ep10.知識の図書館
最強の飛空艇に乗り込んだ一行は、最高速度で天空を駆け、半日後、古代の賢者が集ったという伝説の地、『知識の図書館』へと到達した。
そこは、空に浮かぶ巨大な岩礁群の上に築かれた、荘厳な大理石の建造物だった。周囲の空気は澄み渡り、魔力と知識の波動が満ちている。
飛空艇アストラル・ブレイカーを静かに着陸させた創夜たちは、中へと足を踏み入れた。図書館の内部は、無限に続くかのような書棚と、天井まで届く巨大な知識の柱が立ち並ぶ、壮大な空間だった。
(図書館か)
創夜は入り口で声をかけた。
「誰かいませんか?」
帰ってきたのは静寂だった。
フィーリアは付近を解析した。
「この建物の内部及び外部には人間はいないわ、そもそも来る手段がないわ。誰がこんなところにこんなものを建てたのかしら、空は雲に覆われていて見つからないはずだわ」
セリアが目を輝かせる。
「ふふ、知識という名の秘宝……私に相応しいわ」
セリアは、そのセクシーな魅力で周囲の静寂な空気を華やかに彩りながら、古文書に手を伸ばす。
「データ化してないなんて、なんてアナログなのかしら」
フィーリアは手当たり次第マギテック・ゴーレムを使い、書籍を開かずに中身を分析し始めた。
「ん?こんなところに日本語が書いてるな」
創夜が足を止めたのは、図書館の巨大な門柱の白亜の壁だった。
そこには、この世界の文字とは明らかに異なる、鋭くも優美な筆致の漢字とかなが、魔力の残り香を漂わせながら刻まれていた。
それは、かつてこの地を訪れた『星を読みし者』が、時を超えて自分と同じ境遇の者に宛てた、魂の遺言であった。
【壁に刻まれた予言の銘】
「此処を訪れし異邦の同胞よ、謹んで啓し上げる。
此の地は、森羅万象の理を綴りし『知識の杜』。此処に並ぶ書物は、尽きることなき知の源泉にして、永遠に湧き出で、無限に生成される宝庫なり。
予は天の理を読み、汝の来たるを予め知り得たり。今、此の世は偽りの王という『禍』に蝕まれ、亡国の危機に瀕せり。
願わくは、此の無限の知を、私欲のためならず世界の平穏のために生かしたまえ。汝の手に委ねられた知恵こそが、最悪の事態を退け、現世に再び光を齎す鍵とならん。
天の道に従い、此の世の平らけく安らけきを、ひとえに乞い願う――」
「古文か……無限に生成される知識。それを平和のために使え、か」
創夜はその文字に込められた重圧と、それ以上の深い慈しみを感じ取った。先代の転生者は、自分が追放され、この場所へ辿り着く未来さえも『予言』として視ていたのだ。
創夜達は適当に本棚の本をそれぞれ手当たりしだい読みはじめた。たまたま創夜が手に取ったのは彼が『転生者』としてこの世界に来た理由と、彼を追放した王に関する記述だ。
次に創夜が手を触れたのは、塵を被った一冊の古びた記録書『異界の干渉者』という書物だった。そのページをめくった瞬間、創夜の身体に電流が走った。
そこには、この世界の歴史の裏側に隠された、恐ろしい真実が記されていた。
「……遠き過去、我らの世界は、異界の魔物によって侵略の危機にひんした。その魔物は、人の形を借り、権力の頂点に立つことで、内部から世界を蝕む計画を実行した。時を同じくして、世界を救うため、異界より特別な魂が召喚された...それは、世界を変える力を持つ者」
「異界の魔物...特別な魂……」
創夜は言葉を失った。
リンとセリアが創夜のただならぬ様子に気づき、隣に寄った。
「創夜、どうかしたアルか?」
「この本……まさか……」
セリアは記述を読み進め、表情を凍りつかせる。
その本の最終ページには、創夜が転生して最初に会った、彼を『無職』として追放した王の肖像画が描かれていた。そして、その肖像画の下には、恐ろしい文字でこう記されていた。
「現在の王こそ、異界の魔物の擬態である。彼の目的は、真の世界の救世主たる異界の転生者を排除し、世界の崩壊を導くことである」
「……嘘だろ?」
創夜は膝から崩れ落ちそうになった。
「王が……魔物?」
セリアが信じられないといった様子で口元を覆う。
創夜は、これまで自分が『無職』として追放されたことに抱いていた、わずかな自嘲の念が、怒りと使命感へと変わるのを感じた。
ミーナとミリィも創夜の元に集まり、事の重大さを理解した。
「創夜を追放し、世界を滅ぼそうとしているのなら、容赦はしないわ」
ミリィの目が鋭く光る。
「最初に俺が倒した魔王ははりぼてだったってことか、弱すぎるとは思っていたが、俺を追放した王は、この世界最大の敵だったんだ。本当の魔王というやつは、遠いどこかじゃなくて、俺たちのすぐ近くにいたってわけだ」
創夜は立ち上がり、決意を固めた。
創夜の身体から、これまでで最も強く、そして憤怒に満ちたオーラが噴き出した。それは、仲間を守るという絶対安全圏の無意識の力に、真実を知った怒りが加わったものだった。
「リン、セリア、ミリィ、ミーナ、フィーリア。俺たちの旅の目的が決まった。俺を追放した魔物の王を、倒す!」
リンは力強く頷いた。
「創夜の怒り、私たちが全て受け止めるアル!」
セリアは、創夜の怒りすら魅力的だと感じながら、魔力の制御に意識を集中させる。
「私の究極の制御の力を、存分に見せてあげるわ」
ミリィは静かに、しかし強く言った。
「王の動き、未来を予測して、会心の一撃で必ず仕留めるわ」
フィーリアは解析をしながら答えた。
「ここの情報解読が結構大変だわ、メトロポリスにない情報ね、この国自体が魔物に支配されているというのかしら……」
暫くして、創夜たちは、図書館で王を倒すための最後の情報を手に入れた。王は、首都の巨大な城の地下深くで、異界の魔力を取り込む儀式を行っているという。
知識の図書館での探索は、彼らの冒険の真の目的を明らかにし、旅の方向性を決定づけた。アストラル・ブレイカーと、修行で手に入れた個々の能力、そして創夜の覚醒した無意識の力が、今、世界を救うために結集する。
図書館での探索を終え、一行は飛空艇アストラル・ブレイカーの船内で、王を討伐する前の最後の食事を囲んでいた。
「皆、最後の戦いは結構時間がかかるもんだからな、しっかりと食べないと」
「この国の王ってよくわからないけど、悪いやつなら倒すだけアル……」
リンは、真剣な面持ちで皿の肉を切り分ける。
セリアは、豊満な胸元が強調されるように、ゆったりとしたローブを纏い、創夜の隣に座った。彼女は、創夜のワイングラスに丁寧に酒を注ぐ。
「創夜、あなたを追放した魔物を倒すのよ。図書館の知識も最高の食事だったわ。戦いの前は、ちゃんと栄養を取らないとね。フフ、私にもたっぷり注いでちょうだい」セリアは、そのセクシーな魅力で、緊迫した空気を和ませる。
ミリィは静かに食事を続けるが、その眼差しは鋭い。
「王の城の構造、頭に叩き込んだわ」
ミーナは、特製の愛の気を込めたクッキーを皆に配った。
「みんな、これで力を出すのよ!王様を倒して、世界に平和を取り戻す!」
創夜は、肉を一口食べ、力強くうなずいた。
「ああ、最高の仲間と最高の食事だ。俺たちが転生してきたのは、この瞬間のためだったんだ。王を倒して、この世界を救う。そして、俺を追放したことを、生涯最大の失敗にしてやる!」
創夜の力強い言葉とともに、全員がグラスを掲げた。
「王討伐アル!」
「そういえば、フィーリアはどうしたんだ?」
食卓の広間を見渡すと、空間が歪んでいるのがわかった。
「こんな変な空間、この船にあったか?」
ミリィが駆け寄ってきた。
「それ、フィーリアが作ったゲートよ、何かあったら呼んでと言ってたわ」
「相変わらずメトロポリスの技術ってどうなってるんだ!?」
そういうと、創夜はゲートに入った。
ゲートの中に入ると、コンピュータとマギテック・ゴーレムの腕や武器がいくつか並んでいた。
フィーリアが創夜に気づいた。
「なに?何か用?」
「うわ!この部屋科学の塊って感じだな、何してるんだ?」
「さっきの図書館の本の解析とマギテック・ゴーレムに気を流す方法がないか調べながら、戦いの前の最終メンテナンスをしているの」
「そうか、邪魔したなおまえのゴーレムってこんな空間にあったのか、こんな腕だけとか武器だけのものが空中を自在に動くなんてアニメやゲームでも見たことないぞ」
「この技術はメトロポリスのものじゃないわよ、わたしの博士が作った特注品なの」
「おまえを作った博士は中々すごい人だったんだな」
「違うわ、人をそのまま解析して作られたロボットよ、反乱だとか失敗作といわれ、メトロポリスから破棄の判断をされたのよ」
「ロボットか……おまえを作ったくらいだからな、おまえのスペックも俺の知ってる科学の想像をはるかに越えた想像以上だよ」
「もうすぐ、マギテック・ゴーレムのメンテナンスが終わるわ」
「俺たちも準備をする、何か町によらないといけなくなったら言ってくれ買い出しに行くからな」
「わかったわ」
彼らの目指す先は、魔物の王が潜む首都の巨大な城。最強の力を手に入れた一行の、世界を救うための最終決戦が、いよいよ始まろうとしていた。




