人生こんなところで終わらせてたまるか!第25話
あたし佐伯美保子は28歳、アラサーまっただ中。某都市銀行の地方支店で働くOLで、身長180センチ、元レスリング部、よく街で男の子に間違われる残念系。
5年越しのお付き合いの末、婚約者の齋藤丈治に別れを告げ、婚活を始めたあたし。出会い系サイトで誤って出会ってしまったゲイのおっさん権藤さんからなんと偶然、あたしの初恋の人である星夜くんに再会し、相思相愛に!
と思ったら、銀行ではお局様が誘拐される事件発生! 事件は元刑事の探偵であるゲイのおっさん権藤さんや星夜くんも巻き込んで次第に深刻さを増していく! そこに宗教団体から追われて逃げてきた元フィアンセ丈治が加わり、なんていうか、修羅場!?
どうなるあたしの恋路!?
ドキドキ婚活ストーリー!
「丈治、後ろ!」
あたしが背後からの気配を感じて、振り向いた瞬間、丈治の後ろに人影が見えた。
「う……」
次の瞬間、丈治がうめき声を上げて、あたしの方に倒れ込んだ。あたしは必死になって、その巨体を抱きかかえた。後頭部を何かで殴られたようだ。何か冷たいものがあたしの顔に降りかかった。
(血?)
鉄臭い血のような臭いがした。
「丈治、大丈夫?」
その影が、次はあたしを狙っていた。丈治は背後からの不意打ちだったが、今度は向かい合わせ。あたしは最初の攻撃を躱して、丈治の体を路面に倒して置いた。あたしを狙った影は、空振りしてよろけた。その隙を逃さず、あたしは足下めがけてタックルした。あたしの得意技だった。
ドウッっと、その影は倒れ込んで、路端の茂みに突っ込んだ。
「この!」
それから、背後から腕をロックして、顎に腕を回して押さえ込んだ。
「このアマ!」
その男は、苦しそうにもがきながらも、悪態をついた。
「あんた、何者?」
と、あたしが正そうとした時、
「そこまでだ」
と、別の男の声がした。振り向くと、その男は額から血を流している丈治に刃物を向けていた。その背後にも何人かの男達が立っていた。
「この男がこれ以上痛い目にあってもいいのか?」
「……」
人質をとられては、どうしようもない。あたしは、仕方なく押さえ込んでいた男を離した。
「どうするつもり?」
あたしは、その男に聞いた。そうしながら、後ろ手に携帯を取り出して、十字キーと発信ボタンを素早く押した。
「用事があるのは、こっちの、齋藤さんなんですけどね。できれば、あなたにも同行してもらいたいんですけど。抵抗しなければ、手荒なマネはしませんけど」
「あんた達、教団の人?」
「ご存知ですか?じゃあ、やはりあなたにもご同行願わなければなりませんね」
夜の闇でよく顔は見えなかったが、その男がこの中ではリーダー格らしい。さっきあたしが吹っ飛ばした男が改めてあたしに近づいてきた。
「抵抗すんなよ。今度抵抗したら、あの男はタダじゃおかねぇからな」
そう言うと、あたしの頬を平手打ちした。力のこもったそれで、あたしは脳しんとうをおこしかけ、膝をついた。勢いで、携帯が路上に飛んだ。
「しかし、とんでもねぇ女だな、こいつ」
その男は何か紐のようなもので、あたしの腕を後ろで縛った。朦朧としていた意識が戻ると、あたしは丈治と共に、ワゴン車に乗せられていた。
「しかし、重い女だぜ!」
体重のことは触れないで! 余計なお世話よ!
「ちょっと、どこに連れて行くつもり?」
あたしが叫ぶと、さっきの男があたしの顔を足蹴にした。
「黙ってろ」
さっきの平手打ちのせいか、今度の足蹴のせいか分からないけれど、口の中を切ったらしい。血の味がした。今更だけど、女の顔殴る蹴るって酷くない? あたしは、仕方ないので黙った。横では、丈治が気を失ったまま、額から血を流している。息は普通にしているようなので、重傷ではなさそうだけれど、とても心配だった。
さっきの男を含め、ワゴン車に乗り込んだ男達は、どう見てもカタギには見えない。教団というから、普通の人達を想像していたけれど、これは普通の宗教関係の人間とは思えない。それとも、ただの雇われなのか。そう言えば、清井さんの誘拐事件の実行犯はプロの仕事のようだと、誰かが言っていたような気がした。
それから、車で20分くらいは移動しただろうか。途中で、丈治の意識が戻ったようだ。まだ目を回しているようで、視線が定まらなかったが、目の前にあたしが倒れているのを認識して、口を開きかけたが、あたしが目で制止すると、黙ってあたしの方を見ていた。
やがて車は地下駐車場らしき所に入り、そこで止まった。
「降りろ」
リーダー格らしい男がドアを開き、あたし達に車から降りるように言った。
「ここは……?」
降りてから、あたしは丈治に囁き聞いた。
「教団の施設だ」
やっぱり。ということは、丈治を連れ戻しに来たということか。ああ、やっぱり、権藤さんに送ってもらえば良かったと、後悔したが今更どうにもならなかった。ただ、さっき掛けた携帯が権藤さんに繋がっていれば…………と、祈った。
教団の施設と言われたが、中はごく普通の古いオフィスビルのようだった。ただ、違うのはいたる所に柵のような格子が設置されていたところ。どう見ても後で改築された部分のようだ。
「丈治!」
車から降りると、あたしたちは別々の場所に連れられた。丈治を呼ぶ声は廊下にむなしく響いた。
「こっち、来い!」
男達が乱暴にあたしの腕を取り、引っ張った。
「分かったわよ、乱暴にしないで!」
仕方ないので、言われる通りに進むことにする。エレベーターに乗り込んだ。業務用のエレベーターなのか、古いせいなのか、階数の表示がない。ただ、振動から上の階に向かっているのだけは分かった。やがて、エレベーターが止まると、また先に進むように指示される。言われた通りに進んでいくと、ある部屋の前で止まる。当たり前だが、窓の外は真っ暗だった。ここはどの辺りなのだろうか。それも分からない。
男達は部屋のドアを開けると、後ろでに縛っていた紐を解いて、そのままあたしを部屋に押し込んだ。あたしが入った部屋には、久しぶりに会う顔があった。
「清井さん!?」
清井さんは、寂しげな顔であたしを見て、目を見開いた。




