第九十四話 魔女狩り(二)モール街騒動
――栞聞こえる? 俺だけど今、いいかな。
『あっ、忍君。はい、どうぞ』
遠隔視で栞目線の状態を観察。
白い部屋でベッドから起き上がって、8インチのタブレットをいじっている。
リハビリセンターの彼女専用の部屋に一人でいたようだ。
その彼女の前に、自己のイメージを照射して私服姿の俺を現出させた。
「ベッドに寝て、何か悪いところでもあったの?」
『いいえ、検査が終わってそのままの状態でいただけですよ。ベッド楽ですし、ここは私の別荘みたいな部屋ですしね』
栞目線の向かいの壁は、彼女の服が立てかけてあり、小さな本棚とその上にノートパソコンが置かれているのが見えるが、病院関係の機械もいくつか置かれていた。
「……それで検査は?」
『いつもの調子と変わらないです』
「そう、それならよかった。……ところで、今TVで中山代議士の国会証人のニュースが出てたけど、こちらも何か呼ばれるとかありえるのかな? 使途不明金の追求もするような報道だったけど」
『ニュース流れてましたか。今日は午前中、ケータイで何度も呼ばれて大変でした。でも朝野大臣は、拝み屋の顧客として未来予想を占って、その対価を受け取っただけですから、黙っているだけでいいですし、国会証人で拝み屋が呼ばれることもないですよ』
彼女は話しながら、まやかしの俺の腕を取ってベッドに座らせる。
「それならいいんだけど。国会証人のことは知ってたの?」
『知りません。ちょっと前に起きるはずだった朝野大臣のスキャンダル辞任、その未来予想はしてました。危なく回避したのですが、その行動のゆがみが今回出てきたのかと思います』
「なるほど、そうなると、代議士の国会証人は朝野大臣まで波及して辞任とか?」
『そこまでは……別の動きが始まることもあると大臣たちには警告してますので、回避できるかと思います』
「じゃあ、あとは見守るしかないってことか」
『ええっ。見守るって言えばロイ・ダルトンをチェックしているのですが、シッポとか出しませんね』
「ああ、仕事してるね」
『気が抜けない相手ですから……それで、忍君の方では変わりないですか?』
「ああ、それそれ……」
俺が言葉を紡ごうと口を空けたら、栞の指が口に触ってきた。
『わっ、感触あります。これならチュウしても問題ないですね』
「こら、俺のまやかしで遊ぶな』
『誕生日の夜、私と要のまやかしで忍君をサンドイッチにしましたけど、結構良かったのかな?』
俺は黙って額に手を当てると、栞目線の俺のまやかしも意思どおりに同じポーズを取った。
そのポーズのまま、モール街の話を栞に聞かせる。
「えっと、午前に問題があった。買い物中に、まやかしをかけてもいないのに、知り合いがかかって騒ぎになり、マスコミにネタを提供してしまったんだ」
栞が黙って話を聞く姿勢になった。
「それから、問題のまやかしを見た人たちに、無効化イメージを送っても消えなかった」
『えっ? そんな症例初めてです。まやかしを送ってきた相手の確認は?』
「掴めなかったよ。零の聖域使ってなかった感じもした」
『零の聖域を使ってない? ……うーん、課題が増えましたね』
「それで、まやかしを送れる相手って言えば、G・天誅のメンバーだけど。高田さんから日本へ来たって話は聞いてない?」
『G・天誅のメンバー来日報告は受けてないですね。でも遠距離から、まやかしを見せることもできるので場所は関係ないです。それに遠隔視を使っていれば、零の聖域で相手も特定できます』
「そう……だな」
俺は立ち上がり両手を広げ、わからないポーズを彼女に見せた。
『うーん。もしかして……まやかしではないのかもしれません』
「栞もそう思うか」
『四人が同じ幻覚を見たなら、催眠術をかけられた? とか』
「それは、マスコミがTVでもう検証して、俺がかけたって断定しちゃっているよ」
『そう、さすがね。……あとは、その四人が幻覚剤を使用してたってこと? になるかしら』
「それ一番ありえないから」
『私も話してて思いました』
魔女のまやかしは結局わからずじまいで、様子見になった。
「G・天誅のメンバーでもなさそうなの? うーん」
翌日、栞と話してわからなかった魔女のまやかしを、午前中から道場に来て座っていた彩水たちにも話した。
「わからないままだと、またやられますね」
「買い物も気が抜けないことになりそうです」
直人と向葵里が座禅を組みながら、究明できないことへの物足りなさを口にする。
「誰だか知らないけど、やられっぱなしは許さない」
「怒り表明しても仕方ないぞ」
彩水の発言に俺が突っ込むとにらまれた。
「では無様を晒した広瀬先輩に何か、無様でないアイデアでもあるんですか?」
今村の発言に嫌味を言い返そうになるが、不毛の争いになるので言葉を選んで言う。
「原因がわからないから対処もできない。ならもう一度観察が必要だと思う」
「そうね、まずはそこから相手を引っ張り出さないといけないわ。……だから、忍ちゃ~んと今村ちんがもう一度チャレンジしなさい」
彩水が俺の言葉を受け取って話すが、俺と今村は口を開けっぱなしになる。
これはブーメランか、相棒がまさかの坊主の息子、今村陽太。
「俺、パス。……と言うか、男だけなら逆に警戒されるぞ」
「広瀬先輩と思考が同じなのが嫌ですが、僕も同じ意見で遠慮します」
「ぶーっ。二人して私に意見するつもり。……まあ、忍っちは敵をじっくり観察して欲しいから、待機でもいいかな」
「それじゃあ、ボクがもう一度行きますよ」
向葵里が挙手して宣言したら、今村は露骨に態度を変えて答える。
「では僕もお供しましょう」
魔女のまやかしを調べるために、おとりとして同じパターンを踏むことに決まった。
もちろん買い物も必要なので、量は少な目にショッピングモールで購入する手はずとなる。
リハビリセンターの栞に『騒ぎにならないように注意して』と了解をもらってから、俺や彩水たちは応接室に待機した。
おとり組が希教道を出たあと、遠隔視を使って、二人を交互にのぞいてみる。
「今村さん、またよろしくです」
「おっ、おおう。護衛する」
「襟がよれてますよ」
向葵里が、私服に着替えた今村のTシャツの襟を正して微笑む。
「そ、そうか、はははっ」
グループでいがみ合っていたこともあった二人なのに、今は仲が良くなってる。
今村が向葵里の危機に、駆けつけたのが効いているのかもしれない。
しかし、やつは麻衣、彩水、そして向葵里と心変わりが早いので、次は誰にターゲットにするか信者に賭けを持ち込んでもいいかもしれない。
隣で彩水が薄気味悪く笑っているが、彼女もこのおとり捜査の参加者で、二人に遠隔視で同調して観察している。
能力を活用しているので嬉しいらしい。
――もしもし。広瀬だが、今村。聞こえるか?
「あっ、聞こえる」
向葵里はまだ無理だけど、今村は零感応で俺の声を聞き取ることはできるが、行き来する会話としての念話がまだ成立してない。
もちろん、まやかしでの会話は成立するので大して必要ないが、秘密性では重宝する。
その辺は彩水も似たり寄ったりで、「念話むずい」と不満を言っている。
念話が成立したと思うと、自己のまやかしも現出してしまい、出さないようにすると会話が繋がらない。
映像を送るまやかしに慣れていると、意識だけの通信は逆に難易度が上がるらしいが、慣れの問題であろう。
それでも、受信はできるので遠隔視から今村の口頭を、俺が聞くことによって片手念話が成立する。
独り言を言うことになるので、今村は嫌がるが片手念話の仕様である。
「携帯電話でよくね?」
とごねる今村だか、長時間の片手持ち携帯電話会話とその費用を考えると、費用ゼロで瞬時の対応や機密性のある片手念話が勝った。
「またマスコミらしいのが数人、ついてきてるんだが」
――それは仕方ない、無視でいい。
買い物の二人は、ショッピングモールに入り、予定の品を購入してスーパーから出る。
前日に問題があった、喫茶店前を通り過ぎたとき異変が起きた。
野次馬から出てきて絡んできた陽上高校の制服を着た茶髪と男女七人が、喫茶店の中にいて今村と向葵里を見つけ騒ぎ出している。
「陽上高校の連中は暇なのが多いらしい」
「何かわかったの?」
対面のソファに座っていた彩水が、俺の言葉に反応して顔を上げた。
「喫茶店が怪しくなった。これから調べるよ」
俺はすぐ、今村と目線があった陽上高校の男子生徒に、意識を回して遠隔視を試みる。
すぐ暗闇から目線映像が現れ、喫茶店内部を確認できた。
今村から陽上高校生徒に移動。
「マジか? ネットで見た似顔絵の薄気味悪い魔女にそっくりだ」
「魔女コスプレだよな? 凝りすぎで不気味だわ」
「もしかして、昨日ニュースで騒ぎになってたやつ?」
隣で盛り上がっている男女たちの見てる方向を目線主も向く。
その映像は窓から外を眺めて、黒いローブとフードを着た今村たちと同じ背丈の二人組みを捕らえていた。
前回見た魔女より若干変わっているが、魔女らしい妖艶な者が杖を持って立っている。
『本当だ、あのカッコウ、スゲーな』
目線主の声が入ってくる。
「ちょっと見てくる」
「面白そう私も」
「おい、止めとけ」
隣にいた茶髪が立ち上がって言うが、女子たちは喫茶店を駆け出した。
しかたなしに男連中も一緒に喫茶店の外へゆっくり追う。
「わーっ。お客様、お勘定」
最後の一人がショートカットの女性店員に捕まり、財布をだしているのを目線主が振り返って見た。
俺はすぐ応接室の彩水たちに報告。
「昨日と多少違うが、二人が魔女に変身した」
「私も何とか確認できたわ。フードで顔が見えないから魔女と判別できないけど」
俺の言葉に一緒にのぞいている彩水も肯定。
すぐ今村に念話した。
――魔女のまやかしが二人に発動している、周りに気をつけてくれ。
言ってる先から、陽上高校の女たちが、今村魔女と向葵里魔女の行く手を遮るように回り込んだ。
俺は、その行動を陽上生徒の目線主から視えた。
今村魔女は、隣の向葵里魔女をすぐうしろへ退かして応対する。
「何かな?」
「うわーっ、なんて甲高い声」
「黒板を引っかいたような感じでキモい」
「吐きそう、最悪の魔女だわ」
口に手を当てて女生徒たちが下がる。
「いきなり失礼なやつらだ」
俺がのぞいている目線主は、女子たちのうしろへ追いついたところで、今村魔女の非常に高い声を聞き驚いて立ち止まる。
肌に鳥肌が立つ位に不快な高周波音で、魔女のまやかしが見えている者が硬直した。
「いやーっ」
一人の女子が肥えを上げながら耳を押さえてうずくまると、残りの二人も青くなりしゃがみこむ。
「おっ、おまえ、何しやがった」
彼女たちの前に茶髪男と他の男たちが恐る恐る出た。
今村魔女が前に出て、フードの暗がりから鋭い眼光を陽上高校の男子たちに向ける。
「うわっ」
全員うしろへ下がるが、茶髪男が焦ってうずくまった女子とぶつかり尻餅をついて倒れた。
前日のように、モール街の通行人が何事だと立ち止まり人垣ができてくる。
俺は通行人数人に、遠隔視を通して視て回ると、今村たちが普通に見えていて魔女のまやかしがかかってないことがわかった。
やはり喫茶店があやしいので、レジに残っていた男子生徒に素早く目線移動を行い、遠隔視で周囲をのぞいた。
普通の店内で、客はカップルと女学生グループが数組確認。
今のカフェショコラのおやじ臭さと段違いだ。
目線主の男子生徒もドアを開けて喫茶店の外に出ると、うしろから低い悲鳴。
「ありがとうござい……きゃっ、わわわ」
ショートカットの女性店員がこちらを見て、驚いて声を出している。
確認のため目線主を女性店員に遠隔視で乗り移ると、ドアの外の二人の魔女が視えていた。
この喫茶店内に犯人が潜んでいるのか?
ドアが閉まっても、目線の女子店員は窓の外の魔女を呆然と視ているので、立体映像様式に意識を変化させて三百六十度店内を見渡せるように改良、知っている人物はいないか確かめる。
だが、それらしい人物は見当たらない。
「不快な魔女は出て行け」
「出て行け」
路上の陽上生徒たちが、声を上げて騒ぎ始めたので、意識を女性店員から今村に目線を変更、遠隔視移動した。
暗闇から目線が、モール街の通路を映し出した。
「希教道の信者だって?」
「うっとうしい」
「つるし上げろ」
野次馬の一部からも陽上生徒に同調しだした。
不穏な空気に危険と判断、今村に退避の勧告を念話で指示する。
――もう逃げた方がいい。
「そう言っても、こんなに人が多くなると難しい」
「昨日より多いね」
うしろで心細く言ってくる向葵里。
「とにかく人並みをかき分けてみよう」
二人が動き出すと、遠巻きにしていた陽上学生たちが阻んでくる。
「何でそんな不愉快な声だしているんだ。迷惑だ」
「大体その格好でいつまで、顔を隠している」
「本当の顔ぐらい見せな」
一人の学生が、向葵里の頭へ手を伸ばして空を切った。
「わーっ、血だ。血の顔」
座り込んでいた女子が、叫ぶと回りに伝染するように声が上がった。
「あああっ」
陽上高校の生徒たちが、それぞれ声を出し、喫茶店の中からも悲鳴が上がった。
俺は驚いて、今村目線から全体を見渡せる学生へ目線移動し、状況の把握に努めてみる。
目線主を変えて映っていたものは、向葵里である魔女のまやかしの顔があらわになっていて、血を流したような真っ赤な顔面だった。
肌がぎらついた赤で染まり、黒髪も血が飛び散ったような赤のまだら模様が付き、鬼にも似た醜悪さでこちらを見据えている。
「あっ、あれ。本物か?」
「マジ? 信じらんない」
学生たちが口々に吐きだすように言う。
「おかしいぞ。あんなの、おかしいだろ」
「ありえねえ、って言うかやべえよ。やべえ」
目線主の隣にいた学生が、喫茶店の壁の影に立てかけていた掃除用のほうきを取り出した。
「いちゃいけねえ代物だーっ」
そう言った学生は、向葵里魔女に近寄りほうきで殴打しかけた。
だが、今村魔女が腕で叩き返すと、男は倒れてしまう。
目線主の学生は恐怖を感じたのか、後ろへ下がって傍観するが声をだした。
「そっ、そんなおっそろしい物は、きっと殺した方がいい。絶対いいーっ」
おかしい、学生たちが錯乱してきている?
「怪物がーっ」
続けて別の学生が、声を上げて今村魔女に、うしろから足蹴りをかましてきた。
まともに受けた今村魔女は、観客になった野次馬の中へ前のめりに倒れる。
「本物の魔女ーっ」
一人の女性がヒステリックに悲鳴を上げると、観客も慌てて騒ぎから退いた。
今村魔女が倒れた人垣はすぐに割れて、奴だけ取り残される。
「いやーっ、魔女。本当だわ。魔女」
「し、信者に、まっ、魔女が取り付いたのよ」
「希教道の魔女ーっ。教団の魔女ーっ!」
野次馬の若い女性たちからも、ヒステリックなまやかし発言が飛び出してきて俺は混乱する。
観客たちに意識が行っていると、陽上高校の学生が今村魔女に、触るのを避けて足蹴りだけの連打を食らわしだす。
「うっ、卑怯者」
向葵里魔女へも、陽上学生が持ち出したほうきで叩きだす。
「いっ、痛い、止めて」
ヤバイと思い、俺はモール街の住人に向けて数人の警官を現出させ、喧嘩に対応させるが対応が遅かった。
乱闘になりだした空中に、巨大な火の玉が発火していたからだ。
その場に居合わせた者が、次々に気づき指を差し騒ぎ出し、火の玉から避けて離れていく。
――あっ、これは。
「バーニング」
そんな単語が、ツインテール少女の声で聞こえてしまった。
空中の火の玉は、大きな音とともに破裂。
細かい炎が回りに散っていった。
俺はバーニングの消失を、今村、向葵里に送ったがこちらも間に合わない。
しかし、防弾盾が今村魔女の前面に現出して、向葵里魔女を取り込み、炎をやり過ごした。
だが、その周りの男数人に火の粉が着弾。
「わー」
「あちち」
「熱い、痛い」
陽上生徒の男数人が、体を地面に転がし火を消そうと必死になっている。
破裂した火の粉は、他の観客にも降り注いで、火の粉を浴びて走り回る人、倒れる人が続出。
背中についた炎を叩いて消火する者、地面に降りても燃えている炎を鞄や足先で消そうとしている者たちで狂乱状態。
路上のあちこちから悲鳴が起きて、モール街はパニックになってしまった。
俺は焦りながらも、警官を現出させたように、モール街の住人に火の粉消失のイメージを送ってみる。
それで、狂乱者たちは、火が消えて落ち着き静かになるが、幾人かのうめき声が残った。
火の粉から逃げた者たちは、周りを見渡しながら呆けている。
俺が現していた警官を先頭に、今村と連れ立つ向葵里を念話で誘導。
騒ぎになったモール街を、二人は警官と駆け出すと簡単に離脱できた。
その後、幻覚火の粉をかぶった住人の痛みは持続していて、救急車が来る騒ぎに発展してしまう。
「ごめん」
戻ってきた車椅子の栞と竹宮女医の前で、俺と彩水が頭を下げて謝る。
栞と一緒に戻って来たワン公が、彼女の足元に座ったままひと吠えした。
希教道の応接室であるが、TVモニターには、
『鬼畜! 希教道信者がモール街で集団幻覚。住人を火だるま』
とショッピングモールのパニック状態を夕方のニュースで放送していた。
「私の真似をしなくていいんですよ」
栞が困ったように言うが、女医は言葉に怒りが含んでいた。
「まったく、どんどん泥沼に入り込んでいくようね」
今回のモール街騒動は、各ニュース番組の最新で報道され、バーニングの火の粉を浴びた被害者のインタビューが流れていた。
『すぐ炎は消えたんだけど、ヒリヒリする痛みがしばらく続きました。まだ信じられません』
『救急隊の救命士さんは、火傷はないと言われたんですが……まだ痛い感じがするんです。何なんでしょう?』
今回は二十数名の被害者を生んだ、同時にモール街以外でも魔女を視た、変な生き物を視たとの地元の若い学生たちから報告もあると告げてから、モール街催眠術事件としてキャスターは閉めた。
***
翌日、報道のためか一昼夜に野次馬が倍増して、警備警察の取り締まりが強化されることになる。
道場入り口で俺と彩水、車椅子の栞で横並びになり、マスコミに向かい声明を発表した。
栞が一緒に出て謝るのは彼女の希望で、反対の高田さんを説得させて門の外へ出た。
その高田さんは護衛のため、カメラを持ちマスコミの先頭陣に紛れ込んで警備をしている。
俺たちは、モール街パニックや一連の騒動に、直接関わっていなかったことと、不幸な行き違いがあり最終的に迷惑をかけたことを三人が順を追って話して謝罪した。
学生ばかりの謝罪で取材陣も戸惑ったが、誰かがシャッター音を鳴らすと、一斉に写真撮影の音が鳴り響いた。
その後は質問が殺到したので、一人一問で答えるのみと決める。
彩水には、教祖として連鎖自殺についての質問で、はっきりとやっていないと言う。
ただ、マスコミの一部から、本当に教祖? ちっちぇー。小学生? と声が上がってたので、また彼女が怒りでバーニングを出すんじゃないかと冷や汗が出た。
栞には、モール街の魔女と催眠術についての質問。彼女は一言、第三者の存在が問題と答えるのみ。
俺には、美少女姉妹の麻衣との関係を質問され……えっ? どうしてそうなる。相手は雑誌『スーパー女性自身』の女性記者で納得。
ここは澄まして仲の良い同級生だと優等生発言をすると、隣の彩水が舌打ちした。
感じ悪いぞツインテール。
それぞれあたりさわりのない話のあと、要が逆にマスコミに質問した。
「我々を取材するのは、お門違いです。全ての発端は谷崎製薬のIIM2にあります。それを調べれば、能力者の関係が最短な記事で書けます」
ざわめくマスコミ取材陣。
「IIM2って頭の良くなるサプリメントの奴?」
「ネットで超能力になれるって都市伝説のように流れている話だよ」
「ふっ、ばかばかしい」
わっ、久々に聞いた『ふっ』の笑い。
この人たちには、俺たちのことは一生わからないだろう。……それどころか、気に入らないから追い詰めてきているんだよな。
「きゃー」
若い女性の叫びが、マスコミたちのうしろから立ち上がった。
その場の全てが、声の方向へ集中する。
「酷い。何あれ」
「気味が悪い」
喫茶店カフェショコラの入り口から、数人の女子学生が出てきて、口に手を開けてる者、うずくまっている者、壁の影に隠れようとする者、そしてメイド服を着た女性。
夢香さんが震える指をこちらに向けて叫んだ。
「魔女が三人いる」




