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3-35 意思

「助手君、私としては勿論反対だね。そりゃあ行為自体は称賛されるだろうけど、リスクが高すぎるよ。後で何かと理由をつけて軍に身柄を拘束されるのは目に見えている。」


 コニイはテーブルに頬杖をつきながら諭す。


「うむ、まぁ普通に考えたらそうだろうな。」


 否定されたエンドもまた、当然のように頷く。


「分かっているのであれば何故そんな事を言うのかねぇ?リンガも何か言ってやりなよ。」


 話を振られたリンガは、じっと目を閉じて腕を組んでいた。


「おーい、リンガ?聞いてい・・・」

「仮に、止めろと言ってもさ。」


 コニイからかけられた声を遮る様に、リンガは静かに、しかし強く返す。


「どうせボクの相棒は止めないよ。それだけは分かる。そりゃあさ、男で探索者をやろうとする大バカ野郎だから・・・でも、理由は教えてよ。」


 その言葉に満足そうに頷くエンドは、半笑いの表情で言う。


「はっはっは、何、大した理由ではない。ただ格好を付けたいのさ。」


「・・・誰に?」


 エンドは考えた。英雄願望が全く無いとは言えないが、強い執着を持つものでは無い。この思いはどちらかと言えば義務感や危機感、強迫観念に近い感情であった。そう、心の奥底の低い声が言うのだ。為すべき事を成せ、と。しかし、笑えてしまうことにその為すべきことというものもまた、随分と稚拙なものであった。


「自分にだよ。ただ自分に格好を付けたいだけだ。どちらかと言えば、格好悪い真似はしたくない、というところか。誰かを慈悲を持って助けたいとか、同情といったものでは無い・・・ただただ自分本位な、馬鹿な理由だよ。」


 そう自身を酷評するエンドであるが、しかして言い放ったその表情は実に晴れやかであった。


「ワザワザ危ないことするとカ、ワタシはわからないけどサ〜安全に生き残れればいいんじゃないかナ?」


 スライムらしいシッコの疑問にエンドはしっかりと頷く。


「うむ。本当にシッコの言う事は正しい。客観的に見て間違い無く正しい意見だ。しかし、それでもどうしようもない愚か者がいるのだ。諦めてくれ。」


「そーいうもんかナ?」


「ああ、そういうものだ。」


 シッコは不可解に、しかし多少の興味を持って頷く。エンドの意思が固い事を悟った面々は呆れた様な、疲れた様な顔となる。最後まで反対していたコニイもその意見は変えないものの深く溜息をついて諦めた。


「分かったよ、助手君。確かに君は思った以上に愚か者だ。ああ、でも少しだけ時間をくれたまえ。」


 コニイが工房へ向かうと、何かを引っ掻き回して探す音や、甲高いマギアの工具音が鳴る。

 少しして戻ってきたコニイは抱えてきた荷物を机の上に乱雑に置いた。


「マギアンの顔部品の修理パーツを少しいじったものだ。あとは髪のパーツを流用したカツラもある。それから服というよりは長い布に過ぎないが・・・君が好みの色と言っていたものだ。身体を覆うことができるだろう。マギアン用の服飾類もある、上手く使ってくれたまえ。」


「ドク・・・感謝する。」


 深く頭を下げるエンドにコニイはそっぽを向く。


「私は止めたよ助手君。しかし、それでも尚行くと言うのであれば・・・無事に帰ってきたまえ。それに、リンガはどうせついて行くのだろう?シッコ君はどうするのかな?」


 リンガは迷いなく頷き、シッコは少し悩む仕草を見せたがやれやれといった表情を形造るの頷いた。


 エンドは黄昏色の布を広げると、ふとトガ・・・ローマの衣装みたいだなと脳裏に浮かぶ。そのぼんやりとしたイメージに沿う様に布を巻き付けて衣装とし、そして顔の上半分を覆う銀色の仮面を手に取る。


「中々、悪くない。」


 ニヤリと笑うエンドに呆れた様子のコニイが補足する。


「流石に銀では無いよ、普通の金属を光沢が出る様に仕上げただけさ。」


 リンガは濃い藍色の修道服のような衣装を着て黒く長い髪のカツラを被り、顔をベールで隠す。シッコは濃い灰色の布をすっぽりと被り、マギアンの顔のパーツをその隙間から覗かせた。


「うーん、何か違和感凄いなぁ」

「キャハハハ!これ、口とか動かせるんだネ!」


 その様子を見たコニイが思わず吹き出して笑う。


「くくっ、いや、すまないね。リンガは兎も角、シッコ君は特徴がありすぎるからね。その顔のパーツを外に出しておけばスライムとは思われないだろう。」


 ほへー、と感心した様子のシッコがその顔パーツを縦横無尽に動かすと、コニイはさらに声を立てて笑った。

 三者三様の怪しい風立ちが揃い、家の裏口へと向かう。


「では、これからマナを撒き散らしてくるとしようか。つまらない悲劇は早々に終わらせるのに限る。」


「はぁ、まったく・・・だが、だからこそ助手君はここに来たんだろうなぁ、変なのは最初からわかっていたけどね。ま、精々楽しくやってきなさい。」


 頷いたエンド達は周囲の気配を読みヒトがいないタイミングで出発して行った。


「ドクター、私にはエンド様達が良く分かりません。」


 無表情なアイリスがコニイに問う。問われたコニイはフッと笑った。


「私にも分からないさ、でもそれがヒトなんだよ。学んでいきなさい。」


 アイリスは無表情に首を傾げ、静かに頷いた。




 


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