ep12.最終決戦 異界の王1
最強の飛空艇は、首都上空に開いた次元の裂け目を轟音と共に突き抜けた。船体の激しい揺れが収まると、コックピットの窓の外には、この世の理から外れた異界の光景が広がっていた。
黒い雷が絶え間なく走り、血のような赤い雲が禍々しく渦巻く異界の空間がそこに広がっていた。大気そのものが毒を帯びているかのように、重く、粘ついた悪意に満ちていた。
「ここが、異界の王のいる場所アルか…… 最悪の景色ネ!」
リンが顔をしかめ、拳を握り直す。
そして目の前には、全てを飲み込もうとするかのような巨大な異界の城がそのおぞましい姿を現していた。城の壁は滑らかでいて不規則で、無数の潰れた眼のようなものが覗き、足元の大地は有機的な肉塊と化し、微かに脈打っている。王の本体が、その最深部で彼らを待ち構えているはずだ。
そのとき、飛空艇《アストラル・ブレイカー》の船内に声が響いた。
「よく来た、ゴミどもよ! 貴様をここで始末し、この世界ごと私の糧とする! 私の四天王が、貴様らの行く手を阻むだろう!」
創夜はコックピットで冷静に指示を出す。彼の瞳は、王の核がある最深部を一点で見据えていた。
「目標は王の核がある最深部だ。この城の構造は、生きた悪意そのもの。四天王だかなんだか知らないが、俺は王のいる場所へと向かう、皆はそれぞれ四天王を頼んだぞ、フィーリアは船の操縦をお願いできるか?」
「わかったわ!」
全員が指示に従う。
創夜は、王が持つ『因果律操作』の能力を知っていた。そして、自分の『重力操作』は広範囲に力を展開する特性上、この城の狭く不安定な通路で使えば、仲間の進路まで巻き込んでしまう危険があることも理解していた。一瞬の遅れが、世界の終焉を招く。
「セリア、リン、ミリィ、ミーナ。この城は複雑すぎる。それぞれの得意な戦場で敵を引きつけろ。 四天王とか言うやつが王への道を封印してるようだな、あの模様は明らかにそうだろう、俺が王の核にたどり着くまで、力で道を切り開いてくれ!」
「任せて! 私の魔法の究極の制御《アストラル・コントロール》で、四天王の一人を倒してくるわ」 セリアが優雅に笑みを浮かべる。彼女の
「未来は予測済みよ。私の剣術で、敵の背後から核まで道筋を断ち切るわ」 ミリィは剣を抜き、決意をにじませる。彼女の未来視と加速能力は、この複雑な城塞を迷わず進む唯一の道標となるだろう。
「創夜と王の戦いの舞台は、私たちが作るアル! 最高の場所を用意するネ!」
リンの声が続く。彼女の格闘術は、四天王との一対一の戦闘で最も輝く。
創夜は全員に再度の完全加護を施した。
「行け。全力で勝ち取ってこい! お前たちなら十分倒せる。俺は、王との決戦の舞台を作るために、最速で直進する。 危なくなったら俺を呼べ。すぐに行く」
「城に穴を開けるわよ!」
フィーリアはアストラルブレイカーについていたレーザーの発射のトリガーを握ると、レーザーがアストラルブレイカーから放たれた。城の壁にぶつかるが、壁が歪み貫通出来ずにいた。フィーリアは、マギテック・ゴーレムのレーザーを船の左右に二つ展開し、追撃を加え、城の壁に亀裂が入った。
飛空艇は、城壁に激突する寸前で急停止した。
セリア、リン、ミリィ、ミーナの四人は、それぞれの進路へと飛び出した。
セリアが向かった巨大魔力増幅塔の周囲には、空間を切り裂く黒い雷と奔流が複雑に絡み合い、空気は濃密な魔力の渦で満ちていた。塔の表面は光と影が奔流の波に合わせて変化し、壁の亀裂から赤い光が漏れるたび、まるで塔自体が呼吸しているかのように見えた。足元の地面もまた粘着するように歪み、歩を進めるたびに魔力の抵抗を感じる。
「くっ……これが異界の力……!」
セリアは口元で呟き、杖に魔力を集める。奔流は生き物のように襲いかかる。だがセリアの冷静な目は、その脈動を正確に捉え、攻撃の方向を予測する。まるで水面に浮かぶ小石の影を追うかのようだ。
「この制御不能な魔力に溺れるがいい!」
アスタロトが再び声を上げると、周囲の魔力が奔流として押し寄せ、塔の壁は振動でひび割れた。巨大な魔力の奔流は、まるで竜の咆哮が空間を引き裂くかのようにうねり、空中に亀裂を生む。
「ふふ……制御不能? その言葉、私には通用しないわ」
セリアは一歩も退かず、周囲の奔流を掌に集める。魔力の網が空間に広がり、奔流はねじれながら一点に収束していく。奔流の力は、反発しようとするたびにセリアの掌の中で形を変え、圧縮され、やがて光線へと姿を変える。
「魔力吸収壁《マナ・ドレイン》!」
セリアが声を張ると、掌から放たれた魔力の結界が奔流を捕らえ、逆に圧縮して返す。奔流の勢いは収束され、塔の空間に衝撃の波紋を描き出す。その瞬間、塔の表面が軋み、魔力の波が反転して空間を逆巻き、アスタロト自身の体を押し戻すように働く。
「な、なに……!? この魔力……支配されている……だと……!」
アスタロトの声は恐怖と驚愕に震え、普段の高慢な態度は消え失せていた。奔流は彼の意のままにならず、束ねられ、集中された力が光線となって突き刺さる。
「残念ね。その奔流、私にとってはただの燃料よ――返してあげる!」
セリアは優雅な微笑を浮かべ、掌から放たれた光線は三つに分かれ、まるで水神の槍のように塔の空間を貫く。奔流を受けた塔内部は光の奔流に包まれ、爆発的な光と振動が辺りを震わせる。
「水神の裁き《トライデント・ジャッジ》!」
三本の光の槍がアスタロトの体に突き刺さると、彼の巨体は黒煙と奔流の渦の中で崩れ、ついに霧散した。空間の歪みがゆっくりと収まり、塔は静寂を取り戻す。
しかし、戦いはまだ終わりではない。崩れた塔の残骸から放たれる魔力の残滓は、周囲に小さな奔流を巻き起こし、セリアを試すように押し寄せる。彼女はそれを掌で操り、光の結界で次々に押し返す。魔力の奔流は攻撃の波紋となり、空間を震わせ、戦場の一瞬一瞬が生き物のように変化する。
「くっ……まだ消えたわけじゃないのね」
セリアは冷静に次の行動を考え、塔の頂上を見上げる。そこには、アスタロトの最後の力が凝縮され、残滓として小さな黒い球体となって漂っていた。その球体は周囲の魔力を吸収し、再び奔流として増幅する危険を孕んでいる。
「よし……これで終わらせるわ」
セリアは再び魔力を掌に集め、光の槍を形成する。彼女の掌から紡がれる魔力は奔流の渦を鎮め、球体を包み込むように集中された。光の槍は魔力の奔流を貫き、球体に直撃した瞬間、爆発的な閃光とともに残滓は消滅する。
赤黒い光が消え、空間には不気味な静寂が戻った。
セリアは深呼吸をし、戦場を見渡す。塔の崩壊の影響で、床にはひび割れが広がり、砕けた石片が魔力の光を反射して乱舞していた。だが彼女の瞳は冷静そのもので、次の進路を決めるために仲間との通信を確認する。
「創夜……終わったわよ♡」
「フィーリア、セリアを迎えに行ってくれ」
「わかったわ、壁を壊すからセリア、少し下がってて!」
セリアは創夜とテレパシーで確認を取り、次の行動の準備を始める。塔の上空には異界の黒い雷がまだ残っているが、彼女の魔力の結界が防護となり、通過する際の危険を最小限に抑えていた。
セリアの魔力奔流が止まった増幅塔を後にした。




