閑話
閑話 1
俺が「厨房」から拝借した材料で、クリスは自分が食べる分の「料理」を行なっていた。
秘密基地のすぐ外、自然洞窟の最奥には壁から水が出ている場所がある。
最下部に複数の小さな穴があり、そこから水が外部に流れ出ているので、洞窟内に水が溜まるといった事は起きない。
その傍に小さな机を水平になるよう設置し、個人携帯用のコンロを使って簡単な「料理」を行なっているという訳だ。
俺自身は「ゴブリン謹製定食」が食事、というかENG回復手段として使えるが、
人間のクリスにはくそ不味い上に毒という、荒行でもやっているかの如き鬼仕様なので自分で用意している。
彼女が使用しているコンロ、便利なもので火を使わない電熱器のように作動し、空気を汚さない。
壁の水もそのまま使うのではなく、水筒についてるフィルターで飲料水として利用できるようにしている。
フィルターと聞いて俺の対抗心が刺激され、壁の水に「フィルター」を掛けてみたら、「飲料水」が取れた。
ええええ!?
何でこんなの取れるの?
理屈は分かるけど、これって「他者に飲ませる」前提のアイテムでは?
「吸収」してみる。
ENG +1
1……。
「ストック」と違い「フィルター」はENGを消費しないので、水だけで生きてはいけるのか。
自身の役にも、立つ、のか?
「ストック」を使って「出して」みたらどうなるんだ?
「ストック」
…………。
周りがびしゃびしゃになった。
(!? ちょっとイチロウ! 何してるの!?)
クリスに怒られた。
てへ。
(そう言えばイチロウ。)
(うん?)
床の水を体の表面で「吸収」しながら俺は答えた。
(貴方「料理」でええっとENG?、が回復するのよね?)
(ああ。)
(あのゴブリン毒、じゃなかった料理でも。)
(ああ。)
(ゴブリン料理で、どれ位回復するの?)
(えーと、一番良かったので400位だな。 料理長謹製のやつ。)
(そう……。)
(?)
(じゃあさ、)
(ん?)
クリスは今自分が作った「料理」を俺の前に差し出した。
(これ、どう?)
俺は固まった。
彼女の手製の料理を食べられる。
その喜びは、確かにある。
だが「お約束」という物が、ある。
「美しい彼女が作った料理が、この世の物では無かった。」
何処で見たかも思い出せない、そんなエピソードが頭を過る。
だが俺ははっと思い出した。
このスライムの体に、味覚は、無い。
無いのだ!
ふはは! ばかめ!
俺にそんな罠は通用しない!
とんでもなくクリスに失礼な思考を頭の中で巡らせながら、差し出された料理を「ストック」する。
インベントリには「クリステリア謹製 ジャガイモと人参のポトフ」との記載。
問題ない。
どんな障害も俺は乗り越えて見せる。
緊張した面持ちのクリスを見ながら、
「吸収」
その途端、今まで味わった事のない「満足感」が俺の中を駆け巡った。
おおおお!
流石クリスさん!
俺の勘違いかも知れないが、「満足感」の中に「愛情」を感じた気がした。
勘違いであって欲しくない。
さぞかしENG回復量も……。
ENG +210
…………。
えっ!?
…………。
ええっ!?
2度見しても結果は変わらなかった。
ゴブリンの料理より回復量が少ない!
ちょっと待ってくれ。
どういうことだ。
いや、どうクリスに説明すればよい!?
(どう?)
(……クリス。)
(うん。)
俺は空になったクリスの食器を、横に出しながら言った。
(料理を吸収すると俺は「満足度」という物を感じることができる。)
(うん。)
(素晴らしい満足度だった。有難う。)
(……そっか、へへへ。)
クリスは満更でもない態度で、食器を取った。
ふー!
状況終了!
回避した!
と、クリスは俺を両手で掴み、秘密基地の椅子の上に座った。
俺を机の上に置いて、女神の様な笑顔で俺に問いかけた。
(それで? ENGの回復量は?)
俺は恐怖に打ち震えるしか、無かった。
閑話 1 完




