その音だけは正直だから
夏の暑さもどこへやら、すっかり肌寒い季節になった。
ぴゅうと吹きつける風は、私の体温を奪っていく。
(寒いな。)
目の前に続く一本道には、街灯がぽつりぽつりとあるだけ。
月は雲の後ろにすっぽりと隠れてしまっている。
もし誰かが数m先に立っていても、気づけないほどの明るさだ。
(羽織るものでも持ってくればよかった。)
薄いTシャツ一枚では覆いきれない皮膚をこする。
それにしても、夜とはいえここまで冷えこむとは。
(夏ももう終わりなんだな。)
そう思うと、胸が苦しくなる。
これはただ寒さだけのせいなのか。
はたまた、隣の彼女がそうさせるのか。
私から少し離れて歩く彼女の表情はうかがえない。
ただ淡々と歩みを進めていく。
薄着の私に対し、彼女はしっかりと上着を羽織っていた。
無口な彼女が、外は寒いからと勧めてくれた上着。
断らなければよかった。
指の爪が少し腕の皮膚に食い込む。
「あなた。」
横を向くと、彼女が手のひらをこちらに向けていた。
私は慌てて腕を掴んでいた手を離した。
自分を傷つけていると思われたのかもしれない。
誤解を解くべく、私は右手をひらひらとふった。
次の瞬間、彼女の左手と私の右手は繋がれた。
「あ、の。」
急にどうしたのだろう。
付き合ってから一度もこんなことはなかったのに。
「触れ合えば、暖かいですから。」
彼女はそう言うと、何事もなかったように再び歩き始める。やはり、表情はうかがえない。
けれど、私の手のひらは、彼女の感情を理解していた。
この音が、彼女にも聞こえていないことを祈ろう。
あてもない夜の散歩は、まだまだ始まったばかりなのだから。




