1 勘違い
私の名前は加瀬優芽、高校1年生です。絵を描くのが好きで美術部に所属してます。
見た目もはっきりいって地味です。
顔も可愛くないので、その顔を隠すために度の入ってないメガネをかけてます。
「ごめん!」
下駄箱にいたら前を見てないヒエラルキー上位の女子が当たってきた。
「大丈夫です。」
私が答えると近くにいた同じくヒエラルキー上位の男子が言った。
「花音大丈夫か?おい!気をつけろよ!!」
いや、そっちが当たってきたんだけど?
「こいつ、柚樹の地味でブスの幼なじみじゃん!」
私は下を向いてそのままいこうとした。
「おい!花音に謝れよ」
他にも女子や男子がやってきて私を囲んで言った。
周りの生徒もコソコソ言う。
「なになに?」
「花音ちゃんにあの柚樹くんのブスの幼なじみが当たったらしいよ」
「まじで?」
ザワザワしてくる。
早くここを離れたい…
呼吸がはやくなってくる。
目の前がクラクラしてきた。
男子が耳元で怒ってくる。
もうだめ…涙が溢れてきた。
視界が暗くなる。
頭に紙袋がかぶさっていた。
「柚樹!」
「柚樹くん!」
私の頭に袋を被せた男子の名前を呼ぶ。
田川柚樹、高校1年生、学年1位、バレー部のエース、顔もカッコイイ、正真正銘のヒエラルキートップの男子。
そして私の幼なじみであり小さい時からの初恋相手だった。
「俺の幼なじみがごめんな!」
「柚樹くんが謝ってくれたんならいいよ♡」
花音ちゃんが答える。
いや、そっちが当たってきたんだけど…
「じゃあ俺は、こいつ連れていくから~」
私は頭に袋を被せられたままどこかに連れて行かれた。
優しい心地の良い声が聞こえてきた。
「優芽、ゆっくり息を吐いて」
私の呼吸が落ち着いたのを確認して袋をとった。
「柚くんありがとう…」
私が過呼吸になっていたので袋を被せてくれたんだ。
やっぱり…昔から優しい。
「大丈夫か?水飲める?」
ペットボトルの蓋をあけて口元に持ってきてくれた。
口から溢れてこぼしてしまった。
「ごめん…」
慌ててカバンからハンカチを出そうと思ったら柚くんがペットボトルの水を自分で飲んでいた。
そしてそのまま私に口移しで飲ましてくれた。
「え?」
「もっと欲しい?ペットボトル飲むの昔から下手だな?」
「もっと?」
聞き直しただけだったのに…
また口に含んで飲ましてくれた。
私の頬を大きな手で撫ぜる。
部活中に突き指でもしたのか指にはテーピングを巻いていた。
「顔色良くなってきたな。」
「ありがとう…」
ニコっと笑ってくれた。
私の大好きな笑顔。
「この水あげるから、コップに入れて飲みなよ!」
「ちょっと待って!柚くん、口元に水がついてる」
私は持っていたハンカチで柚くんの口元をふいた。
「これくらい大丈夫だよ!」
頭をポンポン叩いていった。
「幼なじみなんだから当然だろ?それじゃあな!」
柚くんは颯爽と去っていった。
さっき助けてくれたのも、口移しも、私を好きだからじゃないことは分かってる。
柚くんは優しいから子供の時から鈍臭い私の面倒を見てくれているだけだと言うことも…
でも、今更、気持ちを伝えるとか…
そんな事は思ってない。
だって、関係が壊れるのは嫌だし…
振られるの分かってても振られたら悲しいから…
でも…
キスしちゃった。
人命救助みたいなものかもしれないけど……
私にとっては大好きな人としたキスだった。
教室に入ると、友人が心配して声をかけてくれた。
「大丈夫だった?」
「え?うん!」
「田川くんが助けてくれたの?」
「うん。」
他のクラスメイトも話しかけてきた。
「2人ってどういう関係?」
「幼なじみなの…家も近くで」
「そうなんだ!びっくりしたよ~ほら?言ったじゃん?2人が付き合ってる訳ないじゃん!」
「そうだよ!田川くんは皆に優しいから!!」
胸がチクチクと痛くなる。
改めて言われると苦しくなる。
「加瀬さん!ちょっと来て!」
美術部の部長が呼んでいた。
3年生の中でも美形で有名だ。
「はい!」
「今度の展示会の絵を1年代表で描いてくれないか?」
「私でいいんですか?」
「加瀬さんだから頼んでるだよ!モチーフは海の生き物だからね。」
展示会に出品できるなんて夢みたいだった。
「部長!頑張ります」
肩をポンポンと叩かれる。
顔がゆるんでいたんだと思う。
どこかから声が聞こえた。
「ブスが笑うなよ」
「本当それ?」
今日の下駄箱の人達だった。
顔がいっきに引き攣る。
「近藤部長!勘違いしちゃうから気をつけてくださいよ」
部長は冷えた目で見ていた。
「必要な画材を購入したらちゃんとレシート出してね!わかった?」
「はい!」
笑顔で答えた。
「それじゃ!また部活で!」
部長に笑顔で手を振った。
「誰?」
低い声が頭の上から聞こえてきた。
振り向いたら柚くんと隣に佐藤蘭くん、高橋隼人くんがいた。
3人が高校でスリートップと言われてるイケメンだ。
3人ともバレー部だった。
柚くんの顔を見る。
ガムを噛んでるのかモゴモゴしていた。
そのまま教室へ戻った。
その時、柚くんが「誰?」と聞いていた事を忘れて無視してしまっていた。
家でお風呂に入ってから作品のラフをキャンバスに描いていく。
海の生き物かぁ…
イルカかくじらかな?
悩んでいると…
誰かが部屋に入ってきた。
「ママ?ご飯後で食べるから…」
「ちゃんと食べないとだめだぞ」
見ると柚くんがトレーに飲み物を持って立っていた。
「来てたんだ?」
「ママが優芽に持っていけって…」
うちのママは柚くんが、可愛くてママと呼ばせていた。
「ありがとう。わざわざ」
テーブルに置いて、柚くんが後ろからハグしてきた。
私の肩に顔を乗せてきた。
「シャンプー変えた?いつもと違う匂いがする」
「ローズに変えたんだけど、もしかしてあんまり良くない?」
「ううん。俺は好きな匂い」
「ありがとう。」
「何描いてるの?」
「今日、部長が来てたでしょ?その時に展示会に出品する作品を、描いて欲しいって言われて」
「あ…あの人?」
「うん!そうだよ。3年だから柚くんは知らなかった?」
「うん…凄く優芽にベタベタしてたね?優芽の事好きなんじゃないの?あの男…」
私は笑って言った。
「まさかぁ!部長人気者だし、他校に彼女いるから!」
「そっかぁ」
ふと見ると柚くんが笑顔になっていた。
本当にかっこいいなぁ。
柚くんもお風呂に入ってきたのかシトラスの香りがする。
髪の毛ふわふわで気持ちいい。
「本当にふわふわで気持ちいい」
私は頬を柚くんの頭にくっつけた。
そして顔をグリグリ振った。
柚くんがぎゅーと強く腕を私の腰に回してきた。
「痛いよー柚くん!」
ベタベタしたの怒っちゃった?
やり過ぎだよね…
ごめん…
「お仕置…」
背中を何ヶ所も軽く口でつねってくる。
「ごめん!謝るから…」
「じゃあ、あの飲み物飲ませて!」
「わかった、」
口元に持っていく。
ストローで飲ましてあげた。
「ありがとう」
凄い色気…
ぎゅってされるたび、優しく話かけてくるたび、勘違いしちゃう…もしかして?私の事好き?
でも…
違うのは分かっている。
あれは小学生の時、家も近くだから行き帰りは一緒にしていた。
その日は委員会があって遅くなってしまった。
教室にランドセルを取りに来た時にヒエラルキー上位の子達が喋っていた。
「優芽ちゃんって柚樹くんの事すきなんじゃない?」
「そうか?」
柚くんが適当に答えていた。
え?皆にバレてた?
どうしよう…恥ずかしさでいっぱいだった。
「柚樹くん優しくしてるだけなのに勘違いしてそう!」
柚くんが顔をあげて言った。
「勘違いってどういう意味?」
「柚樹くんは可愛い子が好きなのに勘違いって意味」
また興味なさそうな顔して言った。
「そうだな…確かに俺は可愛い子が好きだな」
「やっぱりそうだよね!!」
身体中の血液が無くなったような感じがした。
柚くんも私の事もしかして…好きって思ってた気持ちが恥ずかしくなった。
気づいたらそのまま家に帰ってきて、道で吐いてしまった。
すぐに柚くんのママさんが来てくれて家で寝かせてくれた。
目を覚ました時に柚くんが心配そうに頭を撫ぜてくれた。
「大丈夫?優芽!ゆっくり休みなよ」
うん。
これから頑張って諦めていくよ…
今度から勘違いしないから一緒にいてもいい?
心の中で唱えた。
私の失恋だった。




