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13.これから

 風呂から上がり、部屋へ戻ると雀は清秋が部屋を出る前と同じ用に座布団に正座し、お茶をすすっており

「おう、キヨやん。遅かったやん」

 当然のように大介がいた。

 寝そべって肩肘をたてながらテレビを見ており、テーブルの上には一つ増えた湯呑みと煎餅が追加されていた。

 というかテレビなんてこの部屋になかった。どこから持ち込んだのだこの男は。

「あんまり暇やからテレビ見てたけど、やっぱ最近のお笑いはあかんわ。どれ見ても同じように見えるし。やっぱ大阪やな。花月が一番や」

 ばりばりと煎餅をかじる大介は「よっこらせ」と身体をおこし、あぐらをかいて座り直す。

「キヨやんも座りや。そろそろ話始めよかと思っててん」

「話って何を?」

「決まってるやろ」

 言葉とは裏腹に「待ってました」とばかりにニヤニヤ笑いを始める大介は予想通りの言葉を続ける。

「ずばり。お笑いを見るならどっぐふぅ!?」

 あらかじめ予想していたかのように雀が拳を大介の腹にクリティカルヒットさせる。

「つ、強くなったな佐々木妹……。もはや……、おまえに教えることは……何も、ない」

 痛みに耐えながらも一人で寸劇を繰り広げる大介に対して

「あなたに教わるものなどなにもありません。さて清秋さん、話というのはもちろんあなたもわかっていると思いますが、これからの動きについてです」

 床で崩れ落ちている金髪男を放置して話し始める。

「……」

「まずは現状の把握から必要でしょうか」

「…………」

「私たちを襲撃した犯人は、実を言うと目星はついています」

「………………」

「というよりもすでに誰かもわかっている状況なんですが、これがちょっとややこしい話でして」

「……………………」

「犯人は二人。名前は、……そろそろ鬱陶しいんで起きてください」

 床に倒れ伏したままの大介に鋭い視線を向けながら言う。その言葉に大介は

「フッ、オレの勝ちやな」

 無駄に勝ち誇った顔で起き上がり座り直す。

「真面目にして下さい。遊びじゃないんですから」

 メガネに手を当てて仕切りなおした後、大介に先を促す。

「二人の名前は的場小蛇と砂駒冬樹っていう奴らや。単純に金で雇われたスナイパーやな」

「ありきたりだな」

「ありきたりというかそれ以外の理由でスナイパーなんて動かんで。大体金。スナイパーのいるところに金あり、金のあるところにスナイパー有りや」

「まあ、一部の例外を除いてですが」

 視線はまっすぐ大介に向けられる。その嫌悪を示す視線に対して不快感を示すこともなく、むしろ心地よいようにニヤニヤと笑みを浮かべながら。

「ん? 例外がどうしたって」

「いえ、お金と『気分』で殺人をする人もいますねという話です」

「お金で買えない価値ってのもあるんやで佐々木妹」

 親指を立てながら「プライスレス!」とポーズを決める大介を見て諦めたようにため息をつく。

「この男の言動はほとんどがふざけてるだけですから」

「それは重々理解してるよ」

「よっし! じゃあ本気で喋るで! 覚悟しぃや」

 持っていた湯呑を勢いよく机に叩きつける。

「湯呑は丁寧に扱って下さい」

 それを冷静に対応する雀。

 というかこれ以上本気で喋ってどうするんだ。そう思った二人だが、恐らく真面目に話すという意味なのだろう。

「えーと二人の名前言ったとこやっけか。あーそうそう雇われやってとこやな。ちなみに雇い主はわかってない」

「百舌鳥に調べてもらったらいいじゃないか」

「それも言ってみたんやけど。わからんみたいや」

 あの情報収集力でもわからない。といっても確かに犯人の名前がわかったところで現在行われている取引など調べられるわけでもない。情報が名前だけなら偽名を使われていれば手がかりがゼロなのと同じだ。流石になんの情報もなしに調べることもできないだろう。

「今わかってる確かな情報はそれだけや。後はオレの予想でしかないんやけど、この二人は標的である清水出魅についてはほとんど知らされてない」

「なんでそんな事がわかるんですか」

「じゃあ佐々木妹。吸血鬼とか狼男殺すのに普通の銃使うと思うか。しかも破壊力もなし、弾に毒を塗っているわけでもないオレからしたら護身用程度の銃や」

 言うと懐から一丁の銃を取り出す。それは警察が持つようなふつうのピストルだ。

「たぶん清水出魅を撃ったのはこれぐらいのやつや。これで吸血鬼を殺そうなんてどんなアホなやつでもせんやろな。少なくとも弾は特殊なヤツを使う」

 そして銃倉を取り外して弾をテーブルの上に転がした。

「怪物にはどんな弾が効くか。はい! キヨやん!」

「えっと……、銀の銃弾?」

 銀の成分が怪物の体液によって妖怪し、一種の中毒症状を起こす。

 銀の銃弾が人ならざる者に対して毒性を示すのは前回の事件で清秋は学んでいる。

「せや。この弾も表面にシルバーコーティングをして、更に着弾後に標的の体内に滞留する仕様になってる。再生力のあるヤツでも大分鈍らせる事ができるな」

「それで、わざわざそんな事を説明するんですか」

「おっとすまんな。今回清水出魅が撃たれた弾は普通の銃弾や。だから撃たれても夜になったら完全回復してたやろ」

 清秋に対して言う。どうやらお見舞いに行ったのは彼も知っているようだ。

「標的が吸血鬼、しかも出魅ほどの回復力を持ったヤツやってわかってたら普通の弾丸なんか威嚇にもならん事は誰でもわかるからな。やからスナイパーはほとんど標的の情報を知らされんままに仕事した言うことや」

「言いたいことはわかったけど、標的の情報って普通は教えとくもんじゃないのか?」

「せやねんなー。本気で仕留める気で雇ったんやったらできる限り情報は教えとくもんなんやけど……。もともと雇い主が情報を持ってなかったって事も考えられるわな」

「しかし、それだと出魅部長を狙う動機が見つかりませんね。部長一個人を狙っているにせよ、清水家全体を狙っているにせよ何らかの情報は得ているはずですから」

 あっちをたてればこっちが立たない。スナイパーについての人物像さえわからない。それならどう話をすすめればいいのか。

「じゃあとりあえずスナイパーについてはええやん」

 と言って雇い主の正体と狙う理由についての考えは完全に放棄した。

「んでこれからの予定やけど」

 ごそごそと懐を探る大介。

 あれでもないこれでもないとどこかの青い動物型ロボットのような動作をしたあと、ようやく見つけたのか一つのものを取り出してテーブルに置く。

「銃?」

 清秋が目の前に置かれたものの名詞を言う。

「そうや。ご存じの通り魔力を推進力に変える銃。えーっと、魔銃とでも言っとこうかな。キヨやんにはこれの使い方になれて貰う」

「わかった、……ってなんで!?」

「なんでって、……使いたかったやろ?」

 唐突な事に自分でも意味不明な返答をしてしまう。

 確かにできるだけ早く武器を使ってみたいとは思っていたが、一日二日特訓をしただけで渡されるとは思ってもみなかった。

 普通、修行パートといえばカットされるにしろ最低でも一週間は必要とするものではないのだろうか。

「うーん、まあもともともうちょい練習したかったんやけどあんまりにも周りが動くの早かったからなー。かなりの巻き込まれ体質やなキヨやん」

 銃を清秋の胸に押し当てるようにして渡しながら言う。

「そんなわけやからこの銃を使えるようになってもらう。って言ってもそんな難しい事ちゃうけどな」

「引き金引いたらいいだけだろ。後は普通に銃が魔力を吸い取って撃ってくれるって」

「ああ、そりゃあ撃つだけならできる。でもそれは一定の力しか出せんやろ。その銃は結構汎用性あるんやで。威力で言ったらエアガンぐらいから大砲レベルまで、前回はほとんどその力使う前に壊したらしいけど。でも今回はそれぐらいできな死ぬで」

 軽い調子で言うがその言葉は本気だ。

 確かに前回は幸か不幸か身体が吸血鬼の血に犯されていたため運動能力も飛躍的に高くなっていた。しかし今回は自らの身体能力とほとんど使えない魔力とこの銃しか武器はない。

 自分が運動神経皆無なのは理解しているし、一日銃弾をよける練習をしたからといって動体視力が良くなったわけでもない。

 となると一番手っとり早く、武器の性能出補うしかないのだ。

「とりあえずこれは渡しとくわ。おっと、ここで引き金引かんとってな、その横の安全装置はかけたままやで。万が一キヨやんの魔力が暴発したらこの家ごとふっとびかねんからな。ちゃんと鞄になおしといて」

「直す?」

「仕舞っとけゆうことや」

「それで、清秋さんに武器を渡したということは彼にも戦わせるということですか」

 今まで落ち着いてお茶を啜っていた雀は全員の湯呑みに急須でお茶を継ぎ足していく。

「そうやで、なんや反対したそうな顔やな」

「当たり前でしょう。ほとんど戦闘をしたことがない清秋さんに突然実践なんて、しかもスナイパー相手なんて無謀としかいえません」

 前回は操られているだけの、しかもほとんど知能を持たない相手で直線的に向かってくるだけだったので、戦うにしても動きを読み易かった。だが、相手がスナイパーとなると必然的に遠距離戦になる。ほぼ初心者の清秋に戦えというのは、ルールも知らないのにキャッチボールだけして野球のスタメンに入れるようなものだ。

「大丈夫やて。オレがフォローするし、大した相手ちゃうし」

「どうして断言できるんですか」

「そ、それはまあオレからしたらどんな相手やろうと大した敵ちゃうってことや」

 すこし歯切れが悪くなった大介を半眼でにらみながら雀は言う。

「で、清秋さんはそれでいいんですか」

「うーん、というかそれ以外に方法ってあるのか」

 その言葉に唖然としたような表情を見せる。

「それ以外って、いくらでもあるでしょう。例えばわざわざ危険に身を晒さなくても事件が終わるまでこの家にいればいいだけです」

 清秋は少し考えてから。

「うん、確かにそれは解決策のひとつかもしれないけど、あくまで一時的なものだろ」

 つまり今回は安全だが次回からも事件が起きるたびにこの家かくまってもらわなければいけないということだ。

「キヨやんようわかってるやん。一旦こっちに足を踏み入れたんやから次も、そのまた次もあるのは当たり前や。それに対処する術ぐらい身に付けとかなずっと保護されっぱなしの力だけ持った役立たずになってまうで。キヨやんの考えは前向きでいいと思う」

「でも今ならまだ引き返せるのでは」

「残念やけど前の事件に巻き込んだ時点で引き返すことなんかできへんで。キヨやんを一般人として保護したかったんやったら前回からこっちの世界を気づかれないように保護するんやったな」

「……」

 雀は何も反論できない。前回の事件に巻き込んだ責任の半分は雀にもあるのだ。

「ってことでキヨやんには今回の件にも参加してもらうから」

 口を開かなくなった雀を見て話をもとに戻す。

「せやなー、とりあえず明日……、はちょっと用があるから明後日の部活でキヨやんがどれくらいその銃を使えるか見てから作戦会議でもしよか」

「結構のんびりしてるんだな。それまでに相手が襲ってきたらどうするんだよ」

「多分大丈夫やって。スナイパーとしてのカンがそう言ってる」

「適当な事を言わないで下さい」

 大介の言う事だから恐らく勘以外にも理由があるのだろう。しかしそれについて追求しないのは雀が彼を信用しているのかできる限り立ち入りたくないのかはわからない。

 最後までニヤニヤと笑いを消さないまま彼はゆっくりと立ち上がる。

「んじゃ、そろそろ帰るわ。そういうことで明日は休みやから一日ゆっくりしぃや」

 言って彼は部屋から出て行った。


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