気がするわ」
空気が静まり、赤黒い風が止む。
ミーナが髪をかき上げ、ウインクした。
「また遊ぼ、神サマ。次は……クッキーでも食べながらネ♡」
リンが両手をぱちぱち叩く。
「ミーナ、さいっこうにかっこよかったアル!」
ミリィが肩をすくめて笑う。
「まさか狂気の神を会話で沈めるとはね……あなた、やっぱり只者じゃないわ」
セリアが静かに頷く。
「悪魔でありながら、心を支配せずに折る……それこそ『悪魔の優雅さ』ね」
創夜は小さく笑った。
「……ミーナ、やるじゃん」
ミーナは頬を赤らめて、ふいっと顔をそらす。
「や、やだな~! そんな褒められると照れるわっ!」
フィーリアは感想を述べた。
「全くわからない子ね」
雷光がふわりと弾け、空が元の青を取り戻す。
そして、天上から再び雷鳴が落ちた。
ゼウスの声が響く。
「よくぞここまで来た、創夜一行よ。だが、試練はまだ終わらぬ――」
その視線は、創夜ただ一人を見据えていた。




