会社で二人きり
今回は会社の先輩後輩ものです。
昨日も残業、今日も残業、きっと明日も残業…。
はあ、嫌になっちゃうわ。
「せーんぱいっ!」
「あら、田中さん。どうしたの?」
この子は一つ下の後輩、田中さん。
教えた仕事をしっかりこなす、先輩としてとてもありがたい子だ。
「うち、手伝いますよ!」
「えっ。」
定時はとっくに回っている。会社に残っている人もいない。
「そんな、悪いわよ。」
口ではそういったが、内心ではガッツポーズだった。
やった!はやく帰れる!いい後輩をもったわ私!
「いえいえ、いつもお世話になってるんで。うちにはこのぐらいしかできませんが。」
そういって彼女ははにかんだ。
綺麗な白い歯がちらりとみえる。
「そこまでいうなら…。ありがとうね、田中さん。」
にこりと笑いかけると、彼女はこちらを見なくなってしまった。
耳がゆでだこのように赤い。
「田中さん?」
なんだか様子がおかしい。
「そんな不意打ち、ずるいです。」
こちらに向き直った彼女は、真剣な顔をしていた。
「え?」
どういうことなのだろう。
「この際だから言っちゃいますね。うち、ずっと先輩のことがすきでした。」
二人の間に静寂が流れる。
私はうつむき、今起こったことを必死で整理しようとした。
こ、これは告白、よね?
女同士だけど、告白と捉えていいわよねこの空気。
だって彼女真剣な眼差しだったもの。
でも、え、なんて返していいのかわからないわ。
頭の中がこんがらがる。
(そうだ、だまってちゃ失礼よね、何か言わないと…。)
そう思い顔をあげると、彼女の真っ赤な顔がすぐ目と鼻の先まで迫っていた。
「え、ちょっと、待って…。」
これはさすがに予想外。
手を突き出して静止しようとするが、止まる気配がない。
「待ちません。」
いつもより低めの声でそう囁かれた。
私の身体は硬直する。
意を決して、目をつぶった。
ちゅっ。
「へ?」
彼女が口づけしたのは、おでこ。
「なーんて、冗談ですよ!さ、仕事頑張りましょう!」
私に被さるように立っていた彼女はすぐ自分の席に戻ると、残っている書類を片付けはじめた。
その顔はまだ先ほどと同じ色をしている。
(冗談なわけ…ないわよね。)
きっと彼女と同じ色になっている自分のおでこをそっと触る。
さっきの唇の感触が蘇りそうになり、慌てて手をはなした。