3-21 乱戦
キャンプ地にもそれなりの人数が残ってはいるが、何かの先触れのように雪崩れ込む小型や中型の魔獣の数はかなりなものであった。
勿論軍人も残っている以上戦って負けるものでは無いのだが、ヒトを無視して逃げ去るもの、襲いかかるもの、只々暴れるものといったまとまりの無い様相であり全てを相手取るには人手が少なすぎた。
だが、明らかに集まる魔獣が多い天幕がひとつ、そこには見覚えのあるラ族の小鬼達が必死で戦っていた。
エンドはマギア・フレームを走行モードに無言で変形させると、リンガを抱き上げて軋む程に車輪を全力で回して急行する。一瞬慌てて顔を赤らめたリンガであったが状況を把握すると厳しい表情を前に向ける。
共に行動してきた第三班のラ族達も慌ててその後を追った。
「ああもう!テントがあのクソ魔獣に破られなければ良かったのに!」
「せっかくマナが漏れにくい特注品だったのに・・・シタラ様を狙っているね!」
マナを出し続ける男性はそれを隠さなければ魔獣の標的になりやすい。震えるシタラを庇うように妹のメガラが短剣を構え、それを囲むようにラ族の戦士達が魔獣が抜けないよう応戦していた。
しかし人数は少なく隙間がどうしても出来てしまう。そこの間隙を狙ってハウンドが飛び掛かろうとしていた。さらにそれに続かんと複数のファングも駆け寄ってきている。
「ヌンッ!」
「グギャッ!?」
勢いそのままにエンドは旗を右手から生やしてその尖った先端でチャージをかました。オーラが使えないエンドは体格の割には非力で脆いが、その体格は中々のものだ。身に纏うマギア・フレームの重量もあり、そして勢いよく生える旗の速度も相まって深々とその横腹を貫き、体勢を崩すことに成功していた。
「相棒!」
「うん!」
エンドの懐から飛び出したリンガがその鉈で頭をカチ割りファングはその動きを止める。
「シッコ!」
「はいサア!」
エンドの外套の隙間から液体の触手が何本も生えて迫り来るファング達の頭に覆い被さりその動きを止め、暴れても逃すことなくそのまま窒息させた。
エンドはガードマギアを展開して毒針を撃ち込み迫る魔獣を牽制し、リンガが次々とその頭からを割っていく。漏れた魔獣はシッコが仕留め、圧力の減ったシタラを守る小鬼達は勢いを盛り返した。
さらに息を切らせながらも第三班の小鬼達も合流し、テント周辺の魔獣は駆除された。
「やあ友よ、大事ないか?」
「エンド!ありがとう!」
「おっと」
感極まったシタラがエンドに飛び付くと、それを優しく受け止める。
「元気なようで何よりだ。」
「こ、怖かったよ。でも助けに来てくれてありがとう!」
「なに、気にしないでくれ。それに君を守ってくれていたラ族のレディ達あっての事だよ。」
ハッとした顔になったシタラは他の面々にも感謝の言葉をかける。
先程まで傍にいたメガラは惚けた表情でエンドを見ていたが、慌ててシタラの後を追った。
「それで、何が起きている?」
怪我の応急処置を受けながらシタラを守っていたラ族の小鬼が問う。
「スタンピードだよ、強い魔獣の群れに追われて他の魔獣達が逃げ出しているんだ。それに、第一班の探索者達も追われて逃げてきている、もうすぐ本命の牛達が来る!」
リンガが答えると血の混じった唾を地面に吐いた小鬼が悪態をつく。
「クソ迷惑だな!此処に余計なもんを連れてきやがって!・・・急いで撤収してシタラ様を逃がす!牛の突進は防げないぞ!!」
破れたテントの切れ端をポンチョのようにシタラが纏わされて駕籠に押し込まれると、駕籠を担ぐ者以外にも半分ほどのラ族が護衛として続きリアエズの村の方角へ急いで撤退を開始する。
「アイボーも危ないから一緒に下がったほうがいいよ。」
「つれないことを言わないでくれ相棒、何、本当に危なくなったら直ぐ逃げるさ。それにーーー牛型の魔獣はまだ見たことが無い、面白そうじゃないか。」
リンガは目をぱっちりと開けてきょとんとした表情となったが、直ぐに呆れたような顔をして笑う。
「・・・何だ。アイボーも大分探索者らしくなったじゃないか。」
「はっはっは!」
周囲を見渡せば小型の魔獣はある程度掃討されていたが、エンドの感覚は近づく強い気配を捉えていた。




