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2-15 契約

「・・・だ、大丈夫さ。私には考えがある。」


言葉とは裏腹に少し視線を怪しげに彷徨わせながらもコニイはアイリスに話しかける。


「さてアイリス君。君は今、身体も十分に動かす事が出来ず、記憶も無く、そして資金もない。これが現状だ。」


「・・・その通りです。今回のマナ補充や応急処置の費用も支払う事が出来ませんし、所属も不明のため支援を求めることも不可能です。当機の活動は極めて困難と予測されます。」


「そうだろうそうだろう!だが私も見捨てるにも忍びない。そこで、君と『契約』を交わし修繕を行なうと思うのだがどうだろうか?」


「現状、当機に提示できる条件は有りません。著しく不当な内容でなければ『契約』による支援を求めます。」


コニイはうんうんと頷く。薄笑いを浮かべたその様子は胡散臭げであり、リンガは胡乱気な表情で成り行きを見守る。


「それでは次のような内容で私、コニイとマギアンのアイリスの間で契約を行う。一つ、コニイはアイリスの機能の改善を行う。二つ、アイリスは機能が改善した際はその労働をもってコニイに対価を払う。三つ、アイリスはエンドが男性である事を口外しない・・・とりあえずこんな感じでどうかな?あああ、そうだ神と母に誓おう。」


「・・・承知しました。当機、アイリスはコニイと契約を行い、その内容を遵守することを神と母に誓います。」


「うん。ではよろしく頼むよ、私の事は、ドクと呼んでくれたまえ。」


「承知しました、ドク。ただし、一つ疑問があります。」


「何かね?」


「当機とっての利益が大き過ぎる契約内容で公平性に欠けます。なぜこの様な契約をされたのでしょうか?」


アイリスは表情の無い瞳でコニイを見つめる。コニイはそれを受け止めつつ、くっくと含み笑いをする。


「アイリス君、覚えておきたまえ。ヒトは余裕があれば、別のヒトを助けるものなのだ。損得はあらゆる行動に発生するが、それだけではヒトの世の中には回っていない。理論的では無いことが悪い面でも良い面でも存在するのだ・・・君はまだ産まれたての子供だ、学んでいきなさい。」


「・・・現時点で理解は困難ですが、承知しました。」


「それでいい、でも学ぼうとする姿勢を決して捨ててはならないよ。」


コニイは振り向くと、事情の分かっていなさそうなエンドとシッコに説明する。


「マギアンは交わした『契約』を決して破らない種族なんだ。尤も、通常の雇用契約であればもっと詳細な点まで書面を用意して詰めていくし、マギアンも不利な内容であれば是正を要求したり、契約を行わない。契約内容に偽りがあったり齟齬があれば解除する事もあるけれども、こちらから裏切らない限りはまず起こらない事だ。これで助手君の件も大丈夫だね。」


「ほう、まったく、種族毎に色々あるのだな。」


エンドは外見や能力だけでは無い種族毎のしきたりがあることを知る。


「色々やらかすのはアイボーの方だけどね。」


「それは良い事だよ相棒、何も無いよりも楽しいじゃないか。」


「・・・完全には否定しないけどね。」


だから探索者なんてあこぎな仕事をやってるんだと小さく付け加える。


「うん、ただの案内のはずがずいぶんと長くなってしまった様だ。やる事も話す事も多いだろうが、まず今日はシャワーでも浴びて休みたまえ。ああ、助手君、男性の君から入ってくれ。そちらの方が私も気が楽だ。」


コニイはジェントル・ファーストだよとキザっぽく笑う。


「家主が言うのであればお言葉に甘えようか。」


ーーーそして、事件が起きる。



「服を着ろバカー!!やると思った!!」


「いやはや、替えの服が無くてね。困ったものだ、はっはっは。しかしシャワーの湯というのも実に気持ちがいいものだな!」


タオルを首にかけ、臆するところもなく自然体で湯気を上げた身体で彷徨く。


「デッ!!じょ、助手君、これは誘っているのか!?くっ、据え膳食わぬは小鬼の恥、か。で、では行くぞってアタタタ!!」


「コニイも落ち着け!とりあえずそこの白衣を腰と胸に巻けバカ!」


「わ、私の白衣が!あ、でもそれはそれでアリかも知れない・・・というかリンガ、よくここまで連れてくる間に襲わなかったね?君、ホントに小鬼かい?」


「う、うっさい!だ、だってさ、そういうのはもうちょっと時間をかけてお互いを知り合ってからさぁ・・・」


「・・・変な所で真面目で夢見がちだよねキミ。」


顔を赤くするリンガに殴られた頭を押さえながらコニイは呆れたような口調で言うのであった。









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