人生こんなところで終わらせてたまるか!第24話
あたし佐伯美保子は28歳、アラサーまっただ中。某都市銀行の地方支店で働くOLで、身長180センチ、元レスリング部、よく街で男の子に間違われる。
5年越しのお付き合いの末、婚約者の齋藤丈治に別れを告げ、婚活を始めたあたし。出会い系サイトで誤って出会ってしまったゲイのおっさん権藤さんからなんと偶然、あたしの初恋の人である星夜くんに再会し、相思相愛に!
と思ったら、銀行ではお局様が誘拐される事件発生! 事件は元刑事の探偵であるゲイのおっさん権藤さんや星夜くんも巻き込んで次第に深刻さを増していく! そこに宗教団体から追われて逃げてきた元フィアンセ丈治が加わり、なんていうか、修羅場!?
どうなるあたしの恋路!?
ドキドキ婚活ストーリー!
あたしは、星夜くんを追って、ドアを出たところで星夜くんに声をかけた。
「星夜くん、……なんていうか、ごめん。あたしが悪かったの……」
「美保子は悪くないよ。俺が……その……大人げなかった。あんな言い方するつもりじゃなかったんだ。でも、その……」
星夜くんは階段の途中で立ち止まってこちらを振り向いた。すでにその顔には怒りはなかった。けれど、彼の言いたいことは分かったつもり。
「彼のこと隠しててごめん」
あたしがそう言うと、星夜くんは途中まで上がった階段を下りてきて、あたしの両肩に手を置いた。
「あ、いや、美保子を責めるつもりはないんだ。それは仕方ないと思ってるし。こんなことあったら、そうそうは言えないしさ。でも、理性的には分かってても、なんていうか……」
星夜くんは口ごもった。いつも冷静に見えた星夜くんがあんなにも激情を見せるなんてあたしも思いもよらなかった。あたしは黙って彼が続きを話し始めるのを待った。両肩に置かれた手のぬくもりが温かかった。
「ただ、さっきの話はマジだからな。お前のためなら俺はいつでも受け入れる用意がある。いつでも俺のとこ来てくれていいんだぞ。もし、ちょっとでも危険を感じたら、すぐに連絡くれよ」
なんだか、小説にでも登場しそうな台詞だった。でも彼が言うとキザには聞こえない。何故だろう。なんだか、とても頼もしく思えた。星夜くんの両手に力が入るのが分かった。きっと、小説の中だったら、彼はあたしのピンチの時に現れて、スーパーマンのようにあたしを助けてくれるのだろう
「うん、ありがとう。そう言ってもらえると、嬉しい」
ドラマだったら、ここであたしが星夜くんにしなだれて抱きかかえられるシーンなんだろうか。とか思いつつも、あたしはそんなキャラじゃないし、まだ星夜くんともそんな関係じゃないし、とあたしの耳元で白い天使が囁いた。結局あたしは自制した。
「じゃあ、また明日」
ちょっと躊躇った様子を見せてから星夜くんは両手をあたしの肩から離して、右手を挙げた。あたしはそれに応えて同じく掌を振って、彼が階段を上がって行くのを目で追った。
ドアを開けると、権藤さんが扉の前であたしを待っていた。
「美保子ちゃん、ごめんねぇ。こんなことなら、星夜くんに声かけなかったのに。まさか、彼が例の婚約者だったとはね……」
「いえ、あたしが電話で先に言っておけばよかったんです。かえって、ご迷惑お掛けして、すみません」
「ううん。いいのよ。モテる女は辛いわよね」
と、権藤さんはからかい気味にそう言ってウインクした。
「もう、よしてください。そんなんじゃないんですから」
実際、モテた経験のないあたしには、もうなにがなにやらで。
「じゃあ、帰り送っていく? あたし飲んでないから、車で送れるわよ」
「あ、いえ、大丈夫です。あたしもちょっとしか飲んでないし。それに、わたしたち元レスリング選手ですからね」
「そうは言ってもね……」
権藤さんは心配そうに言ったが、あたしは大丈夫ですを連呼した。
「丈治帰るわよ」
あたしの声を合図に、丈治は黙ってさっきここに来た時に着けていたサングラスとスカーフを装着した。どうも機嫌は斜めの様子。さすがの丈治でもあれだけ言われるとキツイのか。温和な性格の丈治があれだけ怒りを露わにするのは、大学でレスリング試合に出ていた時くらいで、日常で見のは初めてだったかも知れない。よほど疳に障ったのだろうか。
「じゃあ、権藤さん、あとよろしくお願いします」
「ええ、任せて。あとは警察の仕事だけどね。二人とも、くれぐれも気をつけてね」
権藤さんはバーに残ってあたし達を見送った。バーの階段を上がりつつ、あたしは丈治の様子を伺う。
「怒ったの?」
「別に」
明らかに怒ったままの口調。
あたしは階段の登り切ったところで一旦止まって、辺りを見回した。誰もいないのを確認してから、手で丈治に合図する。二人揃ってビルを出て、表通りをひたすら黙って進む。ほんの20メーターくらいだが、どうしても表通りを通らないとならない。この間が緊張の瞬間だった。もうすでに閉まっている小さな商店の角を曲がると、小道に入る。とりあえず、あたしは一息ついた。
「美保子、ごめんな」
路地裏で立ち止まると、丈治はあたしに囁いた。
「ん? どうしたの」
急に殊勝になった丈治。
「結局、俺が悪いんだよな、全部。あいつの言う通りなんだ、よな」
さっきの勢いはどこへやら。すっかり引きこもり丈治に戻ってしまった。
「ま、まあ、そんなこと言っても始まらないしさ……」
とは言ってみたものの、何のフォローにもなっていないことに気がついた。
「美保子、あいつのこと好きなのか?」
「え」
あたしは呆気にとられる。まあ、考えてみれば、そう聞くのは当たり前なんだろうけど。さて、どう答えたら良いものかと数十秒。
「んん……まあ、その……初恋の人でもあるしね……」
曖昧な言い方をしたつもりだったのだけれど、後で考え直してみても、全くの肯定にしか聞こえない台詞だった。
「そっか……」
丈治は踵を返して、路地を進み始めた。
「ちょっと……」
あたしはその後を追う。あのね、そんなこと今聞かれても困る訳よ。だって、婚約破棄してきたのはあなたな訳だし、別れた後に星夜くんに再会した訳だし、向こうも好意を持ってくれてたんだって分かったのがつい最近な訳だし、とあたしの頭の中でグルグルと言い訳が渦巻く。ってか、なんであたしが言い訳しなきゃならないの!? もう、あたしだってどうしたらいいのか分からないんだから、そんな質問今しないでよね、っていうのが本音なわけで。
でも、そんなあたしの心の裡は丈治には伝わらない。
行きとは違って丈治が先導して進む。路地の切れるところで、毎回止まっては周りの様子を慎重に伺う。もうすでに深夜大きく過ぎているけれど、慎重に慎重を期すように何度も周りを伺う。時折、丈治の溜息が聞こえる。なんだかあたしも切なくなる。
そして、マンションが見えてきた時、あたしは背後に何かを感じた。




