81話 リアルすぎるお化け屋敷
今回、城の屋内へ入ることになったのは、僕、シャル、ヒーちゃん、イーリスさん、レイリア、オルガさん、ケイト、アスールさん、アルタさん、ベルタさんの一〇人と護衛兵たちだ。
そして、アンさんのメイド部隊も一緒に来てくれることになって、とても心強くもあり、ありがたかった。
ただ、ミリヤさんは救護所に残って、指示を出さなければならないので、一緒に来てもらえないことを知ると、少し不安になる。
アンさんから、城の中に入る準備を終えたことが知らされると、僕たちは、開け放たれた扉を通り、中へと入って行く。
入り口付近の通路は、安全の確認がされているので、その通路を進んだ。
その足は自然と速くなっていく。
安全なところで距離をつめておかなければ、ルビーさんとネーヴェさんが何かをしでかす前に、追いつくことが出来ないだろうからだ。
通路を進んで行くと、途中から中央に絨毯が敷かれ、薄暗い廊下へと変わっていく。
そろそろ、安全が確認された範囲から外れる。
僕たちは、歩みの速度を落として進む。
血の匂いが徐々にきつくなっていき、充満してくると、カールエンドが思い出される。
アンさんとレイリアは、先頭に立ち、警戒をしながら進んでいる。
激しい戦いの跡なのか、廊下は絨毯が破けてはがれ、置かれていた花瓶は床に落ちて割れていた。
そして、風が吹くと、ボロボロになったカーテンがひらひらとなびいていた。
とても不気味な様相に変化していて、何か出そうな雰囲気で、少し怖い。
そんな不気味な廊下を進んでいると、ケイトが僕の傍らに近付き、腕を絡めてきたと思うと、服を掴んで引っ張ってくる。
「ケイト、そんなに引っ付かれると、歩きにくいんだけど」
「な、何言っているんですか? フーカ様が私に引っ付いているんですよ」
「じゃあ、この手は何? 服を握りしめるから皺くちゃなんだけど」
「気のせいです」
「じゃあ、離れてよ」
「嫌ですよ! あちこちに血痕があって気持ち悪いし、足場は悪いし、何か出そうで怖いじゃないですか!」
「言ってることが滅茶苦茶だよ。最初から怖いって言ってくれれば、僕だって文句を言わないよ!」
「フーカ様だって、怖いくせにカッコつけちゃって、なんかムカつきます」
「なんで、そこまで言われなきゃならないんだよ!」
僕とケイトは、ムッとした表情で睨み合う。
「二人とも、うるさいです。敵が潜んでいるかもしれないんだから、静かに歩いて下さい」
「「ごめんなさい」」
レイリアに叱られてしまった。
そもそも、ケイトはここに住んでいたんだから、そんなに怖がる必要はないじゃないかと心の中で思いつつ、彼女を見ると、目を合わせた途端、プイと横を向かれた。
ムッカー!
僕はケイトの手をほどこうとするが、がっちりとホールドされてしまっていた。
何もできなくて悔しい。
ケイトを振りほどけないので、歩きにくいまま、先を進む。
カラン。
何かが倒れた音が、静まった廊下に反響し、響き渡る。
「「ぎゃぁぁー!!!」」
僕とケイトは、驚き抱き合って、悲鳴を上げた。
アンさんとレイリアは剣を抜き、イーリスさんはシャルを護る位置に着き、オルガさんとヒーちゃんは、僕とケイトを護る位置に着いて構える。
しばらくジッと動かず、様子を見ていた皆は、廊下に静寂が戻ると、緊張を解く。
「「「「「物音ぐらいで、悲鳴を上げないで下さい!!!」」」」」
僕とケイトは、悲鳴を上げたせいで、皆に叱られてしまった。
「さっきから二人ともうるさいです。少しくらい我慢できないんですか! こっちはフーカ様たちを護るのに必死なんですから、少しは自重して下さい」
「「ごめんなさい」」
レイリアからきつい一言をいただいた。
しかし、怖いものは自重できないと思う。と言い返したかったが、彼女にキッと睨まれて、心の中でつぶやいて終わった。
「レイリアも皆も、そう目くじらを立てるな! 威力は低くなるが、人の姿でもブレスは吐けるから、いざとなったら吐くから安心しろ!」
「「「「「絶対に、吐かないで下さい!!!」」」」」
アスールさんは、僕とケイトを庇ってくれたのだが、とんでもないことを言い出し、逆に皆から注意された。
彼女と、その後ろにいたアルタさんとベルタさんは、しょんぼりとする。
人の姿でもブレスを吐けるなんて、初耳だよ。
どんなタイミングで言ってくるんだ……。
僕、ケイト、アスールさん、アルタさん、ベルタさんの五人は、しょんぼりしながら皆の後をついて行く。
ただ、廊下の床を見つめながら歩いていると、ふと、あることが頭に浮かぶ。
「ルビーさんたち、ブレス吐かないよね?」
僕の一言で、皆の表情は、険しく、少し焦りが見え始める。
そして、今まで慎重に歩を進めていたのに、歩む速度が上がっていく。
余計なことを言ってしまった。
おかげで小走りを交えて歩くことになってしまった。
廊下を進めば進むほど、激しい戦闘の痕跡が残り、灯りも消されていて、薄気味悪くて仕方がない。
特にケイトが「何か出そう」と言った言葉が耳にこびりついて、ここがお化け屋敷に見えてきてしまう。
「灯りが消され、ここまで不気味だと、お化け屋敷みたいだね」
僕がつぶやいた一言に、ヒーちゃんとケイトがビクッとする。
そして、ヒーちゃんに睨まれた。
「フー君。それは、今、言うべきことではないです。皆の不安を煽るのは良くないです」
彼女から注意されてしまうが、どこか声色に必死さを感じてしまう。
もしかして、ヒーちゃんはお化け屋敷の類が苦手なのかもしれない。
でも、ヒーちゃんたち神様の類も、お化けと大して変わらないのでは? と思ったが、これは口が裂けても言えないと、心の奥底にしまうことにした。
ガガガ、ピー。
無線機が静寂を切り裂く。
「「「ぎゃぁぁー!!!」」」
今度はヒーちゃんも加わり、三人で抱き合い、悲鳴を上げた。
何故か、僕とケイトだけが皆から睨まれる。
今回はヒーちゃんも一緒なのにズルい。
そんな中を、無線機を運ばされている兵士が気まずそうに、ケイトのそばへ来る。
ケイトは、何もなかったかのようにカッコつけて、兵士に対応すると、無線機の調整をした。
「敵は……ガガッ。まとまって、上層階へ……ガガッ。逃走した……ガガッ。ガー」
無線機から流れる途切れた通話を聞いて、僕たちは顔を見合わせ、上層階へ行くことにした。
ルビーさんとネーヴェさんも、きっと、敵をたどって上層階へ向かうはずだ。
竜族の先走る性格? を考えれば、妥当な決断だと思う。
僕たちは、現在地から一番近くの階段へ向かい、上の階へと進む。
階段を上っていると、僕にしがみついているケイトが脇腹を突いてくる。
「ヒャウッ!」
変な声をが出てしまうと、皆から睨まれる。
僕は皆に謝り、ケイトを睨みつけた。
「ごめんなさい。そんな声を上げるとは思わなくて……。ただ、さっき言ってた『お化け屋敷』って、どんなものか知りたくて……」
彼女の質問に、今、聞いてこなくてもいいのにと思いつつも、皆もお化け屋敷が何たるかを知れば、怖がるのは僕たちだけじゃないんじゃないか? と考え、同時に、いたずら心も芽生えた。
「ケイト、お化け屋敷ていうのはね。日本にある人をおどかすためだけに造った施設で、こういった不気味な廊下を歩いていると、突然、生首や手首が降ってきたり、死人が飛び出てきたり、窓から人が覗いてたり、多くの手が壁を突き破って出てきたりする建物なんだよ」
「「「「「ゴクッ」」」」」
皆からも、生唾を飲み込む音が聞こえた。
心の中で、しめしめと思う。
「わざわざそんな物を造るなんて、驚きです。ゾンビや死霊の類はミリヤ様がいないと浄化できないので、今は出て欲しくないです」
ケイトの言葉に僕の方が驚く。
ゾンビとかはいるかもしれないとは思っていたが、本当にいるとは……。
「ケイト、ヒーちゃんがいるから大丈夫ですよ。神使なんですから!」
「そうでしたね!」
シャルの言葉にケイトは安心する。
だが、ヒーちゃんは大きく首を横に振っていた。
「「「「「……」」」」」
皆の表情が一瞬で変わった。
「ヒ、ヒサメ様は、浄化はできないんですか?」
イーリスさんが、恐る恐る聞く。
「いえ、出来ます。でも……お化けとかは、あまり好きじゃないんです……」
「ヒーちゃん、お化けとか苦手なの?」
「違います。苦手とかそういうのじゃなくて、受け付けないだけです」
思わず質問してしまったが、ヒーちゃんは否定をする。
でも、世間では受け付けないことを苦手というんじゃ……。
皆も少し呆然としていたが、気を取り直して先に進むことにした。
お化け屋敷の説明の効果か、階段を上り切った時には、イーリスさんとシャルの顔色も悪くなっていた。
このまま階段付近で敵に襲われると、不利になるので、階段脇の広くなったスペースへ移動し、左右に延びる廊下を警戒をする。
物陰から何かがスーっと動き、ガシャンと床に叩きつけられる音を上げると、ゴロっと何かが転がる。
敵兵の死体だった。
「「「「「ぎゃぁぁー!!!」」」」」
イーリスさんとシャルも加わり、五人で抱き合い悲鳴を上げた。
お化け屋敷効果か、悲鳴を上げる人数が徐々に増えていく。
そんな僕たちをレイリアやアンさんたち軍属が、冷めたような呆れた目で見つめてくる。
そんな目で見られても怖いものは怖いんだ!
それよりも、僕とケイトだけの時に比べて、とられる態度の格差が気になる。
カン……、カン……、キン……。
廊下の奥のほうから、微かに金属音が聞こえてくる。
向こうで戦闘が行われているんだ。
僕たちは慎重に音のする方へと進む。
ここの廊下も薄暗く、窓から少し差し込む月明りが、より一層、不気味さを増していた。
そんな中をゆっくりと進んでいると、薄暗くてはっきりとは分からないが、何かがこちらへ飛んでくる。
ボトッ。
僕たちの足元に、斬られた人の手首が転がる。
「「「「「ぎゃぁぁー!!!」」」」」
僕たち五人は抱き合い、悲鳴を上げた。
本物の血まみれの手首が飛んでくるリアルすぎるお化け屋敷に、僕はちびりそうになる。
「いちいち、うるさいです。いい加減にして下さい。敵にバレてしまいます」
「「「「「ご、ごめんなさい」」」」」
僕たちは、真剣な表情のレイリアに叱られ、謝る。
敵がそばにいることが分かって、レイリアたちが緊張しているのは分かるが、血まみれの生々しい手首が足元に転がれば、一般人は怖いんだよ……。
金属音のしていたあたりへ到着すると、すでに戦闘は終わったのか、生々しい血だまりと、そのそばに数人の死体が転がっていた。
血の匂いが濃く充満していて、足元はぬるぬるしている。
そして、目を見開いたまま横たわる少し前まで生きていた人たちを見ていると、恐怖と気持ち悪さで、おかしくなりそうだった。
死んでいる敵兵たちに向かって、拝みながら先に進むと、さらに死体は増えていき、騎士と貴族が多く見られるようになっていく。
死んだ人を悪く言いたくはないが、この人たちが悪政を敷かなければ、こんな怖い目に合わなかったのにと、心の中で八つ当たりともいえる言葉を吐いてしまう。
コンコン。
突然、窓を叩く音がした。
敵がまだいるのかと、僕たちはビクッとして、すぐに壁に背を張り付ける。
これには、レイリアやアンさんたちも驚いていた。
周りに敵兵がいないことを確認し終えた直後の物音だったからだ。
彼女たちは剣を抜き、警戒するが誰もいないし、気配もない。
そして、物音は、窓の外側から聞こえたようにも思える。
アンさんは、恐る恐る窓に近付き確かめると、こちらを振り向き、首を横に振って異常がないことを知らせた。
僕たちはホッとする。
風で何かが窓にあたったのだろう。
そういうことにしておこう。
アンさんは、静かにこちらへ戻って来る。
それを僕は見つめる。
ヒョコッ。
彼女の肩越しに、窓の外側から覗く二つの顔が見えた。
「「「「「ぎゃぁぁー!!!」」」」」
レイリアとオルガさんも、僕たちと一緒に悲鳴を上げ、皆でアンさんの後ろを指差す。
彼女はすぐに振り返り、剣を構えるが、二つの顔は引っ込んでしまっていた。
彼女は窓に近付き、再び確認をするが、こちらを振り向き、首を横に振って異常がないことを知らせ、首を傾げながら戻って来る。
ヒョコッ。
再び二つの顔が、アンさんの背後の窓に現れた。
「「「「「ぎゃぁぁー! 後ろ! 後ろ!」」」」」
僕たちは悲鳴を上げ、指差して叫ぶ。
アンさんはすぐに振り返りるが、二つの顔は引っ込んでしまって、彼女は確認できなかったようだ。
コントか! 僕は心の中で叫ぶ。
これ以上は、本当にやめて欲しい。
本当に、ちびるかもしれない。
アンさんは、とても気になっているようで、首を傾げてこちらに向く振りをしたと思ったら、すぐに窓へと視線を戻したりする。
ヒョコッ。
彼女は二つの顔と視線を合わせると驚き、こちらへ後ろ向きのまま飛び退いた。
コンコン。
「ここを開けて下さい!」
窓の外側から覗く顔が、窓を叩いてしゃべった。
「「「「「ぎゃぁぁー!!!」」」」」
僕たちは悲鳴を上げる。
少しちびったかもしれない……。
シャル、ケイト、イーリスさん、ヒーちゃんは、恐怖のあまり、身体をフラフラさせて、今にも倒れそうだ。
アンさんは警戒しつつ、カギを外し、窓を開く。
すると、二人の翼を生やした女性が飛び込んできた。
ルビーさんとネーヴェさんだった。
二人に姿を見て安堵した僕は、壁に寄りかかったまま、へたり込む。
ケイトは泣き出し、シャルとヒーちゃんは、目に涙をためている。
僕たちは、気持ちが落ち着くまで少し時間をもらい、それから、 ルビーさんとネーヴェさんに事情を聴いた。
二人は、ハウゼリア兵を見つけたが、見失ったため、一度、城の外に出て、外から窓越しに見つけていたのだが、何処も窓に鍵がされていて、中に入れなくなてしまったそうだ。
何とも人騒がせなことだ。
そして、もう一つ人騒がせなことがある。
それは、竜族が人の姿のままでも、翼を出して空を飛べるなんて聞かされていないことだ。
僕は、アスールさんを問いただすと、彼女は「そんなことは、聞かれていない。それに、皆、知っていることだぞ。ふわぁー」と、あくびをしながら返してくる。
僕だけが知らされていなかったのかと、シャルたちを見るが、彼女たちも首を大きく横に振って、知らなかったとゼスチャーする。
再び、アスールさんに視線を戻すと、彼女は眠そうな目をこすりながらこちらを見て、首を傾げる。
その姿を見たら言葉も出ず、うなだれるしかできなかった。
とりあえず、目的のルビーさんとネーヴェさんを探し出すことは出来た。
この後は、戻るよりも、このままシリウスたちに合流したほうが安全だろうとの意見が多かったので、彼らと合流することにした。
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