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異世界★戦国武闘伝~歴女と歴史学者の異世界戦記  作者: 近森 元
Ⅲ、復活編

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22/72

21,卑怯者のエルキス、そして織田信長

  私たちはガストンを見送ったあと、グランローゼ城へ引き返していた。 


  「幸村君、ギヨーム殿の言っていたデレス山というのはこの近くではなかったかね?」


 「卑怯者のエルキスのいる山なりね。地図を見てみるのだ。」


 「どうだ?」


 「ここから東の方角なりね。馬車で一日くらいの距離なのだ。イースタリアに入ることになるなりよ。」


 「私たちだけなら問題なかろう。イースタリアの視察もかねて行ってみよう。」


 「賛成なり。これが歴史研究の第一歩なり。」


 馬車は王都防衛軍の列をを離れ、イースタリアへと方向を定めた。



 途中、宿屋に一泊した。

 宿場町では、エルキス殿への手土産を買った。

 酒である。二十年物の赤ワインだ。



 翌日、デレス山のふもとに至ると、村人Aを発見。

 エルキス殿の庵《いおり》の場所を訪ねた。


 「あちらの森の中でございます。気味の悪い男が住んでおりますゆえ、お気を付けなされ。」


 森の中のポツンと一軒家がエルキス殿の庵《いおり》である。

 

 

 私たちは古ぼけた庵の前に立った。


 「たのもう! エルキス殿はご在宅か?」


 「ご在宅じゃよ。」


 庵《いおり》の中からしわがれた声が聞こえた。


 「我らはこの国の歴史を研究する者でにて、エルキス殿にお話をうかがいたい!」


 扉が開いて、はげ頭の老人が顔を出した。

 ギョーム殿と同じ碧い瞳だ。


 「客人とは珍しい。入りなされ。」



 ***   


 私たちは老エルキスに土産の赤ワインを差し出した。

 老人はさっそく栓を抜いて一口飲んだ。


 「これはうまいのぅ。舌が滑らかになるようじゃ。何でも聞いてくれてよいぞ。」


 「ご老人、私たちは初代王アマテラスのことを調べているのです。」


 「アマテラスか、どこから話そうかのぅ。」


 老エルキスは、かく語りき。


 400年の昔、この国の人々は魔族の奴隷にされていた。

 いく人もの冒険者が魔王に挑んだが、一度として勝つことはできなかった。

 冒険者たちは談合し、魔術師たちが異世界召喚を行った。


 「我らエルフ族の魔導士でさえ寿命を削る異世界召喚じゃ。それを魔術師程度がやったんじゃ。魔術師たちは全員死んだ。異世界召喚の魔術に耐えられなかったのじゃ。」


 「そしてひとりの男が召喚されたのですね。」


 「男はアマテラスと名のった。神の名じゃと言うておった。」


 「神の名を名のるか、尊大な男だな。」

 

 まぁ、私も召喚されたときは第六天魔王を名のったのだからエラソーなことを言えないが…


 「そうじゃ。アマテラスは強力な魔法で魔物たちを退治していった。最強の魔獣といわれたグリフォンでさえアマテラスの敵では無かった。」


 グリフォン退治の噂は国中に広まり、冒険者たちはアマテラスのもとに集った。

 全国から武芸や魔術に優れた者たちが集結し、エルフ族もまたアマテラスの軍に加わった。

 ひとえに、魔王軍と戦うためである。

 

 「アマテラスの軍は、魔族どもの城を焼き討ちにしていった。わしの魔法は木の属性じゃ。いわゆるヒーラーじゃ。けが人を癒すのが仕事じゃ。だがのう、ガダス城攻めの時、アマテラスはわしらに槍を持たせた。」


 エルキスたちヒーラーは逃げまどう女・子どもを、その槍で突けと命じられたのだ。

 炎の中を逃げまどう子どもを、エルキス殿は殺した。


 「わしは泣いた。我が所業が恐ろしかったのじゃ。魔族とはいえ幼い子どもを手にかけてしもうた。」


 それでもエルキス殿はアマテラスに従った。

 魔王を倒すことこそが、平和への道だと信じていたからだ。


 一進一退を繰り返す魔王軍との戦いの中、アマテラスは500人にも及ぶ大規模な異世界召喚を行う。

 異世界召喚で命を削るエルフ族に、アマテラスは領地の安堵と永劫の繁栄を約束した。


 「これがその時の書状じゃ。異世界の文字でわしらには読めんが、そういうことが書いてあるらしい。」


 そう言って、老エルキスは私たちの前に古びた書状を差し出した。



 その書状を手に取った私は驚愕した。

 これは、私たちの世界の中世の古文書だ。

 しかも日本の文字なのだ。

 流れるような筆さばきの最後にある署名に私は言葉を失った。


 『織田上総介』


 「アマテラスは織田信長公だったなりか!」


 さすがの幸村君も仰天している。


 本能寺の変のおり、燃え盛る炎のなかから信長は異世界に召喚されていたのだ。



 「信長様の遺骸も見つからなかったのは、異世界に召喚されらからなりね。」


 「なるほど、織田信長か、魔王と戦うにはこれほどの人材はいない。」



 喜色満面の私たちに、老エルキスは問いかけた。


 「そなたら、アマテラスを知っておるのか?」


 「織田信長、私たちの世界の英雄です。」


 「英雄か…、英雄とは恐ろしいものじゃ。」


 そうかもしれない。私たちも織田信長と同じ時代に生まれていれば、老エルキスと同じ思いを抱いたかもしれない。


 老エルキスはつづけた。


 「大規模な異世界召喚によって、恐ろしい荒武者どもが呼び寄せられたのじゃ。異世界で大きな戦争があってのう、セキガーラじゃ。その戦場から一気に召喚されたようじゃ。」


 「それは関(・)が(・)原(・)の(・)戦(・)い(・)ではないなりか?」


 「間違いない。セキガーラ、関ヶ原としか思えん!」


 関が原から召喚された500の武将たちを率いて、信長は魔王軍を打倒した。


 「魔王も最後は憐れじゃった。アマテラスの副将シーマが魔王城に殴り込んで、魔王を一刀のもとに切り伏せたと聞いておる。」


 関が原の戦いから召喚されたシーマとは誰だ?


 「島津豊久公なりよ!」


 なるほど、島津の退き口(のきぐち)か!


 関が原の戦いの折、敗軍となった島津義弘は敵中を正面突破して退路を切り開いた。この時、義弘の甥・豊久は味方を犠牲にして追撃を食い止める壮絶な戦いをして討ち死にした。これが世にいう「島津の退き口(のきぐち)」である。


 死の直前、島津豊久は異世界へ召喚されシーマとなった。


 幸村君は、「島津の退き口」に思いをはせて目を閉じている。

 「島津の退き口」は歴女さんの大好物なのだ。



 「悲劇はそれからじゃ。魔王城に立てこもっておった魔族たちが引きずり出されてのう。女も子どもも首をはねられた。地獄のような光景じゃった。」


 屠《とじょう》城である。

 城を屠《ほふ》るのである。

 チンギス・ハーン率いるモンゴルの軍団も屠城を戦略としていた。

 残酷なようにも見えるが、屠城は敵の戦意をくじく効果がある。

 戦意を無くした敵は降伏する。

 戦争の犠牲者を最小限にとどめることができる。

 合理的と言えなくもない。 



 「それで、エルキス殿は逃げ出したのか?」


 「もう耐えられんかった。」


 魔王城が屠《ほふ》られたことで、魔族たちは散り散りなって逃げ出した。

 この土地は人族の支配する国となった。

 


 「そして、アマテラスは王位に就いたわけですね。」


 「就くには就いた。しかしじゃ、グランローゼの築城が終わると、息子に王位を継がせて、この国を去った。」


 「どこに行ったんですか?」


 「知らん! 一説では山脈を越え砂漠の向こうに行ったらしい。荒武者どもを引き連れてな。」


 なんと信長らしいことだ。

 信長は世界を征服するつもりだったのかもしれない。


 「話はこれで終いじゃ! 酒を飲もう!」


 老エルキスは立ち上がり、グラスを運んできた。

 

 「お前たちも飲め!」


 と言って、ワインを注いでくれた。

 


 「あなたは立派な人だ」


 と私は言った。


 「この卑怯者のエルキスが立派じゃと? たわけたことを…」


 「あなたは弱い者のために泣くことができる立派な人だ。」


 「そうかいそうかい、そう言ってくれる者に昔話ができてよかった。」


 老エルキスは嬉しそうにグラスを傾け、私たちはこの国の歴史に思いをはせた。



 「もう遅い時間じゃ。今夜は泊まっていかれよ。」


 老エルキスの厚意に甘えて、私たちは庵の片隅で一夜を明かすことにした。



 ***  


 明朝、眠りこけていた私はエルキス殿にたたき起こされた。


 「客人、何かが起こっておる。遠くで魔法戦があったようじゃ。魔力の反応を感じた。それから、微弱な魔法反応がこの屋敷に近づいておる。」


 「何がおこっているのだ?」


 「わからん、だが警戒せねばならん!」


 隣の部屋で寝ていた幸村君が眠そうに目をこすりながら現れた。


 「何かあったなりか?」


 「魔法戦があったそうだ。何かが近づいてくる。」


 「見てくるなり!」


 幸村君は庵《いおり》を飛び出していった。


 「おいおい、危ないぞ、私も行く!」


 朝日に光る森の中を私たちは走った。

 そして、森の中に倒れている男を見つけた。

 男は黒い魔道服を着ている。


 オルス卿ではないか!


 「オルス卿、どうなされた!」


 私は黒の魔導士を抱き起した。


 「これは魔王殿…」


 オルス卿は息も絶え絶えである。


 「魔王殿、ガストン様が討たれ申した!」

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