34,ノックス城を落とせ!
ファビア君が記事を書き上げた。
適度に脚色が効いていてドワーフたちの心を鼓舞するように書かれている。
記事のタイトルはこうだ。
「ノックス城を落とせ!」
記事はドワーフたちの戦士の血をたぎらせた。
ゴーレアの街には続々とドワーフの兵たちが集結しつつあった。
大族長の長老格グルジ殿は総司令官となり、神殿は作戦本部となったのである。
当然、私たちも作戦本部に出仕することとなった。
作戦本部ではノックス城攻略の軍議が始まったのだ。
軍議に顔をそろえたのはドワーフ12支族の族長たちだった。
ノックス城攻略の募兵に応じたのはドワーフだけではない。獣人たちも協力を申し出ていた。
しかし、軍議に獣人たちの姿はない。
「グルジ殿、これはどうしたわけかね?」
私の問いに、グルジ殿は恐縮した。
グルジ殿は、獣人もノースタリアの政治に参加させる私の提案の意味が分かっているはずだ。
だが、他の支族長の手前がある。
「これはドワーフの神殿で行われる神聖な軍議だ! 獣人さ来るどごろでねぇ!」
パウル族の族長アイレル・バスコ殿は公然と獣人を差別した。
彼は先日の大族長会議の経緯を知らないようだ。
グルジ殿は私の提案を他の支族長に説明していない。
他の支族長たちの顔色を見て、日和見をしたのだ。
この総司令官はダメだな。
マリータ殿が目線を送ってきた。
目線は言っていた。
グルジ大支族長には任せておけないと。
予想通り、軍議はノックス城攻略を巡って堂々めぐりとなり、結論は次回の軍議に持ち越された。
「小田原評定なりね。」
幸村君もげんなりしている。
小田原評定。
豊臣秀吉が大軍で小田原城を包囲した際、城内に立てこもった北条氏は会議ばかりして何も決定できなかった。
「関東の覇者といわれた戦国大名・北条氏は五代で滅びたなり。」
「私たちは簡単に滅びるわけにはいかない。」
***
私たちは神殿を後にして、宿への道を歩いた。
「無能な司令官は、有能な敵より恐ろしいなり!」
「まったくそのとおりだ、幸村君。」
「ドワーフも地に落ちたもんでさぁ。」
「ヴァン殿、そうでもない。グルジ殿は軟弱だが、ドワーフの兵は強い。」
そんな私たちをマリータ殿が追いかけてきた。
「先生、我は先生さ付ぐごどにいだした。先生には腹案があるど推察したがんな。」
「マリータ殿、鋭いな。宿に帰って軍議でもするか。」
「宿で軍議だべか?」
「そうだ。獣人たちも交えてな…」
宿に帰ると、獣人たちが情報を持ち寄っていた。
ウォルフ族のタリス殿とユリス君。早駆けに駆けて、ノーザン・テリトリーとイースタリアの州境まで出かけた。
ユリス君はノックス城の精密な画を描いた。
バド族のホーク殿は空からノックス城を偵察し、城には何の動きもないことを報告した。
フォクス族のファビア君は、フォクス族が秘蔵する国境線周辺の地図を提供してくれた。
ノックス城攻略のための材料が集まっているのだ。
「族長どもの軍議とは天と地だべ…」
マリータ殿はドワーフの不甲斐なさを嘆きながらも、楽観的な口調である。
その目はノックス城の精密画にくぎ付けとなる。
「これがノックス城が…」
マリータ殿はユリス君が描いたノックス城の精密さに驚嘆している。
かつて猫人族のサスケ君がマドンナの肖像を写真のような精密さで描いたことを思いだした。
獣人にはこうした才能を持つものがいるらしい。
「マリータ殿、フォクス族の地図も見てくれ。」
私はマリータ殿の前に地図を広げた。
「我は一度だけ州境に行っだことがあるべ。」
マリス殿は、地図を指さしながら州境の地形について説明してくれた。
「州境線はモーガル川で区切られでるべ。北側はノーザン・テリトリー、山ど森さ覆われでる。南がイースタリア、こぢらは広大な平野になっでる。平野は背の低い草木が生い茂っでる。そして、平野のながにポツンど立ってる岩山さノックス山だ、その頂上にあんのがノックス城だべ。」
「川の北と南で全く地形も植生も違っている。これは川の南北が別の地質で成り立っているいる証拠だ。」
「地形を利用して攻めるべか。」
「マリータ殿、どう攻めるね?」
「我らはノーザン・テリトリーの森林に兵を置ぐべ。そして速やかに渡河してノックス城を攻めるべ。」
「だが、川を渡った瞬間、我らは敵に発見される。ノックス城からは平野が丸見えだ。国境からノックス城までの距離は5キロはある。奇襲は無理だ、マリータ殿。」
「奇襲は無理が?」
「そうだ、ノックス城はイースタリアがノーザン・テリトリーを監視するために築城した最前線の城だ。幸いにもイースタリアとドワーフの間に争いは起こらなかったため、ほとんど使用されなかった。前大公ドメルグ・トクーガは暗黒魔術に魅入られた長男アーレスをこの城に幽閉した。」
「幽閉の地どなるづーごどは、孤立した状態で鉄壁の防御力持づ城だづーごどが?」
「マリータ殿、実はそうでもないんだ。」
「幸村君、ノックス城の精密画を見て、何か思い出すものはないか? 歴女の君なら分かるはずだ。」
「分かるなりよ。山頂には物見の塔といくつかの建物があるのだ。あたしはよく似たお城を知っているなり。」
「そうだ、私はロープウェイで登ったことがある。」
「岐阜城なりね。あたしは徒歩で登ったのだ。」
「峻険な山の頂にあり、難攻不落のように見える岐阜城は、実は何回も落城している。」
「竹中半兵衛殿が16名で岐阜城を乗っ取ったのが有名なりね。」
「そうだ、どうしてそんなことが可能だったかだ。」
「岐阜城は岩山の上の城で、人が住める平地が狭かったのだよ。だから少数の兵しか常駐できなかったなり。」
「城に常駐している兵が少ないのを知っていた竹中半兵衛は、病気見舞いと称して16名で城に潜入し、長持ちに隠した武器で一挙に城を制圧した。」
「さすが竹中半兵衛殿、みごとな奇襲なりね。」
マリータ殿が私と幸村君の会話に口をはさんできた。
「までまで、ノックス城さ奇襲は無理だで言ったはずだべ。」
「大兵力なら無理なだけだ。今回は竹中半兵衛の戦略どおり少数で行く。」
「16名だべか?」
「いや、二人だ。私と幸村君でやる。」
「たった二人だべか?」
マリータ殿は目を丸くしている。
「考えてもみたまえ。マドンナはたった一人でノックス城に潜入しアーレスを解放した。氷の魔法で見張りの兵を皆殺しにしてな。ノックス攻略は召喚者一名で十分足りえる証拠だ。」
「おそらくアーレスを幽閉していた頃よりノックスの守備兵の数は増えているなり。けど、ノックス城に常駐できる兵の数は100が限界なのだ。あたしと先生、二人の召喚者をもってすれば、十分可能なり!」
「たった二人なら、敵も警戒はしない。」
「ひょうひょうと乗り込むなりよ。」
マリータ殿は目を見開いて私と幸村君のやりとりを聴いている。
「マリータ殿、ドワーフの精鋭を集めてくれ。」
「ドワーフの精鋭をか。我に指揮とれで言うのが?」
「そうだ。50の兵で十分だ。」
「50の兵だら、我らヤーマン族の女兵士の精鋭がちょうど50人だべ。」
「私と幸村君がノックス城を制圧する。マリータ殿率いる精兵が速やかに渡河しノックスに入城する。これで城の乗っ取り完了だ。」
「簡単に言ってくれるべな。」
「竹中半兵衛は実に簡単にやってのけた。」
マリータ殿の胸中には疑問が残る。
「そのタケナカとは如何なる人物だべか?」
幸村君が嬉々として答えた。
「戦国最強の軍師なりよ!」




